レビューメディア「ジグソー」

流行のサウンドと伝統的なリズム、それが一体とはならないもどかしさ

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。ポップスというジャンルの音楽はその時々の流行を追って貪欲にさまざまなものを飲み込んでいきます。ポップスにクラシカルな響きを、ポップスにテクノな装飾を、ポップスにへヴィなビートを...クリエイターはポップスにさまざまなエッセンスをふりかけ、新しい何かを生み出そうとします。一時期一世を風靡したゲートリバーブ処理による最先端の音作りと、民謡のオリエンタルな薫り...それが同居していながら一体とはなりきれていないと感じられた作品をご紹介します。

角松敏生。このひとは不思議な売れ方をしている。一般的には杏里や中山美穂へのプロデュースや楽曲提供(「悲しみがとまらない」の編曲やプロデュース、「CATCH ME」の作詞・作曲・編曲など)で知られているが、角松本人は大きなヒットはない。しかし、そのルックスとデビュー当初のプロモーションのかけ方が「海に似合う」という様なイメージで、白いジャケットと日に焼けた肌というスタイルで押したので、女子大生のファンは多かった。そして、プロデューサー、アレンジャーとしては確かな腕で、楽曲の仕上げ方と連れてくるミュージシャンが通好みで、音楽をやっているクロウト衆にもウケが良い。あるカテゴリーではとても名が売れているのに少し方向をかえると一気に無名で、まさに「知る人ぞ知る」ミュージシャン。

角松の基本的な路線は、特に初期(1980年代)は「夏・海・女」というイメージの詞で、それをビートが効いたディスコ調の楽曲に乗せてくる、というのが定番。1990年代に入ってかなり内向的な曲も増えてイメージが一変したが、

この作品は初期路線の集大成“Reasons for Thousand lovers”に収められたもので、ダンスチューン。

しかし、本作はさらに“12INCH VERSION”と銘打ったディスコ向けの仕上げ(本品は実際にはMaxi-CDなので12インチ=約30cmはなく12「cm」だがw、同内容アナログの12「インチ」盤も併売されたのでこの名が付いている)。当時の最先端のトレンドを追った音造りと南国のリズムの同居、男と女の別れを歌ったトレンディな歌詞と、沖縄の民謡の節回しの同居が見られるチャレンジングな作り。

「OKINAWA (EXTENDED HOT SUMMER MIX)」。ゲートリバーブをこんかぎり掛けた1990年代の造りのドラムとシンベ丸出しの音に彩られた角松節のところどころに沖縄民謡の節回しが現れる不思議な造り。ギターソロの前にある♪ハイヤィヤィヤ♪というかけ声と続くDave Wecklのところでもプレイした凄腕ギタリストPaul Pesco(PVではあたかも角松本人が弾いてるようだが、録音は別人)の洋楽然としたソロの落差がスゴイ...というか合ってないよね??ww

それよりもこの作品のキモはコチラ、「RATIRAHASYA~Time For Kari (SUPER TRIP MIX)」。ギタリスト二人使いだが、AirplayのJay Graydon

をサイドギターに使ってソロはBuzz Feiten

に取らせるというもったいな..贅沢な起用法。間奏のイントロでJayお得意のハモりフレーズが聴かれ、来た来た!と思ったら、Buzzyのブルージーな音使いのソロに切り替わるというゴージャスさ!効果的にライドシンバルのカップを使って盛り上げる村上”PONTA”秀一の複合リズムによるプレイも頭脳的。

ラストの「OKINAWA (TRICKY DUB VERSION) 」はいわゆるDUB MIXなのであんまり語るべきところもないけれど、コーラス部分以外ほとんどのヴォーカルがカットされ、沖縄民謡の部分がサンプリングコラージュされたこちらの方がまだ統一感があるかなー。

角松がなぜ自分の都会的なサウンドと民謡を合体させようと考えたのかがわからないけれど、ちょっと「とってつけた感」がありありで、あんまノれない。むしろほとんどヴォーカルレスにしてしまったDUB MIXの方がまだマシって言うのはチョットね...この作品に対する★はすべて「RATIRAHASYA~Time For Kari (SUPER TRIP MIX)」のBuzzyとJay、PONTAのプレイに対して。それでも表題曲と平均するとCD全体としては辛い点になってしまう。
ディスコ(DJ)向けの12「インチ」盤に多かった文字だけの無愛想なジャケット
ディスコ(DJ)向けの12「インチ」盤に多かった文字だけの無愛想なジャケット
この年を境に角松は「夏・海・女」路線から「夜・街・女」路線に大きく舵を切り(「女」は外さないw)、精神的で内向的な詞が多くなり、しばらくして活動休止してしまうのだけれど(一時期かなり病んでいたらしい)、この曲のアンバランスさはその萌芽だったのかも、しれません。

【収録曲】
1. OKINAWA (EXTENDED HOT SUMMER MIX)
2. RATIRAHASYA~Time For Kari (SUPER TRIP MIX)
3. OKINAWA (TRICKY DUB VERSION)

「OKINAWA (オリジナル) 」

  • 購入金額

    1,545円

  • 購入日

    1991年頃

  • 購入場所

16人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • いきものがかりさん

    2014/09/12

    おっと。こんなところにも角松ファンさんが。
    初期の角松をよく聴きました。
    最近出た「REBIRTH 1」というの初期のリメイクを聞きましたが、良かったです。
  • cybercatさん

    2014/09/12

    角松ファン...というと語弊がありますが、どちらかというとインストアルバム“SEA IS A LADY”(のちの“LEGACY OF YOU”も含めて)で「好みのプレイヤー使うなー」と深掘りしはじめて、BuzzyやLarry Carlton、John Penaらが参加した“ALL IS VANITY”で頂点に達した、という感じです。

    >最近出た「REBIRTH 1」というの初期のリメイクを聞きましたが、良かったです。
    彼のプロデュース力、サウンドメイク力はかってるので、今度聴いてみますね。

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