先日レコードからWAVを起こすために、久々にこのアルバムのレコードを再生しました。随分久しぶりに通して聴いてみると色々と思い出すこともありましたので、ここで取り上げることにしました。
シカゴの初期アルバムを詰め合わせたボックスセットCDで一応CDも所有はしていますが、聴くのはもっぱらレコードの方です。
私が持っているレコードは生憎というべきか、日本盤(CBS/SONY 25AP777)で、正直言えば恐らく米国盤の方が音は良いと思います。1977年9月に発売された、文字通り通算11枚目のアルバムです。
ジャケットデザインはイリノイ州シカゴ周辺の地図となっていて、シカゴ市の所にシカゴのロゴが鎮座しているというものです。
ダブルジャケットとなっていて、見開きのインナーはメンバーが車で警察から逃れるという写真となっています。
インナースリーブが歌詞カードを兼ねる形となっています。
当時のメンバーです。このときには結成メンバーは全員残っていて、パーカッションを強化するために元セルジオ・メンデス&ブラジルのラウヂール・ヂ・オリヴェイラを加えた8人編成となっていました。ちなみに2024年4月現在では、バンドに現役メンバーとして残っているのはロバート・ラム、リー・ロクネイン、ジェイムズ・パンコウの3名のみです。
ラベルがCBS/SONY統一の赤ラベルでは無く、独自デザインとなっている辺り、当時のシカゴが売れっ子という扱いだったことが伺えます。
不思議な符合も
本作はあらゆる意味で初期シカゴの最終作と位置付けられるアルバムです。というのも、プロデビュー前にシカゴを発掘し、売れっ子バンドに育て上げたプロデューサー、J.W.ガルシオを、バンド側は本作を最後に解雇しています。
確かに彼のプロデュースによりシカゴは確固たる地位を築くことになったわけですが、徹底した管理主義に加えシカゴが売れっ子となった後もバンド総収入の51%を独り占めし、残りをメンバーで等分するという契約を続けていたことがメンバーの強い不満を呼んでいました。
実はデビューアルバムは「Chicago Transit Authority」というバンド名であったため、シカゴとしてのアルバムは2作目からだったのですが、そこから前作「Chicago X」まで米ビルボード誌のアルバムチャートで全てTOP5入りを続けていたのですが、この「Chicago XI」は6位にとどまり、シカゴとして初めてTOP5入りを逃すなど勢いが少し陰り始めていました。金銭面に加え音楽面でも行き詰まりが見え始めたことが解雇の切っ掛けとなったと思われます。
そして次作で体制を一新して再出発を期していたバンドに、本作発表の翌年1978年1月、悲劇が訪れます。結成当初から実質的なリーダー役を務めていたリードギターのテリー・キャスが拳銃暴発により死去してしまうのです。きちんと音楽教育を受けたメンバーが殆どのバンドにあって、貧しい家庭で育ち独学で独自の演奏スタイルを編み出した個性派であり、ヴォーカルスタイルも含めたワイルドさはシカゴにロックの激しさの部分をもたらしていました。シカゴはテリーの代わりとなるギタリストを加入させますが、割合最近怪我を理由に脱退したキース・ハウランドまで長続きしたギタリストが現れなかった辺りに、テリーの穴の大きさが表れていました。
テリーの後任として起用されたギタリスト、ドニー・デイカスは演奏スタイルもヴォーカルも都会的でスマートなタイプで、バンドの雰囲気を一新することは出来ましたが既存メンバーとの折り合いが悪く、アルバム2枚であっけなく解雇されてしまいます。まあ、実際過去の曲を演奏した時の違和感のようなものも結構強かったので、やむを得ない部分もあるかなとは思いますが…。
ここでChicago XIの収録曲を記しておきます。
Side A
01. Mississippi Delta City Blues
02. Baby, What a Big Surprise
03. Till the End of Time
04. Policeman
05. Take Me Back to Chicago
Side B
06. Vote for Me
07. Takin' It on Uptown
08. This Time
09. The Inner Struggles of a Man
10. Prelude (Little One)
11. Little One
