レビューメディア「ジグソー」

ボカロなのに正統派ポップス!←いや、「ボカロ」とわざわざ断る必要がもはやない

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。技術の進歩はいろいろな楽器を創ってきました。そしてその楽器の黎明期は「その楽器にしか出せない」「他の楽器に似ていない」ということが重要ですが、そのうちあまり突飛な音は使われなくなります。ボーカロイドというある意味「最新の楽器」ともいえるソフトを使った作品で、奇をてらうことなく直球で勝負しているアーティストの作品をご紹介します。

40mP。ボカロP(プロデューサー)というとボーカロイドを使って作品を発表する人達。以前は動画サイトや愛好者向けのCDなどのごく狭いフィールドでの音楽だったが、現在では大規模なコンサートが行われたりして市民権を得てきた。そのジャンルの一般化に大きな功績があるのが40mP(40メートルP)。

2013年、NHKの「みんなのうた」で放送された「少年と魔法のロボット」。♪弱虫な少年は、自分の声に自信が持てず/人前で歌うことができません♪♪コトバとメロディーを/教えるだけで、ほら/思い通りに歌う魔法のロボット♪と、あたかも自身とボーカロイドのことを歌ったかのような歌詞とポップで入り込みやすいメロディで、「みんなのうた」史上初という「人間以外が歌ううた」ながら高い人気を得た。ボーカロイドのような人工合成の声を博覧会などの「見世物」ではなく、きちんと「音楽」として万人が受け入れたのはこの曲がきっかけのように思う。

その直前(2013年3月)に出たのが3rdアルバムとなる本作。ヴォーカルパートがボーカロイドであることを特別視せず、よい音楽を届ける40mP。ボーカロイドを使う歌というモノは、爆速系

や超高音系

のように人には歌うことが困難な歌(それでもそんな曲を「歌ってみた」ひとが多数出るのは、それはそれで人の無限の可能性を感じるのだが)が多いというイメージが強いかもしれないが、40mPの楽曲はあくまで直球。

とは言ってもw、彼の曲の中では無機質な感じがする「シンタイソクテイ」からアルバムは始まる。Aメロのあまり抑揚がなく音程もほとんど動かないボーカロイドくさいメロディであれ?と思うが、Bメロ~サビになると素晴らしくキャッチ―で心に入る40mP節。その落差が新鮮だ。これは40mPの名前の由来にもなった、作品発表当初から使っているVOCALOID初音ミクを使った曲(彼の投稿2作目「Melody in the sky」の動画(というか静止画)に出てくるシルエットのミクが背景の街並みと比較すると巨大に感じられ「このミクは身長40メートルだ」と言われたのが彼の名前の由来)。

「シリョクケンサ」はシロフォン系のシーケンスパターンとシンコペーション系の突っかかったリズムが目立つAメロ、のびやかなBメロ、覚えやすいサビの対比が素晴らしい良曲。この曲では最近40mPがお気に入りの?VOCALOID、Megpoidを使っている(「マクロスF」のランカ・リーなどを務めた中島愛(めぐみ)が音声サンプルをあてているので、「Megpoid」という商品名だが、一般的には製品パッケージにかかれるイメージキャラクター「GUMI」の名で呼ばれる)。VOCALOIDとしてはかなり初期に創られた初音ミク(原型はVOCALOID第2世代の初号)に比べて、VOCALOIDが第2世代から第3世代に進化するあたりで手掛けられた「Megpoid」は完成度が一段と上がり、機械臭さが少なくなっている。40mPのボカロ曲というよりはJ-POPと呼んだ方がしっくりくる曲調に違和感なく溶け込んでいる。
ランダム特典のストラップは白衣のGUMI♡
ランダム特典のストラップは白衣のGUMI♡
「ドレミファロンド」はとなりのトトロの「さんぽ」を彷彿とさせるような楽しい曲。動物の鳴き声がバックで聞こえて賑やかで、行進曲風のマーチングスネアが楽しい。これはLowland Jazz

もハッピーにカバーしているけれど、元曲の方がもっと楽しい。「さんぽ」が既にアニメソングというよりは童謡として認識されているように、将来この曲もそうなれば楽しいな。
特典のマウスパッドはジャケットと同じ絵柄ながら、サイン入りのシークレット
特典のマウスパッドはジャケットと同じ絵柄ながら、サイン入りのシークレット
他にもバラードあり、フォーク系ニューミュージックありと楽しめる。特に最後の3曲ほどは、ゆずかコブクロかという雰囲気の曲で全く直球(そういえば40mPの曲をカバーしたギタリストおさむらいさんとの対談でふたりともゆずが好きだと言っていた)。ボーカロイドならではという部分は全くないが、逆にボカロ曲らしくしなければならない、なんて束縛からは全く自由。

シンセサイザーやサンプラーも出始めの頃は「いかに人と違った使い方を呈示するか」という「使い方をさぐる」ような演奏が多かったが、今ではすっかりそんなこけおどしのような使い方は廃れ、昔からあった楽器のように音楽に溶けこんでいる。ボーカロイドも一時期の「人には出せない」声音を使ってボーカロイドであることを強調したモノから、曲の一構成要素としてのボーカロイドというように作り手も聴き手も成熟してきた。

ボーカロイド、あるいはボカロ曲が「ふつう」に感じられる日はそこまで来ているのかもしれません。

【収録曲】
1. シンタイソクテイ / 40mP feat. 初音ミク
2. 少年カメラ / 40mP feat. GUMI
3. シリョクケンサ / 40mP feat. GUMI
4. 夢の中の恋人 / 40mP feat. 初音ミク
5. 八月の風 / 40mP feat. GUMI
6. ハートブレイク・ヘッドライン / 40mP feat. GUMI
7. 純情スカート / 40mP feat. 初音ミク
8. ナケナシノチカラ / 40mP feat. 初音ミク
9. 17cm / 40mP feat. GUMI
10. 雨とアスファルト / 40mP feat. 初音ミク
11. 通勤列車 / 40mP feat. GUMI
12. 春に一番近い街 / 40mP feat. GUMI
13. ドレミファロンド / 40mP feat. 初音ミク
14. ほころび / 40mP feat. 初音ミク・GUMI
15. Smile again / 40mP feat. 初音ミク・GUMI

「シリョクケンサ」

  • 購入金額

    2,057円

  • 購入日

    2014年12月27日

  • 購入場所

    フタバ図書

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