鬼の唾で姿が見えなくなる話
福永武彦「今昔物語」(ちくま文庫)
構成・作画 児玉喬夫
同じシリーズの vol.1『葦を刈る夫にめぐりあう話』に準じる形式でレビューします。
このお話は「楽しい」系 です(独自のカテゴライズなので↑を参照ください)。
福永武彦先生の「今昔物語」(ちくま文庫) から取られていること、
アニメではなく精緻な画が続く紙芝居といった趣であること、も vol.1と同じです。
この話を劇画調のタッチで描かれると凄惨でおどろおどろしくって子供には
見せられなくなってしまいますが、そこは力量のある作家さんの絵です。
コミカルになりすぎることもなく、ちょうどよい塩梅で安心して見ていられます。
作画は 児玉喬夫 さんです。
この方は vol.1担当の白梅進さんよりもう少し前の時代に活躍された方ですね。
たいへんな実力をお持ちであったところは業績を見るだけでうかがい知れます。
鬼とすれ違った男が鬼の唾を浴びせられて透明人間になってしまうという筋は
他の説話のモチーフにもなっているようです。
他の人間から見えないことを逆手にとって自分の欲の為に悪事を働いて~
という方向に物語が進んでいくのは、また別の説話の内容で、このお話では、
主人公の常日頃の信心に対して、観音様が窮地から助けてくれるエンディングに向かって
まっすぐにテンポよく進んでいきます。
鬼の子供のような牛飼いといっしょに病に伏した良家の若い女性を苦しめる、
というシーンも、上記の「悪事をはたらく」お話と重なりますが、
そのことが自分の良心に目覚る端緒として描かれるのではなく、
行力(験力)を持った高僧を呼び寄せるきっかけになっているに過ぎません。
テーマは観音様の御利益一本に絞られています。
低年齢の子供にも分かり易くなっています。
vol.1『葦を刈る夫にめぐりあう話』を最初に見せると小さな子供は興味を失ってしまって
次のDVDを見ようとしなくなる恐れが大きいので、この vol.2 から入っていくのが良い
と思われます。
さて、vol.1 レビューでも言及した大人のための見どころも添えておきましょう。
大人向けの関連研究としては2つのおススメが含まれます。
まず、冒頭で主人公の若侍が鬼たちと出くわす場に使われている「一条戻橋」。
京都市上京区の堀川に架けられているこの小さな橋は古来から幾度も説話や
文学作品の中に出てきます。
平安時代の中ごろから京の中では衰退が進んでいた右京との境界としての
堀川を渡ることは特別の意味を伴ったことから、この一条戻橋には、
さまざまな伝承が生まれて、最近まで伝えられた風習の背景となったようです。
次は、その冒頭シーンで主人公にひっかけられた「鬼の唾」です。
唾に何らかの霊力を認めて、これを一種のまじないとして用いることは
洋の東西を問わずに広く行われていますが、この物語も含めてそのあたりに
ついて考察を行っている学術的論文を見つけましたので、興味のある方は
ご覧になってください。
六朝志怪「宋定伯」小考 ― その用語を中心として ― 增子和男
以上のように、この作品は小さなお子様から大人まで楽しめる内容となっています。
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購入金額
105円
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購入日
2000年頃
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購入場所
ザ・ダイソー オークワ大和高田店
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