私が普段愛用しているインナーイヤーフォンはダイナミック型のドライバーを搭載したものが多く、BA(バランスド・アーマチュア)タイプの製品というとこの2つ程度しかありません。
上記2つの内、EHP-BA100はシングルBA、ATH-IM02がデュアルBA構成ということで、帯域ごとに細かくユニットを使い分けているようなマルチBAの製品を使ったことがありませんでした。もちろん普段使っているダイナミック型の製品も気に入っているから使い続けている訳で、何か大きな不満があるという訳ではありません。
ただ、最近ますます増えている高級インナーイヤーフォンでは、とにかく多くのBAユニットを搭載したような製品が増えていて、たまにはBAドライバーを沢山積んでいるような製品を使ってみたいと思い、構成の割には割安な、このUltimate Ears UE900(またはマイナーチェンジモデルのUE900s)に目をつけていました。
価格的に特別安いというほどではなかったものの、比較的手頃なものがあったので早速購入してみました。
Ultimate Earsはこの製品の発売前にLogitech(日本でいうロジクール)の傘下に収まっているため、外箱のデザインもロジクールのPC周辺機器とよく似ていますね。
イヤーピースは装着済みの1種類を除き欠品でしたが、ケーブルはMFI認証済みのリモコンケーブル、通常のステレオミニプラグケーブルの2種類がきちんと付いていました。
なお、UE900シリーズのケーブルはMMCXであり、サードパーティーから発売されている数多くのリケーブルに対応します。
ドライバーごとの繋がりにやや不自然さがある
まずは純正のステレオミニプラグケーブル(写真の黒いケーブル)を使って試聴してみます。欠品だったイヤーピースですが、SENNHEISERのIE80純正品やSpinFit等を試した結果、意外と良かったMASTER & DYNAMIC ME01/ME03の添付品を使うことにしました。
試聴環境はLINDEMANN USB-DAC 24/192X+emagic a6|2mという据え置き環境と、ONKYO DAC-HA300、SONY NW-A16というポータブル環境を利用します。
試聴ソースはいつも通りのこの辺りを中心に適当に選んでいます。
まずは据え置き環境での音質ですが、最低域があまりズシリとは出てこずに、その少し上の辺りから急にきちんと出てくるという印象です。中域はBAらしくダイナミック型にはないふわりと広がるような広さがあるのですが、そこから高域のユニットとの間に少し谷間が出来ているのか、音色によって妙にヌケが悪く感じられる部分が出来ます。あくまで気になるのはソース次第ですが。高域はかなり緻密ですが、切れ味はやや大人しめという印象です。
上記ソースの中で最も印象が良かったのは「Nのハコ」でしょうか。収録曲の「Stay By My Side」(倉木麻衣のカバー)などはかなり良い雰囲気で鳴ってくれます。「Music」も悪いという訳では無いのですが、ヴァイオリンの音色は正直言ってEHP-BA100の方が一枚上手です。
はっきりと不満が出るのはシカゴのホーンの音色や、TOTOのロック系楽曲です。特にTOTOでは前述したヌケの悪さが気になってしまい、あまり曲を楽しめません。シカゴのホーンも丁度ユニットの谷間にかかる部分があるのか、妙に音色が貧相に感じられてしまう時があります。この辺りはATH-IM02の方がはっきりと上でしょう。
次に再生機器をNW-A16に変更してみます。すると据え置き環境で弱点と感じられた部分が上手い具合にカバーされ、バランスが整うようになってきます。TOTOに関してはNW-A16の低域方向の限界があり、さほど快適とはいえないのですが、シカゴはこれで充分満足いく程度になりました。普段割合どの相手でもそこそこ上手く鳴らしてくれるa6|2mが、はっきりと劣るというのは少々意外でした。
ここで、手持ちにMMCXケーブルが無かったかと探していて、比較的良質なケーブルがあったのでリケーブルも試してみましょう。
この製品の標準添付ケーブルは単売品のHCMX-HF120と同等品であり、6NグレードのOFCを採用するなど製品クラスの割にはかなり良質なケーブルなのです。但し、形状自体はMMCXであるものの、端子の深さなどの問題で使えない製品も結構あるということです。
