レビューメディア「ジグソー」

音楽でメシを喰う≠音楽を使ってメシを食う

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。何度か取り上げていますが、音楽業界という世界、そこに入る多くの人は「好きな音楽をやって生きていきたい」というアーティスティックな欲求、「素晴らしい音楽を世に広めたい」という情熱でやっているのでしょうが、やはりそこは「商売」の世界。アーティストと制作側の気持ちやベクトルがずれることはままあります。そんな問題作をご紹介します。

宇多田ヒカル。20世紀末に彗星のように現れ、

およそ12年の活動を持って活動を休止したアーティスト。2000年代初頭のディーヴァブーム、ソウル系J-POPの興隆に大きな影響を与えた。デビュー時15歳、活動休止時点でも27歳の若さにもかかわらず、その才能あふれるソングライティングと確かな歌声で一世を風靡した。

その彼女が活動を休止する際にベストアルバムが出された。しかも二つ。一つは“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2”で、ベストアルバム2枚目であり、その名の通り日本で出したシングル(の後半-13枚目から21枚目)が網羅された作品。さらにインターネット配信シングルだった「This Is Love」や「Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix-」などが収められている。本人もかかわって装丁なども凝り、いままでの集大成として出されたもの。そしてもう一つが本作。
ヒカルの姿はジャケットのバックの1枚きりで、あとは歌詞とクレジットのみの素っ気ない装丁。
ヒカルの姿はジャケットのバックの1枚きりで、あとは歌詞とクレジットのみの素っ気ない装丁。
シンプルに“Utada The Best”と題され、装丁も白黒のヒカルのアップに題名が書かれただけ、という地味なもの。そして日本語の曲は一曲も入っていない。実はこれ、彼女が海外進出をしようと活動していた時期(2004~2009年)に海外で発表した(国内でも発売)作品のベストアルバム。

彼女は海外では「Utada」名義で活動し、アルバム2枚を残している。その2作を中心に、シングルカットされたリミックスなどを加えた作品。しかし、この作品が物議を醸す。

実はこの作品、彼女の同意を得ることなく版権元が勝手に制作したもの。彼女は国内向けの作品のリリースは東芝EMI(のちのEMIミュージック・ジャパン)だったが、海外向けはユニバーサルミュージックが担っていた。彼女サイドは東芝EMIとは良好な関係を築いていたようで、かつてのCCCD全盛の時代に「音が悪くなる」とその採用をしないという我を通すこともできたし、この時のベスト盤もシングルを並べただけのものではなくかなり手をいれたもので、全盤持っている熱心なファンでも購入する価値があるものだった。一方本盤は彼女の活動休止に合わせて海外向け音源の版権を持っていたユニバーサルが「勝手に」作ったものらしい。

そういう意味ではかつてご紹介したユーミン

や中森明菜

のベスト盤と同じようなパターン。違ったのは以前と違って、現在はアーティスト個人の発信が容易であること。twitterで「Universal Japanから発売が発表された「Utada the best」ですが、私の意志とは全く無関係であり、EMIの宇多田ヒカルのベストと同日に発売をぶつけてきた彼らのやり方にもあまりいい印象を持てません。予約を考えている人は、少し待ってください。」とつぶやき、事務所を通した法廷論争などになる前に、アーティスト自身が自分名義の作品にダメ出しをしたという...(^^ゞ

ただ結局それでも売れてしまったんだから世の中面白い。彼女のつぶやきでは「未発表のものは何も入っていません。」とのことだったけれど、日本では入手難易度の高いものも一部含まれており、それはそれで価値はあったのかな、と。

「Come Back to Me」はクラシカルなピアノのイントロに続いて、打ち込みバックのブラコン路線。♪Come Back♪と歌われるバックコーラスはまさに洋楽、という感じ。ただヒカルの声の良さが母音が少ない英語だと少し陰るかな。ラストの♪La La La♪というところのかすれ目の声は彼女らしいが。

「Merry Christmas Mr. Lawrence - FYI」はいわゆる「戦メリ」。坂本龍一のオリジナルは彼のピアノの歌心がうまくストーリーと溶け合った傑作だったが、本作は♪ゥア、ゥア、ゥア、ゥア♪と裏裏に入るコーラスに乗せてあのメロディが奏でられる。雪降る情景が見えるようなオリジナルとは違い、やや速めのオリエンタルな薫りのアレンジ。そこに彼女の作詞になる英紙の歌が乗る。あの名旋律をうまく生かしながら♪you know i, i'm gonna be yours tonight/we're gonna..ooh aah/fyi we're gonna be up all night♪と濃厚なwラヴソングに換えてしまったつくりはさすがだが、構成的にはアウトロで歌が消えた後もう半フレーズ例のピアノパターンを残した方がすわりが良かったかな。

「Sanctuary (Opening)」と「Sanctuary (Ending)」はかなりブログレ。まるでEUROX

のような残響深めの包み込まれるようなシンセの音で構成されている荘厳な曲...と思ったら、ゲーム「キングダム ハーツII」の主題歌「Passion」の英語版とか。ゲームの「キングダム ハーツII」が北米で発売されたときに、英詞版がつくられ同じく主題歌となったみたい。この手のものの常で、「Ending」の方が長く曲の構成としても完成度が高い。なお本作は日本的にはチョイレア。Utada名義の2ndアルバム“This Is The One”の海外盤にしか収められず、日本では配信のみの扱いだったため。曲としてはcybercatの好みの方向性なんだけれど、ヴォーカルには幻想的に?深いリバーブがかけられており、ヒカルの声が「遠い」感じで「宇多田ヒカルの歌」としてはイマイチ。

商業的にみると彼女の海外挑戦はメチャ成功、ということはなく、アルバム最高位69位の小ヒット。アメリカ生まれの彼女の英語の発音はもちろん問題ないんだけれど、彼女の微ハスキーな声はcybercat的には母音が多い日本語に合うような...ということで、彼女の作品の中では聞かない方から数えた方がはやい作品。ただ、ゲームしないcybercatが「Sanctuary」に出会えたのは良かったかな。

..「音楽関係の職業です」とは言っても、その立ち位置や考え方はそれぞれ。特に売る方と売られる方は考え方が違ってもある意味トーゼン?そんな差が世間にさらされ、逆に注目を集めた作品です。

【収録曲】
1. Come Back to Me
2. Easy Breezy
3. Merry Christmas Mr. Lawrence - FYI
4. You Make Me Want to Be a Man
5. This One (Crying Like a Child)
6. Exodus '04
7. Apple and Cinnamon
8. Automatic Pt. II
9. Devil Inside
10. Kremlin Dusk
11. Sanctuary (Opening)
12. Sanctuary (Ending)
13. Exodus '04 (Double J Radio Mix)
14. Devil Inside (RJD2 Remix)
15. Come Back to Me (Tony Moran & Warren Rigg Radio Edit)
16. Dirty Desire (Mike Rizzo Radio Edit)

「Passion/Sanctuary (Live Ver.)」←半日本語半英語です

  • 購入金額

    2,500円

  • 購入日

    2011年頃

  • 購入場所

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