たまたま手に入れてしまったのでレビューを残しておきます.
所有機材の関係上,手持ちのQ701との比較が多くなります.再生環境はPC→Mojo→ヘッドホンとなります.
シンプルさの中にある高級感
さすがに現在でも4万を超えている販売店が多いヘッドホンだけあり,見た目はすっきりとしていながらも金属製のヘッドバンドや小豆色と金属光沢が混ざったようなハウジングはとても高級感があり,所有欲を満たしてくれます.
この小豆色のハウジングは樹脂製のようですが,その周囲のシルバーの部分はアルミです.
DT990 Proあたりと比べると圧倒的なデザイン性を感じます.
美しいが迫力の無いボーカル
T70はT90と見た目は似ていますがこちらは密閉型のヘッドホンになります.それを考慮した上でもこれを聴くと,あれっこれ開放型だったっけ?と勘違いしてしまうくらい見通しの良い,抜けの良いスッキリした音が鳴ります.メリハリがよく,弾くような音の鳴り方が美しいです.
逆に言えば密閉型らしい,濃密な音を期待して聞くと拍子抜けしてしまうでしょう.低音は出てはいますが,手持ちのQ701のほうがまだ下の方からしっかりと低音が鳴っています.こちらの低音はドンドンという感じではなく,タンタンといった感じの締まった空気のアタックを感じるのみで,これが中低域をスカスカにしているような印象を受けます.
そのため,ボーカルはしっかりと前に出てきて,その周囲で楽器が鳴っている様子を感じるものの,低域は少し離れた位置から聞こえるように感じ,ベースの音がかなり軽く感じます.また,ボーカルの声が上ずって聞こえることもあり,これはこの抜けの良さとのトレードオフに感じました.
中域の出方はQ701よりも好みなのですが,音場が狭いこと,高音に寄った音であることから美音ではありますが迫力に欠けます.Kalafinaの君の銀の庭を聴くと,イントロの弾くような美しい音の裏で軽くタップするような低音を感じます.ボーカルのバックで鳴っている荘厳な音が控えめになり,ツインボーカルの美しさが際立ちます.アコースティックギターの音の出方がとても美しく,指で弾くような音の鳴り方をします.歯切れが良く,しかしある程度残る響きがなんとも言えず気持ちが良いです.
うーん,もう少し重心が低く,広がりのある音だったら完璧だなぁと思うのですが,なかなかどうも上手くいかないようです.男性ボーカルも非常に聞き取りやすいですが,重厚感に欠け,艶っぽさがあまりありません.そのぶんスッキリとして聞き取りやすく,鼻づまりのような声とは無縁の音が鳴ります.金属的な音,というのが似合うかと思います.
サ行の刺さりは人によって不快感がかなり違うと思いますが,このヘッドホンは比較的刺さる方なので苦手な人には厳しいかもしれません.安物にありがちなキンキン刺さるような刺激よりはお上品ではありますが,打ち込み系の音は場合によって的確にこの刺さる感覚のある音を出してきます.Perfumeを聴くとあちこちの刺激的な音が耳に飛び込んできてそれはそれで楽しいのですが,聴き疲れするのがデメリットでしょうか.
分離能はそれなりで,音場の狭さにもかかわらず各音を聞き分けることができ,左右の広がりがあります.余り上下の広がりはなく,このあたりは密閉型だなぁというところ.
この抜けの良さ
やはり特筆すべきはこのクリアな音です.開放型のQ701を軽く上回る澄んだ音は,密閉型であるという事実を忘れさせます.エッジの効いた金属的な響きはウォームさとはかけ離れた音ですが,これもまた立派なリスニング用ヘッドホンだなと感じます.
滑らかな音の鳴り方でありながら,弾けるような音の出方をするので,メリハリがしっかりしているのがわかります.ただソースを選ぶようで,下手な音源では高音がざらつき,よりスカスカな印象を受けてしまいます.
見た目については金属製のヘッドバンドやベロア生地のイヤーパッドが高級感に溢れており,値段なりの所有感を得られます.
このイヤーパッドは比較的うすく,耳の上部が内部のスポンジに当たる人も多いかと思います.肌触りはよく,付けていて不快感はありません.人工皮革は長期間使用するとぼろぼろになってくるので,個人的にはベロア生地の方が好きです.交換用イヤーパッドも出回っているため,比較的長持ちしてくれるのではないでしょうか.
インピーダンスは250Ωとなっていますが,ドライブのしやすさとしてはQ701よりもハードルが下がるのではないでしょうか.それなりに感度が良いのか,密閉型であるために反響音でおおきく聞こえるのか,Q701ほど音量を上げなくても楽しめます.
音が軽すぎる
言い方は悪くなりますが,音の鳴り方が低域を切ったカラオケ屋のスピーカーのように,高音が上ずった乾いた音をしているように感じます.曇りが晴れた代わりに,地に着いた足を切り落としてきたかのような上ずった調子を感じ,もう少し腰を落ち着けた音を鳴らして欲しいなぁと感じました.
中低音が出ていないわけではないですが,音に重厚感がなく,どうしても薄っぺらく感じてしまいます.線の細い美人のイメージですが,音に元気がないわけではなく,むしろ高音の元気さは他よりもあります.
また,再生するソースをかなり選ぶように感じます.音は高音よりのフラットですが,高音のざらつきを感じる曲がそこそこあり,できればハイレゾな音源で楽しみたいヘッドホンです.サ行の刺さりは音量を抑えれば軽減されますが,長時間聴いているとかなり疲れます.
ケースが付いてくるのですが,分厚いスポンジの中に卵形のくりぬきがあり,そこに納めるタイプになっています.このときケーブルの根元をねじ曲げて押し込めるような形になり,ケーブル着脱式でないのが悔やまれます.断線が心配….また,このケースがかなり大きく,持ち運ぶ用途では絶対ないと思います.ここまで大きくするならせめてヘッドホン全体がスポンジに覆われてくれたらいいものを,ファスナーを引いてあけたケースのフタ側にはスポンジが付いていません.
聞き込むほど良さが分かるヘッドホン
散々音がペラいだの,スカスカだの,腰を落ち着けろだの言いましたが,嫌いな音ではないです.特に,霞がかった様な音を鳴らすヘッドホンと比べると圧倒的にクリアでメリハリのある音が魅力的です.
beyerdynamicらしさに溢れ,僕が新品で買うかと言われたらノーですが,十分買う価値はあるでしょう.最も,低音の迫力に溢れたものを好む人からすれば考慮の対象にすら鳴らないでしょうが.
現在開放型を持っていても十分使い分けできる音をしていると感じたので,サブ機として一ついかがでしょうか.刺激的な音楽体験をもたらしてくれると思います.
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購入金額
16,000円
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購入日
2016年11月頃
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購入場所
ヤフオク
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