所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。同じ内容のものを何度も購入してしまうことがあります。本ならば装丁などが豪華な愛蔵版、工業製品でも限定色や特殊な表面加工がされたもの...音楽ソースはそれらに加えて音楽フォーマットの差があります。配信の比率が上がっているとはいえ、2014年現在まだ有償の音楽供給の一番大きいボリュームはCD形式ですが、その制限を破るべく工夫をした作品が出ることがあります。自分が惚れ込んでいる作品に関してはそれらの効果を確認したく同内容のものを購入してしまうことがあります。そんな作品をご紹介します。
POPS史上燦然と輝く名盤、“The Nightfly”。ポップなロックに巧みにジャズのテイストをいれたユニット、Steely Danの中心人物、Donald Fagenのソロアルバム。「ロック名盤百選」とか「ベストAORアルバムTOP10」には必ず名が挙げられる超名盤。もともとバンドだったSteely Danが(主に)Donaldの凝り性が嵩じて、「自分たちの求める音楽を実現できるならば、必ずしも自分たちが演奏しなくても良い」との考え方になり、演奏をメインとしたいメンバーがどんどん散り、最終的にはDonaldとWalter Beckerを中心とするプロジェクト形態になった後、"Aja(エイジャ)"
というジャズとロックの融合した歴史的名盤を遺すが、その3年後活動停止する。
Donald(とプロデューサー)のあまりの緻密な構築と制作指示にWalterが精神的に追い詰められたという感じだったが、本作はその解散直後の作品。相変わらず、緻密な設計が成されているのだが、"Aja"やその次の(そして初期Steely Danの最終アルバムとなった)“Gaucho(ガウチョ)”に比べると大幅に親しみやすい。
発売は1980年代なのだが、その時点からみた過去から明るい未来を俯瞰すると言うようなコンセプトで、その「未来」である現在(1982年)は決してバラ色ではないのだが、というような風刺も込められているDonald独特のユーモアが感じられるものなのだが、明るく軽い曲調ながら乾いた風が感じられる一種独特の風合いを持つ作品。この後Donaldは10年前後のピッチで計4枚の作品を出しているが(2014年現在)、続く“Kamakiriad”
も含め、当時の時代背景さえ作品のカラーに取り入れた本作を超えてはいない。
cybercatも実は学生時代から持つ金ぴか盤
があるのだが、その後2011年のDSDマスターを使用したSACDハイブリッド盤が出たというので入手してみた(SACD層の再生環境がないことは \(^∀\)(/∀^)/)。DSDは信号を一定時間ごとに数値化するリニアPCMとは全く異なるアナデジ変換方式で、データの粗密で信号を記録する。アナログ波形の高低の変化が大きいところほど信号の密度が高く、変化が小さい部分は密度が低くなるという形式で、横軸をサンプリング周波数、縦軸を縦軸に量子化ビット数でマス目を書いたリニアPCM方式とは根本的に異なる。リニアPCMがそのサンプリング周波数の半分の周波数のほぼ上端まで周波数特性が変わらないのに比べて、原理的に高音下がりになるとか(ただサンプリング周波数が充分高い(=2.8MHz)ので聴感上は問題とならない)、量子化ビット数のキメを超えて細かくできないリニアPCMと比べて、より振幅が大きいところに多くのデータを使うので仕上がりがなめらかとかで「アナログ的」とも言われる。その技法を用いてSACD層は作られているのだが、そうして作られたマスターがCD層の原盤ともなっている。
果たしてCD層でもその風合いが違う。元の金ぴか盤はダイナミックレンジがやや狭く「感じる」。音圧を稼がない「昔の」ミックスで、ピークにCDの最大を合わせるので、小さい音が埋もれてしまう感じ。このDSDミックス盤はやや流行っぽく音圧を稼いでいる。その分真のダイナミックレンジは低いのかもしれないが、埋もれていた細部が判る鮮度がある。より、分析的に聴ける。Larry Carltonの歌心溢れるソロが有名な「The Nightfly」だけど、左chのリズムギターピックの頭を余りだしていないピッキングのニュアンスや(プレイはHugh McCrackenかRick Derringer)、矢野顕子のところ
でもグルーヴィなベースを聴かせた名手Will Leeのランニングベースの妙がより聴き取れる「Walk Between Raindrops」など、金ぴか盤では感じられなかった個々のプレイが聴き取れる。
一度ご紹介しているのでかぶらないところで言うと「Green Flower Street」は、2拍目頭にバスドラを持ってきた16ビートで始まるCOOLチューンだが、TOTOとは違う冷めた熱さのJeff Porcaroのプレイと、煌びやかなGreg Phillinganesのエレピが、凝ったコードとリズムを形成する上で、歌うLarryのギターソロがまたいい。リズム的にとても凝った曲で、最後のズバっと切れて終わる終わり方も斬新。
「Ruby Baby」は、Donaldがオルガンを通しで弾くスローシャッフルで、サビの歌のラインがコーラスでハッピーなブラスのラインがオブリで入る曲調からは(ロックっ気のないLarryのギタープレイ以外は)後期のThe Doobie Brothers
の様なイメージすらあるカントリー調ロックなのだが、コード進行とリズムのシカケが一筋縄ではいかない。Gregのピアノソロはジャジィかつブルージィでひねり満載w
「The Goodbye Look」は、「別れの予感」という訳とはまるで異なるJeffとStarz Vanderlocketが織りなすキューバンリズムの上で歌われる小粋な歌。この曲は詞の解釈が幾通りもあるもので、このアルバム全体を貫く「80年代から観たら50年代に想像していた未来って明るいもんじゃないゼ?」というシニカルな視点と、「愛しの」Maxineとの別れを予見した男の心情とが重ね合わせられている。そこを彩るのが明るいリズムと、明るい展開のLarryのクリーンなギターソロっていうのだから逆説的に面白い。
Stevie Wonderを始めあまたのアーティスト/ミュージシャンがリスペクトするDonaldは、まさに「Musician's musician」であり、その中でも時代と/音と/プレイと/楽曲とが奇跡のように融合した本作“The Nightfly”は「Music for musicians」。
緻密に設計された音世界の上で、Donaldの感性が遊ぶ。
設計図通り一分の隙もなく建てられた音の構築物の扉を開けると、"Aja(エイジャ)"よりわかりやすい彼の茶目っ気溢れる「ドナルド・フェイゲン・わぁるど」が広がる。
その音世界に遊ぶのがどんなに愉しいことか!
友よ、これを聴かずして死ぬなかれ、そう言い切れる作品です。
【収録曲】
1. I.G.Y.
2. Green Flower Street
3. Ruby Baby
4. Maxine (愛しのマキシン)
5. New Frontier
6. The Nightfly
7. The Goodbye Look
8. Walk Between Raindrops (雨に歩けば )
「Green Flower Street」
高音質フォーマットとしては次々新しいのが出るが...
それに値するソースはなかなかめったに現れない
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購入金額
3,200円
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購入日
2012年頃
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購入場所
jive9821さん
2021/05/06
この作品の45rpm2枚組レコードが素晴らしい音でした。
低域の質をアピールするためのソースとして使われたのですが、ベースラインの
躍動感など、私が持っている重量盤LPと比べても明らかに良かったと思います。
問題はマニアが多い作品なので、すぐに入手難となってしまうことで…。
cybercatさん
2021/05/06
自分は明らかにソース>>>音質の評価軸のヒトなので、たとえFM放送のカセットテープエアチェックでも「良いものは良い」し、高音質であること自体には重きを置いていないのですが、この作品は作り込みも相まって、良い音で聴くと本当に気持ちよいですから。