レビューメディア「ジグソー」

他人に曲を預けても、しっかりと自分たちの曲であるというゆるぎない自信

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。長い歴史・芸歴を持つアーティスト/グループが一度はやるのが「セルフカバー」や「リテイク」です。録音当時の技術(演奏・録音含む)に納得がいかない、コンサート・ライヴで繰り返し演奏するうちに新しいアレンジができた、使っている機材・音色がその時点の流行を取り入れすぎていて今聞くと古臭く感じるというような理由が多くを占めますが、グループではメンツが変わったので現行メンバーでやりたい、という場合もあります。ずいぶんと長い歴史を持つアメリカンロックバンドが手掛けた「ちょっと変わった」セルフカバーアルバムをご紹介します。

The Doobie Brothers。1970年代から活動を続ける老舗アメリカンロックバンド。途中1980年代に中断時期があるが、1990年前後から現在まで継続的に活動するバンドだ。とは言ってもやはり黄金期は1970年代。しかしこのバンドはその約10年でも時期によって大きく曲調が異なる。初期はギターのTom Johnstonを中心としたギターロックバンドで、ツインギター・ツインドラムスのカントリー調のフォーキィな楽曲や、ワイルドで豪快なアメリカンロックを得意としていた。それが彼の体調問題で後半はバンドの顔がMichael McDonaldとなる。彼は「ブルーアイドソウル」と呼ばれるブラコン系のセンスを持っていたので、曲調はがらりと洗練され、都会的なAORとなる。ちょうどその系統のブームにも乗っかり、バンドはピークを迎える。再結成後は復帰したTomが主導権を取り(Michaelは不参加)、また初期に戻った様なアメリカンロックのカテゴリーで活動している。

これだけ長い歴史を持つバンド、メンバーチェンジとは無縁とは言えず、正式メンバーとクレジットされただけでも2015年現在14人に上る。ただこのバンドの良いところは、新旧メンバーがお互いの音楽性に寛容でいまだに交流があることだ。契約社会のアメリカでは、バンドメンバーとはいえ「契約」で、メンバー変更の際には「契約解消」となるが一部のバンドではそれが双方合意の上でなく「解雇」という形になったりしてしこりを残したりする。特にビッグバンドはこの傾向が強く、旧メンバーが現体制を悪しざまに言ったり、批判合戦になることも少なくない。

ところが、The Doobie Brothersは、いわばリーダーともいえたTomの療養中のピンチヒッターという意識があったのか、全盛期後期の音楽的リーダーともいえるMichaelも初期の名曲を排除しなかったし、再結成後も今度はTomがMichael時代の名曲をコンサートの最高潮のあたりで取り上げるなど互いの音楽性に理解を示しており、大人数がかかわる長寿ビッグネームバンドとしては例外的に抗争とは無縁で、一時期離脱してもまたメンバーとして復帰したり、そこまででなくとも旧メンバーがゲストとして客演するということも多く、メンバーが互いにリスペクトしている感じだ。

そんな彼らも既に全員60歳代半ば、すでに鬼籍に入ったメンバーも出てきた。かつて黄金期(後期)を支えたKeith KnudsenやCornelius Bumpusなど主要メンバーも今はなく、現在は正式メンバーとしてはTomのほかにはPatrick SimmonsとJohn McFeeだけで、奇しくもギタリストばかりのバンドになってしまった(他はサポートメンバー)。

その彼らが4年ぶりに出したスタジオアルバムが本作“Southbound”。ニュースとしてはかつてのメンバー、Michaelが大幅にかかわっている、ということと、本作がオリジナルアルバムでなくセルフカバーである、ということ。長い歴史のあるバンドが自分たちのかつての作品を新録音して新録ベストを作るのは珍しいことではないが、今回は大胆に外部のカントリー系アーティストを入れて、自分たちがむしろサポートに回る曲もあるというのが面白い。そして、彼らの間口の広い音楽性を象徴するように、Tom時代の曲もMichael時代の曲も広く選ばれていて、まさに選曲的にはベストの構成となっている。

今回カントリー系のアーティストとのコラボということだからかもしれないが、カントリー調の小曲「Black Water」から始まる。コンサートの中間の「息抜き」的なポジションで使われる、大事に歌い継がれてシングルB面から全米1位になった曲だが、前期の代表曲の「Listen to the Music」や「China Grove」、後期の「Takin' It to the Streets」などの「通りの良い曲」を先頭に持ってこなかったのが彼らの懐の深さというか音楽性の多様さというかを感じる。最初はリズムマシンのリズム+シンセのコードで「およっ?」と思うが、バンジョーとヴァイオリンが入ると懐かしいDoobies!そして抜群のコーラスワーク!!

