女の執念が凝って蛇となる話
福永武彦「今昔物語」(ちくま文庫)
構成・作画 しも ゆきこ
同じシリーズの vol.1『葦を刈る夫にめぐりあう話』に準じる形式でレビューします。
このお話は「悲しい」系 です(独自のカテゴライズなので↑を参照ください)。
福永武彦先生の「今昔物語」(ちくま文庫) から取られていること、
アニメではなく精緻な画が続く紙芝居といった趣であること、も vol.1と同じです。
基本的に モノトーンの絵柄で木版画で刷ったようなタッチ です。
炎の描写だけ赤色で刷って他は白黒といった、木版画紙芝居と言ってよいでしょう。
それもそのはず、作画は 著名な木版画家の しも ゆきこ さんです。
可愛らしく素朴な絵柄です。この可愛らしさ・素朴さが重要な効果を発揮しています。
思いを寄せた若僧に裏切られた若い未亡人が激怒のあまり蛇に変化し、
逃れた寺の鐘に籠った僧を焼き殺すも、高僧の供養で2人が成仏するというあらすじです。
熊野権現に参詣する旅中で僧侶が一宿を借りたのですが、女やもめの主人が
美形の若い僧に惚れて夜這いをかける、とこの時点でもう、子供たちに見せるお話
としてはどうか? と vol.1 とはまた違った意味で難儀なチョイスをしたものですw
「若い僧の姿のいいのを見て、思わず愛欲の心を起こした。」ですからねー。
ここで僧が欲望に負けてまぐわってしまうと、昼ドラの時間帯に移されてしまいます。
しもゆきこさんの可愛らしくも素朴な絵柄だからこそ、この毒気が中和されています。
なんとか己を律してその場は逃れますが、断り方がいけなかった。
「わたしも、あながちに厭だと言うわけじゃありません。
今は熊野へお参りする途中ですから、… 」
と、帰路に立ち寄るからいまは勘弁してくれ、みたいな気を持たせる物言いで
逃げるのですね、女からも自分からも。
そりゃ、そんないい加減な別れ方をしたら、待ってしまいますよね、女性は。
で、逃げられたことを悟ると引きこもった末に死んでしまうのですね。
そして、成仏できず 五尋の大蛇に変化(へんげ)してしまいます。
「尋(ひろ)」というのは長さを表す単位で、紐などの長さを測るときに、
紐を両手で持ち両腕をいっぱいに広げて紐を送る動作を繰り返すときの
ワンストロークです。昔の人のリーチの長さですから、1尋は5尺(約1.5m)
に相当するらしいですから、全長7.5mの大蛇 ですよ!
で、大蛇となりながらも恋い焦がれる若僧を追っていくのです。
逃げた先は道成寺という紀伊半島の西端に位置するお寺です。
まさに地の果てまで追ってきたわけですね。
居場所を突き止めたはいいが、愛しい人は分厚い青銅に包まれて触れることもできません。
怒りと悲しみのあまり、鐘ごと焼き殺してしまいます。
ここで終わると人間の欲と業と暴力だけの物語に終わってしまいます。
若僧も成仏できず蛇に変化していたのですが、高僧の夢の中に出てきて救いを求めます。
高僧の功徳と彼が唱える妙法蓮華経のパワーはむかしばなしにおける無敵コンボです。
このお話では大蛇二匹というダブルラスボスが相手ですから、夢で頼まれた高僧
ひとりでは無理だったのか、法会を開いてステージの高い坊さんたちが集まって
霊力を結集します。おかげで、若僧も女も成仏することができます。
「実に法華経の霊験たるや、不可思議千万である。
蛇身をまぬがれて天上に生まれ変わるなどというのは、
一にも二にも法華の力である。」
とナレーションが続きますが、本当にイイタイことはその後に続くほうだったのかもw
「女人の悪心、まさにかくのごときものがある。
このわけがわかったならば、ゆめ女人に近づいては
ならぬ、という話である。」
さて、今回も大人向けの解説を少し。
このお話は、安珍・清姫伝説(あんちんきよひめでんせつ)として有名で、
能や歌舞伎の世界では創作のモチーフとなっています。
能 →『鐘巻』,『道成寺』
歌舞伎 →『京鹿子娘道成寺』,『奴道成寺』,『二人道成寺』,『男女道成寺』など。
その他に、長唄や人形浄瑠璃でも演目の題材に取られています。
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購入金額
105円
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購入日
2000年頃
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購入場所
ザ・ダイソー オークワ大和高田店
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2014/02/28
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2014/02/28
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ワタシ?? いや、ゴニョゴニョゴニョ…