A面の1曲目に「Mississippi Delta City Blues」という曲が収録されていますが、実はこの曲は5作目「Chicago V」リリース前に開催された初の来日公演で披露されていた曲でした。この来日公演では発売前だった「Chicago V」の曲が数曲演奏されていて、この曲も当然そこに含まれると見られていたのです。
▲レコード化された「Live in Japan」に収録されている
しかし「Chicago V」どころかその後のアルバムでも全く収録されることが無くお蔵入りしたと見られていたところで、突然この「Chicago XI」に収録されたわけです。この曲はテリーがリード・ヴォーカルを務めていたため、このタイミングで発表されていなければ文字通りお蔵入りだったでしょう。
そしてA面5曲目は「Take Me Back to Chicago」です。実はバンド名こそ「シカゴ」で、結成もシカゴであったものの、活動を本格化した後はJ.W.ガルシオ所有のコロラド州のカリブーランチや西海岸を拠点としていて、シカゴに戻りたいというシンプルな思いがそのまま表れたような曲となっています。これも結果的にテリーの死去の直前であったことが印象を強くしてしまうことになります。
前作「Chicago X」からシングルカットされ、バンド初の全米No.1曲となった「If You Leave Me Now(愛ある別れ)」の系統を受け継ぐ「Baby, What A Big Surprise」はヒット曲となりましたが、テリーはこの曲の路線を快く思っていなかったといいます。しかし彼の死後デイヴィッド・フォスターとの出会いにより、バンドが一気にこの方向へと進んでしまったのも皮肉なところです。
前期シカゴの最終作というべき本作は、結果的に初期のブラスロック路線からAOR路線へと急激に変化する過渡期であることが如実に表された作風となっています。
次作以降、デイヴィッド・フォスターのプロデュースで復活する「Chicago 16」までの低迷期が続くことになりますが、私はこの低迷は既に本作で始まっていたと解釈する立場です。過渡期と述べた通り方向性が今一つ見えてこない作品で、個々の楽曲は結構気に入っているのですが、アルバムとしてはぼんやりとした印象しか残らないのです。ここから「Chicago 16」まではどのアルバムも出来に大差ないのではと思っています。ただ、テリーの死とJ.W.ガルシオとの別れがあまりに強烈なインパクトとなり、本作を好調だった前期シカゴの最終作と何となく思ってしまうのではないかということです。
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購入金額
0円
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購入日
不明
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購入場所
cybercatさん
04/27
その関係からか、大ヒット曲はともかく、その他の佳曲クラスの曲はChicagoはメンツが変わるとパタリと以前の曲をやらなくなるイメージ。自分はChicagoは1980年代からの遡り組なので、このあたりの曲は馴染みが薄い感じ?
一方Doobiesは、あるメンバーが一時脱退していたときの曲も、そのメンツが戻ってこだわりなく歌う/演るようなところがあるので、初期の曲も良く識ってるのですが。
jive9821さん
04/27
本作の周辺は80年代から入った層(私自身もこちら)にも、初期以外認めない層にも、あまり触れられない辺りですね。どうしても存在感が希薄だと思います。
正直ここ数年メンバーが交代しすぎて最新のセットリストは把握できていないのですが、ビル・チャンプリン脱退後は新曲1~2曲以外は「Chicago 17」以前の曲しか演奏しなくなったように思います。比較的新曲に前向きだったビルとジェイソン・シェフがいなくなってからは往年のヒット曲のレパートリーを維持するのがやっとという印象ですね。
メンバー交代については、ジェイソン・シェフが家族の事情で脱退(残ったメンバーも事情が事情なので残念ながら辞めることになったと表現していて、これまでとはニュアンスがかなり違っていました)を申し出る以前は、殆どが喧嘩別れでしたね。近年はルー・パーディーニを除き怪我や病気などが原因という脱退ですが…。