レビューメディア「ジグソー」

新旧交代の布石

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。「ライヴ盤」というのをどう位置づけるかというのは難しい問題です。音の構築ではスタジオ盤に劣り、臨場感やその場の空気感では生にはかなわず、疑似体験としては映像作品に劣ります。しかし、その中には一期一会的に「この組み合わせが!」と驚くメンツの交錯があったりします。リリース時はそこまで注目されていませんでしたが、あとから見ると「あのとき」だったんだな、という作品をご紹介します。

T-SQUARE。もう少しで結成40周年(デビュー後ではない)を迎えようかという「ジャパニーズフュージョン」の老舗バンド。これだけの長寿バンドなのでさすがにメンバーチェンジ皆無とはいえず、全期間通して在籍するのはリーダーでギタリストの安藤正容(以前は「まさひろ」と表記)一人だけ。次に長いのがサックス&ウインドシンセの伊東たけしで30年ほど。

しかし、伊東は結成後10年ほどしてから加わったのではない。結成時はサックスレスだったこのバンドに結成翌年のメジャーデビュー前から加わっている。実は一時彼はソロ活動に専念するためグループを脱退しており、その期間は1991年から2000年の10年間。その間は二人のサキソフォニストがこのグループを支えた。その一人本田雅人は1991年の“NEW-S”で伊東時代を軽々ぶっちぎるテクニックとテンションをぶち込んだハイパーデジタルチューン「Megalith」で鮮明に登場したし、その引き継ぎ?はそれに先立つ1ヶ月前の“T-SQUARE LIVE FAREWELL & WELCOME”(後にCD化される)だった事になっているが、実は本田とT-SQUAREとの接点はもう少し遡る。それがこのライヴ盤。

1990年に行われた2個所のライヴ(2月東京厚生年金会館、4月大阪フェスティバルホール)の収録。ちょっと普通と違うのは編成。この時のライヴはメンバーだけではなく、ゲストとしてパーカッションに直前の作品“NATURAL”

で叩いていたSteve Reid、生ブラスセクションに村田陽一グループが加わっていた。このブラス隊の中に後にT-SQUAREのサックスを務めることになる本田がいた。

ある意味新旧サキソフォニストの交差点といえる作品。そういう目で改めて見ると選曲が結構通好み。

アディショナルミュージシャンのSteve Reidが加わった直前リリースの“NATURAL”からはさすがに2曲選ばれているが、その両曲とも結構既に崩している。特に「CONTROL」はオリジナルの構築された「プロデューサーRuss Freemanの世界」(Russ FreemanはLAで人気のフュージョングループRippingtonsのリーダー)とは異なり、安藤のギターソロも結構攻めてるし伊東のEWIソロもライヴならではの盛り上がり。その割りには則竹裕之と須藤満のリズムセクションは複雑なラインを正確無比に再現しライヴのダルな感じを受けない、良演。

初期の隠れ名曲「LICKIN′IT」。オリジナルは初出当時メンバーだった雅楽系も守備範囲のパーカッショニスト仙波清彦のコミカルなSEと大きめのエレピのバッキング等が目立ち音数が多い。当時ツインギター(安藤の他に御厨裕二が在籍)でサポートキーボーディスト(正キーボディスト宮城純子に加えアレンジャー兼務で鷺巣詩郎が在籍)もいた一番在籍人数が多い時代で、かなり賑やかなアレンジ。このライヴアルバムでは、やはりサポートメンバーが多くて賑やかではあるもののブラスセクションとキレの良いパーカッションという事でかなりファンキィ。構成的にもライヴならではのブッ飛んだ安藤のソロと静~かに始まるサックスソロが段々キレッキレッになっていくアタリなど魅せ場は多い。サックスソロのあのラインはひょっとして本田??

ラストの「A FEEL DEEP INSIDE」はなんと1stの1曲目。後にメンバーに加わる本田への旧曲の紹介かよ、という感じの選曲。ベースのスラップのパターンがちょっと時代がかってるかな。でもピアノソロはオリジナルの宮城純子よりいいかもしれない。たぶん歴代T(HE-)SQUARE史上最も「ピアノ」が上手いのがこの盤で弾く和泉宏隆と思われるので...(シンセ等まで含めたキーボード全般だとまた異論は出てくるだろうけど)

このライヴ、黄金期メンツでプレイもいいし、ブラスセクションはゴージャスだし、実はメンツ的にも新旧の共演が聴けるし、いい盤。

ただ装丁的に損をしてるかな。

故Ayrton Sennaがつけた一番大きな数のカーナンバー27(蛇足:カーナンバー27は結構翌年チャンプとか前年チャンプがつけることが多かった「伝説のナンバー」)をいただくmarlboroカラーのMcLaren MP4/5Bが大きく描かれたジャケット、そして“feat.F-1 GRAND PRIX THEME”の副題で、F1人気にあやかった便乗盤、との印象を与えてしまったのは残念。特に「GRAND PRIX」や「TRUTH」、「IN THE GRID」といったF1関係の楽曲を集めた“F-1 GRAND PRIX”なるベスト盤(こっちは単なるベスト盤)がこれの約1年前に出たのだが、これも中嶋悟のF1カーを装丁に使っていて結構売れたので、その2匹目の...という感じを与えてしまい、意外に古参ファンには受けが悪かったとか。実は自分もそう思って初出時には手に入れず、入手は2001年の再発盤。

でも装丁に惑わされないで聴くと実は古い曲まできちんと網羅したベストメンバーによるベストライヴテイクだと判る。
Ayrtonの駆るMP4/5Bは一般受けはいいだろうが、ミスディレクションか...
Ayrtonの駆るMP4/5Bは一般受けはいいだろうが、ミスディレクションか...
噛めば噛むほど...そして背景を識れば識るほど...の味わい深いライヴです。

【収録曲】[]内初出オリジナルアルバム
1. STIFF NAILS[3rd album “MAKE ME A STAR”]
2. MISS YOU[13th album “Yes,No”]
3. WRAPPED AROUND YOUR SOUL[2nd album “MIDNIGHT LOVER”]
4. CONTROL[15th album “NATURAL”]
5. RADIO STAR[15th album “NATURAL”]
6. LICKIN′IT[2nd album “MIDNIGHT LOVER”]
7. DOOBA WOOBA!![14th album “WAVE”]
8. 脚線美の誘惑[6th album “脚線美の誘惑”]
9. TRUTH[12th album “TRUTH”]
10. A FEEL DEEP INSIDE[1st album “LUCKY SUMMER LADY”]

「LICKIN′IT」

  • 購入金額

    2,854円

  • 購入日

    2001年頃

  • 購入場所

23人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (8)

  • パッチコさん

    2015/06/22

    昔MIDIをかじってた時によく使いました。
    EL・Mirage入ってたのは別のアルバムでしたっけ。
    結構記憶がぼんやりですね。
  • cybercatさん

    2015/06/22

    「El Mirage」も和泉の粋なメロディラインが際立つ名曲ですよね(「宝島」系)。
    あれはアルバムとしては“Yes,No”です。
    再録テイクはここらへん↓に入っていますが。

  • 北のラブリエさん

    2015/06/22

    私もEl Mirageは打ち込みやりましたw
    Amazon
    これにも入ってますね。
    パッチコさんの仰るのはこっちかな。
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