レビューメディア「ジグソー」

物言う音楽

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽は作者のパフォーマーの「表現」の方法の一つです。自分の想いを音に乗せ、詞に乗せて世に問う、それが根源です。愛しい人への思い、神への畏れ、そして現状への憤り...音楽性の変更とフロントマンの変更によって異なるフィールドで成功を収めたグループの風刺に富んだ作品をご紹介します。

Genesis。プログレッシヴロックバンドとしてスタートし、その後ポップス色を強め再びの頂点(しかもセールス的にはこちらの方が遙かに大きい)を極めたバンド。結成が1967年、というのでもう半世紀近く前なのだが、そのころは初代ヴォーカリストPeter Gabrielの影響が強く(というかもともとGenesisはPeterのバンドともいえる)「演劇性の高い構築されたプログレ」というのが持ち味。特にPeterとオリジナルメンバーではないが比較的初期から在籍するギタリストSteve Hackettがクラシカルでオペラチックな作風だった。

その二人の脱退後、メインパフォーマーとなったドラマー兼ヴォーカリストのPhil CollinsとオリジナルメンバーのキーボーディストTony Banks、ベーシスト兼ギタリストのMike Rutherfordの3人体制となり、ポップス色を強めた作品をリリースし、大成功を収める。それがアルバム“Invisible Touch”と全米1位を取った表題曲シングル「Invisible Touch」。

このアルバムからはそのヒットの余勢を駆って何枚ものシングルがリリースされたが、本作はその3枚目。

これが3枚目、というのだから恐れ入る。

表題曲「Land of Confusion~混迷の地~」は時代を強く反映している。当時、ソビエト連邦(現ロシア)を中心とする共産主義国陣営と、アメリカ合衆国を中心とした資本主義国陣営が世界中を2分して第二次世界大戦後の覇権を争っていた。ソビエト連邦とアメリカ合衆国が直接戦火を交える事はなく、両陣営の小国の戦争を支援する形での代理戦争、経済的な囲い込みや文化・スポーツの制限など政治的な手法を駆使したもので「冷戦」と呼ばれた。そんな時代背景をもとに創られた作品。イギリスで約10年間続いたパペットTV番組“Spitting Image”の作者、Peter FluckとRoger Lawが手がけたそっくりさんパペットが演じるPVが意味深なものだが、詞の内容も風刺に富む。♪Now did you read the news today/They say the danger's gone away/But I can see the fire's still alight/There burning into the night/There's too many men, too many people/Making too many problems/And not much love to go round/Can't you see this is a land of confusion?(今朝の新聞を読んだかい?/危険は去ったって書いてあったよ/でも戦火の炎はいまだ燃えていて/夜を赤々と照らしてるんだ/多くの男たち 多くの人々が/多くの問題を生み出している/愛なんてなかなかお目にかかれない/わかるかい/ここは混迷の地なんだ)♪。 硬い打ち込み中心のリズムにヘヴィな音色のギターが挟まれ、キーボードの淡々としたフレーズが絡むのは軍靴の響きのようだ。

リズムを強調した表題曲のExtended Versionを挟んで、「Feeding the Fire」。サビのヘヴィなギターリフ+シャウト系ヴォーカルという盛り上がりに比べて、Aメロや間奏は淡々とした同音8分音符のベースの刻みやほわっとした音色のシンセサイザー、優しい感じの歌い方のPhilのヴォーカルと二面性がある曲。どちらかというとAメロの郷愁が感じられるメロディと音作りがキュンとくる。

「Do the Neurotic」は超高速のパーカッションの打ち込みにギターのアルペジオが被さり、1拍引っかける感じでドラムが入るイントロが印象的な曲。そのイントロのあと一度リズムが緩やかになったかと思うと、ふたたびギターとキーボードが活躍するハイスピードな曲調に..かなりドラマチックな展開で何度も場面と受ける印象が変わるインストルメンタル曲(しかも長い)。キャッチーなメロディラインを取っているか結構造りはプログレで、これは隠れた名曲かも知れん。
このパペットのつくりがシュールだなー。
このパペットのつくりがシュールだなー。
ちょうど本作のリリースは1986年。その年のチェルノブイリ原発事故は軍事力に対して国力に不釣り合いな大きな予算を使い、社会整備を怠ってきたソビエト連邦の崩壊の引き金と言われる。危惧された冷戦はついに「熱い」戦争になる事はなくその5年後にソビエト連邦は解体消滅する。それは強権的な「力による平和」を推し進めたレーガン政権の勝利とも呼ばれたが、この曲のPVの最後にレーガン大統領が押すボタン...あれが本当であったら?

われわれは実に危ういバランスの上で生活していた..というのが想起できる作品です。

【収録曲】
1. Land of Confusion~混迷の地~ (Single Version)
2. Land of Confusion~混迷の地~ (Extended Version)
3. Feeding the Fire
4. Do the Neurotic (Extended Version)

「Land of Confusion」

  • 購入金額

    2,000円

  • 購入日

    1986年頃

  • 購入場所

21人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • アストロマンティック☆さん

    2014/12/04

    こんばんは。

    ん?Genesis、、どこかで聞いたことがあるなぁと調べたら、Phil Collins。
    学生時代に聞いてました。“ One More Night”あたりのアルバムを。
    バンド時代では、こんなひねりのある曲を歌ってたんですね。懐かしいです。
  • cybercatさん

    2014/12/04

    Philのソロは「One More Night」のようにリリカルなものから、「You Can't Hurry Love」のようにポップなもの、「Easy Lover」のようなハードなものまでありますが、Genesisの曲はやはり元が元だけに(Philが入ってポップになったとはいうものの)ひねりのある曲が多いですね。

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