レビューメディア「ジグソー」

混じり合わない音、交じり合わないプレイ。

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。グループにゲストプレイヤーを入れた企画アルバム。この場合、「いつものメンツ」とゲストの色の比率が重要です。上手くいけば今までなかった新味を加え、ファンにはオッという驚きを与え、でもしっかりとそのグループの主張もあるという名盤になりますが、ハズすと単に有名どころを飾っただけのミスマッチの作品となったりします。そんな残念な作品をご紹介します。

T-SQUARE。現在最も永く、かつ、精力的に活動しているジャパニーズフュージョンバンド。その長い歴史の中ではメンバーチェンジはもちろんあって、それでバンドに新しい風が吹いたのだけれど、それとは別にオーケストラとの共演やヘヴィメタ系のアーティストとのコラボユニット、

 

核となるゲストプレイヤーを迎えた再録音のベストアルバム

など色々な試みをしてきた。

本作は最初期にご紹介した“MISS YOU IN NEWYORK”

 

と同系統の企画モノ。当時のメンツ(ギター:安藤正容、サックス:本田雅人、キーボード:和泉宏隆、ドラムス:則竹裕之、ベース:須藤満)に外部のプレイヤーを加えて過去の曲をセルフカバーをした作品。実際には本作が先行で、“MISS YOU IN NEWYORK”の方が同企画の2枚目となる。“MISS YOU IN NEWYORK”が、その名の通りNYのプレイヤーだったものが、本作では西海岸のプレイヤーであり、アレンジャーがキーボーディストPhilippe Saisseではなく、ペットのJerry Heyというところが違う。そのためゴージャスでリリカルな“MISS YOU IN NEWYORK”に対して、タイトでブルージィなアレンジ。

前半は当時のフルメンバー+ラッパ隊+αの構成が多い。1曲目「CHASER」はF1TV中継の名挿入歌だが、Chicago風の?ブラスのバッキングのつけ方がイイ!ギターソロのバックはむしろギターより存在感があるというwwメンツはメンバー5人に「ジェリー・ヘイ部隊」の4人(トランペット:Jerry HeyとGary Grant、サックス:Larry WilliamsとDan Higgins)+ギターに名手Michael Thompson。

A FEEL DEEP INSIDE」は、彼らのデビューアルバム“Lucky Summer Lady”から。ドラムのキックとスネアにゲートがかけられており、かなり硬い音作りに。ただプレイそのものはフルメンバー参加のためまごう事なき「T-SQUARE」なので(他はギターのMichaelとパーカッションのPaulinho Da Costa、マニピュレータのErik Hanson)、新味はむしろ音作りとシカケ的にアタマを抜いたリズムパターンなどアレンジにある。

後半に入ると一気にメンバーの参加率は減り、数人~1人(本田のみ)のメンバーにリズムユニットを含む多数の外部プレイヤーを入れたものになる。「TRAVELERS」は中期の名盤“ADVENTURES”

からのR&B調のヒット曲だが、延長された導入部のフレーズ、跳ねるMichaelのカッティングとPaulinhoのCOOLなグルーヴ、キメのユニゾンフレーズも喰いパターンになって、より緊張感あふれるものになったが....音造りが良くない。この曲ではメンバーは作曲者の和泉とサックスの本田しか参加せず、MichaelとPaulinho、さらにLarryがキーボードで加わるほかに、リズムユニットが違う。ドラムスがJohn Robinson、ベースがNeil Stubenhausと名手のコンビなのだが、Johnが当時好んでいた(もしくはJohnおつきのエンジニアが好んでいた)ゲートリヴァーブがバリバリの音。打音(減衰音)、というより持続音で明らかに曲調から浮いている。ブルージィな音を使った跳ねるアレンジからは、もっとタイトで高めの音が合うと思うんだけれど。

ちょっと前半はホーンセクションつきT-SQUAREの域を出ていないし、後半は音が激変していて同じアルバムに入れるのがどうか、という感じ。セッションしてよりよいものを作り上げていった、という雰囲気よりは、「譜面渡されてやりました」感がある残念な出来。

このときは“NEW-S”の頃のメンツ
このときは“NEW-S”の頃のメンツ
 

部分部分は「TRAVELERS」の本田の泣きのソロや、「CHASER」の生ブラスならではのスピード感などいい部分も多いので残念。この反省が、より外部ミュージシャンと交じり合った傑作“MISS YOU IN NEWYORK”につながったともいえるのだけれど...

【収録曲】
1. CHASER
2. MIDNIGHT LOVER
3. A FEEL DEEP INSIDE
4. THE NUMBER
5. WRAPPED AROUND YOUR SOUL
6. TEXAS KID
7. HAWAII E IKITAI
8. IT'S MAGIC
9. TRAVELERS
10. SABANA HOTEL

「CHASER」

更新: 2021/04/17
必聴度

有名プレイヤー入れてお化粧しただけ...という感じ

本作の反省で、この後の“MISS YOU IN NEWYORK”の名リアレンジに繋がったのかもしれないが。

  • 購入金額

    2,800円

  • 購入日

    1991年頃

  • 購入場所

17人がこのレビューをCOOLしました!

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