幸いUE900では問題なく使えましたので、これ以降の試聴はこのケーブルで行いました。なお、純正ケーブルと比較すると低域~中域の密度や音圧が明らかに上がります。高域方向はより透明度や緻密さは上がりますが、中高域が少し落ち着く分よりUE900の特徴は良くも悪くもはっきり出てしまう部分があります。
このケーブルに替えてやると、NW-A16でも低域方向がいくらか改善され、純正ケーブルよりはより万能型サウンドになります。もちろんNW-A16自体低域方向の馬力や解像度はあまりない製品ですので、あくまで純正ケーブルよりはマシになるという程度ですが。
そしてここで再生機器を更にDAC-HA300に替えてやると、NW-A16よりも低域方向が改善されるだけではなく、空間が一気に広くなり、ダイナミック型とは明らかに違う音を出してくれるようになります。DAC-HA300自体の音質傾向もあり、キレや迫力というのはやや落ちるのですが、多くの楽曲でこの組み合わせが最も好結果でした。
今まで外出時に最もよく使っていたのはSENNHEISER IE80(もどき)ですが、万能性でこそ一歩譲るものの、ミディアムテンポ以下の楽曲などでは特にUE900の空間表現に魅力が出て来ました。これなら気分次第で使い分けるという水準に辿り着いています。
ただ、どうしても特に中域と高域間にある谷間の部分はある程度気になる水準で感じられてしまいます。DAC-HA300では許容範囲ではありますが、この辺りはリケーブル等で何とかならないかもう少し試してみたいと思います。
個人的には新品の価格を払うのはやや割高、今回の購入価格であれば納得出来る範囲というのが、現時点での印象となります。リケーブルやイヤーピースの交換等で印象が変わった場合には、ここに改めて記載したいと思います。
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購入金額
14,904円
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購入日
2016年10月03日
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購入場所
ソフマップ
harmankardonさん
2016/10/04
jive9821さん
2016/10/04
BAならではの良さというのは確かにあるのですが、ユニットを増やせば増やすほど完成度を上げるのは難しくなっていくのでしょうね。
このUE900はもう少し使い込んでみようとは思います。もう少しでかなり良くなってくれそうな気もする音は持っていますし…。
cybercatさん
2016/10/05
ユニット増やせば音は濃密にはなりますが、各BAユニットが主張すればするほど、キレやスピード感はなくなって重苦しい感じにもなるし、かといってユニットの使い方を抑えめにするとマルチの良さがなくなるし...マルチを極めた人がシングルに戻る、というのがわかる気がします。
もちろんマルチならではの繊細で濃厚な表現というのも捨てがたいのですが。
あと各ユニットの繋ぎ方に各メーカーの個性が出ますね。役割を完全に分けるか重ねるか。重ねる場合は位相などがピタっと合っていないとキモチ悪いので、ユニバーサルだとハンデがあるのではないでしょうか。マルチになればなるほどCIEMのアドバンテージが出てくると思いますね。
jive9821さん
2016/10/05
最近の高級機ではやたらとユニット数を増やす方向に傾いていますので、一度マルチBAの傾向を掴みたいと思って買ってみたのですが、確かに難しいものだと実感しますね。おそらく実際にチューニングした人たちは、これで正しいと思って発売しているわけでしょうし…。
CIEMも当然興味はあるのですが、きちんとした構成で作るととても手の出る価格ではなく、現実的には難しいかなという気がしています。
最近SENNHEISER IE800を聴いて、ダイナミック型とは思えない圧倒的に細かい音にちょっと衝撃を受け、いつか欲しいという気分になっていますが…。