レビューメディア「ジグソー」

キャッチーな曲でもアクはある。色のあるギターを弾く男、Char

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。デビュー時から立ち位置や方向性が変わらず、周りのスタッフもほとんど不変、という平穏な芸能生活を送るアーティストもいますが、長く活動を続けるアーティストの多くは転籍や芸風の変化というような内部的・外部的要因によって「変わって」行きます。若いうちから独自の「カラー」を確立しながらも、あえてそれを壊すことで先に進もうとしたアーティストの作品をご紹介します。

Char。日本では希有な色のあるギターを弾ける男。デビューして瞬く間にギター小僧からは神のようにあがめられる立場になったにもかかわらず、我が道を行き、30代の半ばにしてインディーズレーベルを立ち上げる。時は1980年代末、今のようにインターネットが発達しているわけではなく、まだパソ通の時代。そんな時に大手のレコード会社のプロモーションを捨て、自分の力で立ち上げた江戸屋レコード。電話注文、代引きを基本とした独特の販売形態はフリークにはそのレア感の醸成により熱く受け入れられたが、普通の街のCD屋に流通しないというのは一般的なアーティストの二大欲?のひとつを放棄する事でもあった。

アーティストは一般に「うるさい外野に煩わされず自分の音楽を極めたい」という気持ちと、「自分の創り出したものをより多くの人々に聴いてもらいたい」という気持ちがある。この比重がどちらに傾いているか、というのはアーティストによって違うのだろうが、どちらかがゼロというアーティストはいないだろう。独自レーベルのインディーズでの発売というのは前者は満たせても、後者は難しい。特にCharはマネジメントなども自分の会社で行っていたため、全てが自前。

その限界を感じたのか、大手レコード会社に復帰したのが20世紀末。その復帰2枚目のシングルが本作。それまでの10年間の「深く」しかし「閉じた」世界ではなくて、脇を固めるプレイヤーも少し目新しく、新しいCharの世界が広がる。

「Touch my love again」。この組み合わせは面白いかも知れない。オルガンとアレンジをMISIAのバンマスとしても有名な重美徹、コーラスアレンジ(と実際のコーラスにも参加)も重美つながりで佐々木久美とソウル系で固める一方、リズムは岡沢章+神保彰というフュージョン系凄腕コンビ、曲を彩るストリングスアレンジ(実際にはシンセサイザー)がJ-POP・アイドル系へも曲の提供が多い長岡成貢というもの。かなりそれまでのCharとは違う感じのキャッチーな曲調。特にストリングスのオブリが目立っていて、それまで「JOHNNY, LOUIS & CHAR(PINK CLOUD)」、「PSYCHEDELIX」といったスリーピースロックグループをやっていたのに比べると煌びやかでキャッチー。でも間奏のクラビ風の音とハモンドバックにワウの魔術師(Char)が「濃く」弾き倒すソロはさすが。

懐かしの3rdアルバム(1978年!発表)からの「THRILL」はライヴでメンツは違う。盟友Jimmy Copleyのドラムスに澤田浩史がベース、キーボードはミッキー吉野。これはCharの衰えないカッティングとオリジナル(名手Robert Brill)を上回るスピード感溢れキレスルドイJimmyのドラムに尽きる。アウトロのギターソロの前のローズがホントセンスいいな。

「Touch my love again(Instrumental) 」はヴォーカルが消えてCharのバッキングの上手さが光る。ミュートピッキングとプリングオフやハンマリングオンなどが複雑に絡んだ柔らかいコードの奏法がよく聞こえる。ワウギターのソロが始まるとすべて持ってかれるけれどw

この20世紀末~21世紀初めのメジャーレーベルでの活動がCharの最後のメジャーでの活動で、その後ふたたびインディーズでの活動となる。ただ現在のインディーズ状況はインターネットの発達で昔とは全く違う。

一度インディーズを経験した後、できる事、できないことを識って表舞台に戻ってきたChar。一時期と比べるとキャッチーに振った感はあるけれど、それはあまり組まないメンツとの共演と合わせて新鮮な感じ。でもその中にも彼独特のアクが感じられ、濃い。
面白いのは12cmケースなのにCD本体は8cm径と言うこと?
面白いのは12cmケースなのにCD本体は8cm径と言うこと?
この頃のキャッチーに振ったCharを「迎合だ」と嫌う人もいるけれど、芸歴20年を越えたあたりでの新たなる挑戦、という方がしっくりくる出来です。

【収録曲】
1. Touch my love again
2. THRILL(Live)
3. Touch my love again(Instrumental)

iTunes “Touch My Love Again - EP”
  • 購入金額

    1,050円

  • 購入日

    2000年頃

  • 購入場所

17人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (1)

  • cybercatさん

    2021/08/31

    PSYCHEDELIXはスリーピースバンドか、というご質問があったので。
    時期によって違うが、一番濃かった部分はスリーピース、というのが正解のよう。
    ・前身の「Char & THE PSYCHEDELIX」時代は、CharとJimmy Copley(ドラムス)、Jaz Lochrie(ベース)、佐藤準(キーボード)、Ann Lewis(コーラス)
    ・PSYCHEDELIXとしての1stと2ndはCharとJimmy、Jazのスリーピース
    ・3rd以降はJaz脱退により、CharとJimmyのユニット(ベースはChar兼任)
    ということで、PSYCHEDELIXのオリジンはスリーピース、後期はやめたベースを補充しなかった...という感じです。

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