今回は身の回りにあるけども、普段レビューを書かなそうなアイテムをピックアップしてみよう、ということで、インチねじについて割と本気でレビューを書いてみることとした。
こんなの、年末のちょっと暇な時じゃないと出来ないしね。
ネジの歴史と日本への伝来
ネジの起源はいろいろな説があるようだが、日本にネジが伝わったのは1543年(天文12年)だ。
種子島に漂着したポルトガル人から2挺の種子島型火縄銃を領主の種子島時堯が買い入れたのだが、火縄銃の尾栓で使われていたのである。
砲身の曲がりを矯正したり、中に残ったカスを取り除くために火縄銃の尾栓には取り外し可能なネジが使われていた。
時堯は2挺のうちの1挺を刀鍛冶の八坂金兵衛清定に与え、複製するように命じたのだが、当時はもちろん統一規格などはなく、一つずつヤスリで手作りした雄ネジを熱した砲身に取り付け、ハンマーで叩いて雌側を作るという手法が採られていたようである。
ネジを作る際にその方法が解らず、八坂金兵衛清定は娘を差し出してその製造方法を知ったという昔話を聞いたことがある人もいるかと思うが、「若狭姫」という鹿児島県種子島の民話として伝わっているものだ。
若狭姫について詳しく知りたい方は、下記のURLがオススメだ。
http://www.furusato-tanegashima.net/teppou/wakasa.html
http://hukumusume.com/douwa/new/2010/06/18.htm
なお、Wikipediaによると
若狭の結婚の話は「八板家系図」と口承のみであるが、史実であれば、日本人と西欧人の結婚としては日本初のものである
ということで、日本で最初に西欧人と国際結婚をした人は若狭であるらしい。
インチねじの規格
さて、早速今回のレビュー対象であるインチねじについて確認していこう。
ネジには様々な規格があるが、おおよそJIS規格とISO規格、管用ねじに分類される。
JIS規格は日本工業規格の略称で、その名の通り日本独自の規格であるが、JIS規格から国際的な標準規格であるISO規格に近づけられている。
ただし、旧来使われてきたネジで、ISO規格にはないものも存在するため、いろいろと複雑なことになっている。
インチねじのJIS規格での分類は「ユニファイ並目ねじ(現行規格JIS B 0206:1973)」となる。
ユニファイ並目ねじはUNCと略され、ユニファイ細目ねじ(UNF)と比べるとピッチが広い。
このため、ミリネジと比べて目視でもすぐに判別が可能だ。
上の写真は、左側がインチねじ、右側がミリネジだが、ねじ山のピッチがまったく異なるのが解るだろうか。
PCで使われているインチねじは、ユニファイ並目ねじの中でもNo.6-32と呼ばれるものだ。
ネジの種類がNo.6、32は1インチあたりの山数が32であることを示す。
ネジの長さは6mm程度が一般的のようだ。
対応するドライバーに注意
インチねじの多くはプラスねじとなっている。
プラスねじは+常にネジの中心にドライバーが保持できるため片手でも作業が可能になり、締め付け始めの安定感が格段に良くなったことが最大のメリットだ。
PCの組立においてもそのメリットは遺憾なく発揮されている。
特にドライバーが滑ってしまうと精密部品にドライバーが直撃することにもなるため、主にプラスねじが使われている理由ともなっている。
デメリットとしてはカムアウト現象から逃れることはできないという点だ。
マイナスネジは中心を常に保持するのが難しい反面、トルクを伝えやすいというメリットがある。
カムアウトとは十字穴付きねじをドライバーを用いて締付けを行なう際に、上から押さえつける力(推力)が小さい場合等に、十字穴からドライバーが手元に浮き上がってくる現象のことで、しっかりドライバを押さえていないとドライバが浮き上がり、ねじ山をなめて(潰して)しまうこととなる。
PCパーツの場合はそれほど大きなトルクで締め付けることは無いので問題になることは少ないが、粗悪なネジをHDDに取り付け用として外れなくなる、といったことは希にあるので注意が必要だ。
PCの組み立てで使用するドライバーはNo.2と呼ばれるものが一般的だ。
No.2というドライバーであっても、先端が太いものと細いものの2種類があり、適合しないドライバーを使うとカムアウトしやすく、ネジを破損することに繋がるのでネジに合わせたドライバを選びたい。
同じプラスドライバーでもこのように先端の太さはかなり異なる。
PCの組立には右側の、幅広いものがオススメだ。
私が愛用しているのはベッセル(VESSEL)製のメガドラ貫通ドライバー プラス2×100 No.S-930だ。
ドライバーの先がグリップを通じて柄の末尾まで通じている貫通ドライバーなので、ねじ山がなめてしまった場合でもハンマーで叩くことでねじ山を強制的に作り出し、取り外すことが可能だ。
貫通ドライバーの副次的なメリットとして、ドライバーの軸が貫通しており、グリップの末尾にはハンマーで叩くための金属プレートが埋められており、グリップ側に適度な重量がある点である。
このメリットを活かし、「ドライバーの軸先を持ってハンマーとして使う」といった荒技も可能だ。
実際、石膏ボードの釘打ちくらいであればドライバーだけで用が済んでしまうため、とても便利だ。
ただし、ドライバーのグリップ部分はそういった使い方を想定していないため、傷だらけとなるので注意が必要である。
ネジの製造方法
ネジの製造方法は2工程に分かれ、工程1では頭の部分を成型、ネジの溝が無いリベット状の物を作る。
工程2で軸にネジの溝を作り、完成となる。
頭の部分の成型は「塑性加工」という、金型をネジの材料となる金属に叩き付け変形させる方法が一般的だ。
