本多俊之。1980年代末から活躍するサキソフォニスト。時代柄ジャズ~クロスオーバーのあたりの作風でデビューしたが、サックスの演奏のみに固執するのではなく、楽曲製作やプロデュースなどにもかかわっていたため、音楽の間口が広い。機械との融合もはやくから積極的に取り入れ、単なるジャズフィールドのプレイヤーとしてではない、存在感を持つアーティスト。
そんな彼だから時代によってかなり楽曲傾向が異なる。軽めのコンテンポラリー系だった時代、どジャズの時代、少し前衛がかった時代、打ち込み中心の時代....彼のプレイ、彼の作り出す音世界に魅せられていればそんな彼の遍歴を受け入れられる。でも彼の「この曲が気に入ったから、同系統の曲を探したい」という向きにはこのベストアルバムは向かないかもしれない。
本作は当時テレビ朝日系で放送されていたニュース番組「ニュースステーション」の初期のころのテーマソング、「GOOD EVENING」を目玉とするベスト盤。「ニュースステーション」は現在も続く、「ニュースのバラエティ化」の先鞭をつけた番組で、メインキャスターの久米宏のキャラと脇を固めるコメンテーターのわかりやすい解説で、ニュースは退屈なもの、というかつての常識を覆した番組だが、採用する音楽も良質だった。松岡直也や後にはCHAGE and ASKAのASKA、ゴスペラーズ、U2などツウ好みの音楽が使われたが、振り返ってみるとこの本多の「GOOD EVENING」が採用期間がもっとも長い。この時期には他の対抗番組もあまりなく、この曲が聴こえると「ニュースだ」という感じがしていた。
そんなヒット曲を内包する作品だが....前述のように統一感はない。
「DREAM COMES TRUE」。スゥインギィな4ビートジャズ、だがベースは一部は確かに定番のランニングベースだが、曲の途中でもまるでソロなみの高音弦を使うラインで「いわゆる」4ビートとは異なる。担当は交響楽団のコントラバス奏者に師事しながら、ジャズへ傾倒したMirosrav Vitouš。もしかしたら本多のソロよりなが~いピアノソロはChick Corea!どちらかというとChick Coreaトリオに本多がゲスト参加したかのような造り。
一転して激しい打ち込みでビート系の「THE WOMAN FROM MARUSA」こと「マルサの女」は同名映画のテーマ曲。ひょっとしたら前述の「GOOD EVENING」より知名度は高いかもしれない。硬い5拍子(5/4)に乗せて、6/4拍子風にフレーズを切り取る本多のソプラノ。リズムと上に載るメロディの切れ目があっていなくて、緊張感があり不安定な曲になっている。
ラストはその「GOOD EVENING」。当時の小型TVで聴いたイメージが強かったので、打ち込みならではの硬いリズムで、全音符で鳴らされるベース音も硬くシンセサイズされた低音独特のビヨビヨ感?(←判るかナァ)があるためてっきりALL打ち込みだと思っていた。クレジットを見てはじめて気が付いたが、ナルチョこと鳴瀬喜博がベースで参加している。ただそれはスラップ音によるベースの装飾だけ、という贅沢な使い方!
先行するオリジナルアルバム
のような統一感はないけれど、本多俊之、という奥深い音楽家のいろんな側面が見える煌くプリズムのよう。
そのごった煮が、いろんな音楽の味が交じり合って没入できない、と否定的になるのではなく、新しい側面の音楽に出会うシャッフルプレイのような面白さとして許容できれば、アリ、の作品です。【収録曲】
1. RAKUEN
2. MACHI NO KISEN (町の汽船)
3. DREAM COMES TRUE
4. MODERN
5. RAPSODIE DE LA RUSSIE
6. CAN'T TAKE AWAY FROM ME
7. THE WOMAN FROM MARUSA (マルサの女)
8. MOONLIGHT DANCE (月のテラス)
9. TIDAK BISA
10. BAGUS
11. GOOD EVENING
ほとんど試聴ファイルないのでiTunes該当アルバムページ
「GOOD EVENING」(本作に含まれているバージョンではなく、サックス本多にギター是方博邦、ベース鳴瀬喜博、ドラムス東原力哉、パーカッション 小川美潮でのTVスタジオライヴ版)
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購入金額
3,200円
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購入日
1989年頃
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購入場所
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