レビューメディア「ジグソー」

デビュー35年で、まだ、若い。

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。35年勤め上げる、サラリーマンだとそろそろ定年が見えてくる頃です。多くの人は、自分が退いたあとを託せるように後輩の指導にあたり、徐々に表舞台から去る準備を始めているかもしれません。一つのグループをそこまで永く続けながらなお新しい局面に向かおうとするグループの新作をご紹介します。

T(HE)-SQUARE。何度かご紹介している「ジャパニーズフュージョン」の最古参グループ。彼等より古いグループはほぼ活動を停止し、同世代のCASIOPEAは「CASIOPEA 3rd」

として復活したものの、6年ほどの中断期間があり、NAMIWA EXP.も前作

 

以降新譜を出しておらず、活動は停滞気味だ。

フュージョンの黄金期を支えた人々が活動をスローダウンする中、未だにコンスタントにアルバムを届けてくれるグループが、T-SQUARE

彼等はTHE SQUAREとしてデビューした時(1973年)から数えて前作“Smile”

で35年を数えた。その作品は記念碑的な作品で、何人かの旧メンバーを含めて、“T-SQUARE SUPER BAND”名義で出された。

内容的にはリズム隊がいつもと違い、旧メンバーのドラマー則竹裕之やパーカッショニスト仙波清彦が加わり、現在の正ドラマー坂東慧が叩かない曲もあると言うことで、ちょっと異色。ただ曲調的にも、かなり懐かしい感じの曲から、もっとタイトな機械ノリだった時期を彷彿させるようなものまであり、「おさらい」的な作品だった。ただ「現在のT-SQUARE」という点では冒険していなかったのも事実。

それがこの通算40作目のアルバムは違う。面白いのが違いの方向性が音色的傾向と楽曲的傾向で違うこと。音色的なことを言えば、ある意味昔に戻った感じもする。というのは伊東たけしが近年ないほどEWI(ウインドシンセ)を吹いている。伊東はEWIとサックス、フルートを吹くが比率としてはフルートが最も少なく、EWIとサックスは時期によって比率が異なるが、最近はサックスをより重視したような形だった。それがこの作品では半分の5曲がEWIを用いる。特にハードな曲だけではなくて2曲目の様なミディアムテンポの曲や5曲目の様なバラードでEWIを選択するのは最近なかったように思う。逆に曲調的にはやや今までの一本調子に明るいT-SQUAREカラーが薄く、「今までなかったような」曲が多い。面白いのは今までのメインコンポーザー、安藤正容(まさひろ)の曲で特にそれを感じること(そういえば、この作品一番書いているのは坂東クン(4曲)であと半分ずつが安藤とキーボードの河野啓三、というのも面白い)。T-SQUAREの「本流」路線を担うのはむしろ若い坂東クンで、リーダーの安藤は35年目にしてさらに新境地に行く、という風情。

出だしの「YOU'RE THE ONE」からして今までと違う。安藤の採るライン、伊東の音色、坂東のシンプルなロックドラム...今までにない欧州的味わいがある感じ(ちょっとウエットで暗い)。中間部のピアノソロは展開がロマンチックでT-SQUAREらしいけれど、厚い音のEWIのメロディに戻ると何か新しい。これは安藤の筆。

SHINE」はなんと言ってもEWIの音色。中期のリリコン系の爽やかな音色で、「TAKARAJIMA(宝島)」の様な風合いの心地よい「夏!」なイメージの曲。一番「懐かしい感じ」の曲だけれど実は坂東クンの曲。でもよく聞くとアコギがフィーチャリングされていたり、ノンスラップのベースソロが入ったりしていて新味に溢れているのだが(ベースはアルバムを通してサポートする田中晋吾)、それだけで印象が決まってしまうということはメインのメロディの音色の存在感ってすごいな。

後半は最近のT-SQUARE路線に戻るが、クリーンなオーバードライブ+コンプレッサーの粒が揃ったギターとブレス感がよく出ているEWIでリードする「KISS AND CRY」は、T-SQUAREらしい爽やかな曲。8ビートのロック調のリズムで、ライトハンド奏法も含んだギターソロも終わってこのまま終わりかいな、と思ったら坂東クンの手数王直伝のオンビートソロ風のなが~いフィルインが楽しい。

当然?特典DVD付きの初回盤をおさえているわけではあるのですがw
当然?特典DVD付きの初回盤をおさえているわけではあるのですがw
 

初回特典のDVDはある意味ちょっとマイナーな曲達が収められる。アルバム“B.C. A.D. ~ Before Christ & Anno Domini ~”に収録されたテレビ番組「ワイド!スクランブル」のテーマ曲「Victory」(1996年の作品)と10年前の作品“GROOVE GLOBE”に収録された「Future Maze」のライヴなのだが、面白いのはこの2曲がマルチアングルのような作りで各プレーヤーバージョンが収められること(実際には曲の途中で切り替えられるわけではなく、それぞれ別の曲となっている)。「Master Version」と呼ばれる一般的なアングルでメンバー全景や客席の様子も映されるものに加えて、「安藤アングル」「伊東アングル」「河野アングル」「坂東アングル」という8割以上のカメラワークが特定のプレイヤーの演奏にフォーカスしたバージョンが視聴できる。他人のソロのバッキングをやっているときもそのパートが映るのでアマチュアバンドがコピーするのに最適??w

坂東クンアングル。ドラムの後ろからが4割を占めるプレイがよく見える映し方。
坂東クンアングル。ドラムの後ろからが4割を占めるプレイがよく見える映し方。
 

35年という区切りを超えてさらに踏み出すT-SQUARE。アルバム前半は曲調で裏切り、音で「そんなことないよ」という。後半はある意味ここ数年の延長で安心して聴ける。冒険と期待されるものへの応えとの良い塩梅。さすが長寿バンド、わかってらっしゃる!!

【収録曲】
<CD>
1. YOU'RE THE ONE
2. THANK YOU
3. SHINE
4. SNOW WALKER
5. 魂の肖像
6. WISH
7. KISS AND CRY
8. EAGLE SPEAR
9. I STAND ALONE
10. NEXT

<DVD>Special Live Clips@神戸チキンジョージ 2013・12・23
1. Victory
2. Future Maze

「YOU'RE THE ONE」

更新: 2021/04/29
必聴度

板東クンが次代の核として育っている

安藤、伊東らとは完全に「世代」が違う板東クンが、よく「スクエアを消化」している。

  • 購入金額

    3,400円

  • 購入日

    2014年06月04日

  • 購入場所

    TOWER RECORDS

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