ネジの頭の部分の加工には2つの金型を使い、初回でネジの頭のおおよその形を作り、2回目でドライバー用の溝を作る。
常温で、塑性加工により作業することを「冷間加工」と言い、冷間加工により頭部のついたリベット状の物を作る機械のことを、「ヘッダー」(冷間圧造機)と呼ぶ。
ヘッダーで2回加工を行うことから、この製造方法は「ダブルヘッダー」と呼ばれている。
ヘッダーで加工された、リベット状の溝が無いネジは、ねじの溝が切られた金型2枚の間に挟まれ、転がされることで溝が生成される。
このように、転がして溝を作ることを「転造」と呼ぶ。
それぞれの加工については以下のYoutubeにある「株式会社丸ヱム製作所 ブルドッグチャンネル」の動画が素晴らしくわかりやすいので、オススメだ。
ねじ製造工程アニメーション 圧造
ねじ製造工程アニメーション 転造
製品の作り
今回のレビュー対象のネジであるが、頭の裏側に凹凸があるのが見てお分かりだろうか。
ネジが接している面の微小な凹凸が経年変化や振動などで摩耗することで隙間ができ、軸力の低下、つまりねじのゆるみが生じてしまう原因となる。
ゆるみを防ぐために、歯付き座金などを使うことがあるが、簡易的にゆるみを防止するために裏側に凹凸を設けられているものと思われる。
斜めに切られた傾斜の方向を見ると、ネジの締め付け方向には緩く、逆に外す向きには鋭角に切り立っているのが解るだろうか。
タイラップ(結束機、ナイロンタイ)を思い出すとわかりやすいと思うが、締める方向には力が掛かりにくく、逆に緩む方向ではしっかりとエッジが接地面を捉えることで緩み止めの効力を発揮する。
メーカー製のPCではゆるみを防止するため、上の写真のような歯付き座金が使われていることもある。
このようなネジは座金がしっかりと被締結物に食いつくため、簡単に緩むことはない。
ネジの緩みは思わぬ故障に繋がることもあるため、ネジをいった些細なパーツではあるが、コスト的には不利になる歯付き座金付きのネジを使用していることは、メーカーの姿勢を表しているとも言えよう。
ネジの頭側には、しっかりとプラスドライバー用の溝が塑性加工で刻印されている。
よく見ると、溝のところに点があるのが解るだろうか。
これはネジを締め付け最後にトルクを加える際、どれくらいネジが回転したかわかるように付けられた目印だ。
ネジはどれくらい回したか解りづらいため、よくペンで印を付けておくことがあるが、その代わりにこの目印の向きを覚えておけば、最後に半回転締め付けることも容易だ。
ネジの頭は六角形になっており、そのままナットドライバーでの締め付けも可能のように思われるが、このサイズに適合するナットドライバーが不明だ。
家にある6mmサイズでは先端が噛むか噛まないか程度で、7mmだとぶかぶかである。
間の6.5というサイズくらいがちょうど良さそうだが、こんな中途半端なものがあるか不明だ。
しかも、ネジを側面から見ると台形になっており、ナットドライバーにピッタリはまる形状ではない。
塑性加工を行う際に断面が真四角だと金型から外れにくい為だと思われるが、この形状ではナットドライバーにきちんとはめることは不可能だ。
おそらく、六角形のナット形状なのはねじ穴がなめてしまっても、ペンチやモンキーレンチで挟んで回すことが出来るようにしているためと思われる。
ネジの溝は転造でしっかりと溝が作られており、実際HDDなどのねじ穴に挿入した際の挙動もスムーズだ。
ネジの軸の先端は、転造で作られた際の痕とも言える凹みがある。
リベット状の軸に転造で溝を作る際、金属が押されて表面が延びる。このため、中心部よりもねじ山の部分のほうがせり上がった、くぼみとなっているのだ。
素材は鋼鉄だが、クロームメッキが施されており、錆に対する耐性も高いと思われる。
まさに、PCの縁の下の力持ち
いつも何気なく使っているインチねじであるが、PCがこうしてトラブルなく動いているのも、各所に使われているネジがしっかりとパーツを保持してくれている為である。
特に、重量級のビデオカードを支えるインチねじなどは重要で、これが緩んでしまうとパーツの接触不良、最悪はビデオカードが破損する可能性だってあり得るだろう。
そういった意味でも、縁の下の力持ち的なのが、こういったネジであると言えよう。
なお、インチねじにはいくつか種類があるが、今回レビューで取り上げたネジは比較的接地面積が大きいため、ビデオカードやHDDなどの取り付け用に適している。
マザーボードによっては、穴の周囲にすぐパーツがあったり、グランド用のハンダエリアが狭く、パターンとネジが被りそうなものもあるので、そういった場合はこのような大きなネジではなく、頭が小さいネジを使用した方が良い。
同じインチねじといっても種類はいくつかあるため、要所要所で使い分けていくように心がけたいものだ。
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購入金額
0円
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購入日
2015年12月30日
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購入場所
Schrödingers Katzeさん
2015/12/31
知ってたことも知らなかったことも沢山でした。
身近なものも色んな人の知恵と工夫で出来てるのですな。
次はミリネジですかねw
ちょもさん
2016/01/01
無駄に頑張ってみましたw
ミリネジは…記事のほとんどが被りそうなので、辞めておきますorz
Vossさん
2016/01/03
ちょもさん
2016/01/03
HPのやつですよね、フロントからスライドしてドライブ入れられるように円柱形になったやつ。
我が家にもたくさんありますw