レビューメディア「ジグソー」

乾いた肌触り、夜の薫り

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。「誰にも似ていない」。芸術の世界ではサイコーの褒め言葉です。音楽史に名を残す名盤、でもあまりに際立つ個性のためにそれをフォローする人もいない。そんな特異な位置にいる作品をご紹介します。

Donald Fagen。あの名盤“Aja(エイジャ/彩)”

を残したSteely Danの中心人物。彼らは自分たちの思い描く音の世界を構築するためには、求める演奏のレベルが高すぎてバンドという形態ではほとんど活動せず、スゴ腕スタジオミュージシャンを呼んでのアルバム制作のみというユニットだった。ただ前述の“Aja”と続く“Gaucho(ガウチョ)”の評価があまりに高すぎて、そのプレッシャーでSteely DanのかたわれWalter Beckerが麻薬中毒になるなどの出来事があり、バンド?としての活動を一時中止する。その直後に出されたDonaldのソロアルバムが“The Nightfly”。

作品の方向性としてはSteely Danよりもポップな耳あたりのよい?楽曲だが、完成度としては“Aja”~“Gaucho”路線で凄腕ミュージシャンを呼んで小節の端々まで目を行き届かせて造った作品。ただSteely Danのように音のモザイクと言ったような前衛性はやや影を潜めている。音の密度としてはやや薄く感じるくらいだが、当時の録音技術の粋をこらしたであろうその音は左右の端の広がりや定位の端々まで神経が通っていて、無駄な音がない。

I.G.Y.」は軽くシャッフルした温度感のないリズム。ドラマーは基本トラックがMarvin GayeやMichael Jacksonのドラムを担当したJames Gadson、追加トラックがJeff Porcaro

という豪華さ。さらにベースは名手Anthony Jackson。それにDonaldの操るシンセハーモニカの太い音の物悲しいオブリガードが寄り添う。改めて聴いてみると見通しが良い音場構成。右端のハイハットと左に寄せられたミュートギターのリズムのハネがすべて同じで、そこが「冷たい肌触り」なんだけど、「汗をかかないロック」という感じでとてもCOOL。

Maxine」。ジャズの薫り漂う小曲。このアルバムだと取っつきの良さと彼らの特徴がよく出た「I.G.Y.」や「New Frontier」が有名だが、あえて。端っこで鳴っているDonaldのオルガンと、Ed GreenのCOOLなリズムがこれもCOOL。

タイトルチューンの「The Nightfly」は、Marcus MillerのベースとJeffのステディーかつ遊び心のあるリズムセクションが淡々と続く(←変な言い方だなw)上に乗るメロディーとコード展開が凝りまくっていてハッとする造り。ギターソロは音とフレーズだけで、Larry Carlton

とわかる歌心溢れるものなんだけど、この作品を貫く温度感の無さで夜、砂漠でラジオから聞こえてくる音楽のよう(いや、砂漠で生活したことはないけどっ)。

聴き直してみるとやはり名盤。端々まで神経が通って創り上げた音世界。でもSteely Danよりもかみ砕きやすい。イヤそれは表面だけかな。噛めば噛むほど味が出る、聴き返せば聴き返すほどシカケが判るそんな盤。

そんな名盤のため、アナログレコード時代から何度も高音質盤がリリースされていたがCDの時代になってもそれはまた。

CDの高品位盤といえば、最近はSACD(Super Audio CD)の様なCDのフォーマット(サンプリング周波数44.1kHz、ビット深度16bit)を超えたディスクやディスクフォーマットの制限を受けない高品位音源の配信が出てきたが、CDの制約の上で高音質化技術が施されたものがいくつかあった。

最近では、より細密なピッチでの書き込みが必要で記録面に使われる素材もよりエッジの立った加工が必要なブルーレイディスクに使われる技術を使ったBlu-spec CDや液晶加工の技術を応用したSHM-CDが注目されているが、一時期金蒸着加工がもてはやされた時期があった。

金は化学変化に強いので、通常のアルミより腐食しづらいという点の他に、粒子径が小さいのでレーザーの乱反射が低減されてより正確な信号が読み取れる、というのが謳い文句。

CDを留めるベースのプラスチックまで金色にせんでも(^^ゞ
CDを留めるベースのプラスチックまで金色にせんでも(^^ゞ

Super Bit MappingやK2スーパーコーディングのように16ビットの縛りの中で何とか高ビットに近づけようとするソフト的な手法もあるけれど、CDも物体である以上、物性に磨きをかけて高音質化する、という考え方は有効みたい。

栄光の?メイド・イン・ジャパーン!!
栄光の?メイド・イン・ジャパーン!!

30年も前(リリースは1982年)の作品なのに色あせない、まさに金のように「錆びない」オンリーワンの音楽です。
*限定盤のきんいろバージョンはAmazonではないので、リンクは試聴ファイルがあるmp3につないでます。

【収録曲】
1. I.G.Y.
2. Green Flower Street
3. Ruby Baby
4. Maxine
5. New Frontier
6. The Nightfly
7. The Goodbye Look
8. Walk Between Raindrops

「The Nightfly」

更新: 2021/04/13
必聴度

聴いた時期も含めて、自分にとっては大切な作品

「こんな大人の音楽わかる自分スゴイ」って感じ??

  • 購入金額

    4,300円

  • 購入日

    1988年頃

  • 購入場所

22人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (6)

  • jive9821さん

    2013/04/02

    この作品は最初オーディオ的な興味から入手したのですが、聴き込んでいくうちに音楽の方にすっかりとハマッてしまいました。通常版のCDでは満足できなくなり、LPを買い直したという思い出もあります。

    個人的にはLPでいうA面の流れが大好きでした。「I.G.Y.」を聴くために針を下ろして、結局そのまま「Maxine」まで聴いてしまったことも多いほどです。

    金蒸着盤や重量盤LPでも聴いてみたいのですが、さすがになかなか手に入りません…。
  • cybercatさん

    2013/04/03

    jive9821さん、コメントありがとうございます!
    自分は裏のNew Frontier~The Nightflyのなんとも乾いた感じの、「アメリカ」的な流れが大好きです(Larry Carltonのプレイが最も際立つ2曲でもあります)。

    この盤はハイレゾで聴いて見たいです。
  • 北のラブリエさん

    2013/04/03

    これは誰がなんと言おうと五つ星ですよね。
    私はナイトフライトリロジーボックスのサラウンド版が聴きたいです。
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