レビューメディア「ジグソー」

ポップなプログレ。それは本人たちが望んだものか、世間が望んだものか。

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。ある分野で功績を築いた人たちが、新しいことに挑戦する。ビジネス界でも「成功体験がないひと」というのは、物事をやり遂げることが難しいといわれていますが、「過去の成功にとらわれるひと」というのも、自分のスタイルに固執しすぎて失敗することがあります。プログレッシヴ・ロックのスーパースターを集めながらも、新しい音楽を作るにいたらなかったバンドのもっともキャッチーな作品をご紹介します。

ASIA。すでに何度かご紹介しているが、

1970年代に隆盛を極めた、プログレッシヴ・ロック(プログレ)のスーパースターたちによるバンド。1stアルバムは元YESのGeoffrey Downes(キーボード)とSteve Howe(ギター)、King CrimsonのJohn Wetton(ベース)、EL&P(Emerson, Lake & Palmer)のCarl Palmer(ドラムス)という構成でスタートした。4人ともに曲を書くが、Carlは共作者としてのみのかかわりで、実質的には残り3人が曲を作った。核はJohnで、彼とGeoffreyが共作したものが4曲、JohnとSteveの共作が3曲、3人あるいはCarlまで加わったのが2曲という構成だった。

John+GeoffreyコンビとJohn+Steveコンビでは明らかに書く曲の方向性が異なり、前者はポップでキャッチー、後者はクラシカルで様式美と一言で言えば、ロックにプログレ風味をふりかけ新しい音楽を作ろうとしたJohn+Geoffrey路線と、難解なところを取り去ってプログレの復権を狙ったJohn+Steve路線といった感じか。はたして1stアルバムは成功を収め全米No.1、シングルカットされた「Heat Of The Moment」も全米1位を記録した。

このプログレ独特のシンフォニックな音使いとドラマチックな展開をもつロックチューン、「Heat Of The Moment」が大ヒットしたことから、2ndの路線はJohn+Geoffrey路線と決した。これがこの後のこのバンドの命運を決める。

「Don't Cry」。足がややツッ込み気味で、手がややタメ気味というCarlの独特のノリが楽しめる?ヒット曲。「これはもはやプログレではない」といわれたが、たしかに。シンフォニックな音色、メロディと呼応するオーケストラルなドラムスのフィルインにはプログレフレーバーは残っているが、たしかにロック。しかもかなりのポップロック。しかしこの曲も全米1位に輝く。

「Heat Goes On」は1stに通じるマイナー調のシンフォニックロック。コーラスのつけ方が荘厳。ブリッジ部でリズムが異なるのがちょっとプログレ。オルガン音色のソロは覚えやすくカッコいい。

「Open Your Eyes」はボコーダーかボイスモジュレーターが使われたような声のコーラスに静かなハーモニーで始まると、その後リズムインして盛り上げ、サビは長調移行するという壮大なアレンジのバラード、セカンドコーラスのバックの分散和音がパイプオルガン系の音色なのがプログレの片鱗か。

この2ndアルバムは1stで成功した「Heat Of The Moment」路線をさらに推し進め、よりわかりやすく、よりポップにしたアルバム。その結実が「3分プログレ」といわれたNo.1ヒット「Don't Cry」。しかしそのため、よりプログレ本流に近いクラシカルなアプローチをするSteveは曲を提供しておらず(実際には数曲書いたが採用されなかったらしい)、アルバムはJohn+Geoffreyコンビカラー一色となる(厳密には「Smile Has Left Your Eyes」のみJohn単独名義)。

満を持して発表した本作だが、1stよりも売り上げは低く(それでも全米6位だが)、Johnがアルコール中毒で一時解雇されたり、一曲も採用されなかったSteveがバンドから浮き始め、3rdアルバム製作に入ったところで離脱、「夢のスーパースターバンド」は崩壊する。

その後今世紀に入ってから、歳を重ねたメンバーも丸くなったのかよりを戻して再結成をしたりもしているけれど、「売れるプログレ」を創ろうとした当初の気概は薄れ、単なるロックバンドとなっている。

長く難解になりすぎたプログレッシヴ・ロックをわかりやすくして「売れるジャンルに引き戻す」という「3分プログレ」というコンセプト自体は悪くはなかったのかもしれないけれども、それはもはや「いわゆるプログレ」ではなく、それを期待して彼らを聴いた人々を裏切り、ハードコア・パンクに流れていたミュージックシーンにとっては10年前の焼き直しの曲に映ったのだろう。

もし2ndでSteve系の曲が採用されていたら...そんなことを思ってしまう作品です。
A~Aの単語によるアルバムタイトルは前世紀のASIAのアイデンティティ
A~Aの単語によるアルバムタイトルは前世紀のASIAのアイデンティティ
【収録曲】()内邦題
1. Don't Cry
2. Smile Has Left Your Eyes (偽りの微笑み)
3. Never in a Million Years
4. My Own Time (I'll Do What I Want)
5. The Heat Goes On (悲しみの瞳)
6. Eye to Eye
7. Last to Know
8. True Colors
9. Midnight Sun
10. Open Your Eyes (永遠の輝き)

「Don't Cry」

  • 購入金額

    2,800円

  • 購入日

    1986年頃

  • 購入場所

24人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (6)

  • 北のラブリエさん

    2013/06/22

    たしかにこれは「いわゆるプログレ」ではないですね。
    でもある意味では進歩的であったのではないかと思っています。
    いや、結構好きなんですよ、ASIAw
  • cybercatさん

    2013/06/22

    北のラブリエ さん、
    >でもある意味では進歩的であったのではないかと思っています。
    そうですね。
    それが時代の、ファンの、そして自分たちの望んでいる方向だったかどうかは別として。

    >いや、結構好きなんですよ、ASIAw
    自分も嫌いならばこんなに持っていないですww
    まだご紹介してないのもあるしwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
  • きっちょむさん

    2013/10/27

    これは確かにプログレとは言いづらいですね。
    ちょっとフュージョンっぽい雰囲気も?
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