後期の代表曲「What a Fool Believes」は意外なほど原曲通りなピアノのイントロで、歌にかかるタイミングでMichaelのハスキーな声を期待したら女性の声で裏切られる。ヴォーカルをとるのはカントリー界のトップアーティストSara Evans。後半になると初出時よりずいぶんと貫禄が出た声でMichaelが絡み、「男臭い」Doobiesの世界に。

「Long Train Runnin'」はカントリー界の大酒飲み?Toby KeithがTomと掛け合いで歌う。最初の印象的なギターのカッティングはフランジャーが薄くかかっていて、かなり現代的だけれど、このブルージィなテイストを持つ曲のアクが強くてそんなに違和感がない。ここでハーモニカソロを取るのはHuey Lewis & The NewsのHuey。彼はJohnと親交があるようだ。

アレンジも、大きく変えているのではないが8分音符の喰いが16分音符になっていたり、フェイクのところの崩し方がジャジィだったりとちょっとひねりを利かせているモノもあってニヤリとできる。そしてそうして遊ぼうが、リードヴォーカルを他の人が歌おうがしっかりと「Doobies」となっているあたりが、彼等の唯一無二さを表している。

今回共演したアーティストの中には「憧れの」Doobiesとの共演を夢のよう、と語る人もいたとか。そんな彼等を自分たちの曲で遊ばせて、でもやっぱり最後には自分たちのカラーにしちゃうあたりはさすがの貫禄。今回は一歩引いて自分たちの作品が若いヤツらにどう料理されるのかを楽しんだ彼等。

決して若いとはいえないけれど、まだまだ若いヤツらには負けへんで~(←なぜか関西弁、そんな未来に向けて期待させるパワーを感じます。次は14枚目のオリジナル期待で!

いい歳の取り方してるなー。
いい歳の取り方してるなー。

【収録曲】
1. Black Water (with Zac Brown Band)
2. Listen to the Music (with Blake Shelton and Hunter Hayes on Guitar)
3. What a Fool Believes (with Sara Evans)
4. Long Train Runnin' (with Toby Keith and Huey Lewis on Harmonica)
5. China Grove (with Chris Young)
6. Takin' It to the Streets (with Love and Theft)
7. Jesus Is Just Alright (with Casey James)
8. Rockin' Down the Highway (with Brad Paisley)
9. Take Me in Your Arms (Rock Me) (with Tyler Farr)
10. South City Midnight Lady (with Jerrod Niemann)
11. You Belong to Me
  (with Amanda Sudano Ramirez of the band Johnnyswim with Vince Gill on guitar)
12. Nobody Intro
13. Nobody (with Charlie Worsham)

「アルバムダイジェスト(China Grove~What a Fool Believes~Black Water~Long Train Runnin'~Rockin' Down the Highway)」

  • 購入金額

    2,700円

  • 購入日

    2015年01月25日

  • 購入場所

    新星堂

20人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • パッチコさん

    2015/02/25

    Doobie Brothers すごいです。もうかなりの年ですよね。
    ストーンズもエアロスミスもすごいけど。
    cybercatさんも幅広いなあ。
  • cybercatさん

    2015/02/25

    Doobiesも全員60歳代半ば..というより70前といった方が良いような年齢ですから、ある意味スゴイ。でもこのグループ、そのいかがわしい名前(Doobie Brothers=大麻兄弟)にもかかわらず(あるいは兄弟だから?)おおらかで、いろんな音楽を取りこんで自分のものにしてきましたので、今回のような一歩引いた立ち位置というのもできるのでしょうね(年齢的な成熟も合せて)。

    このジャンルはストライクゾーンど真ん中からさほどに遠くありません←ドンだけストライクゾーン広いんやw

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