慣れない名前と地名に翻弄されたぐらいの読書記憶しか残っておりませんでしたが、塩野七生さんの『ローマ人の手紙』で啓発され、きちんと再読しようと探しに出かけた書店で、こちらの学術文庫も購入。
しかし手付かずのまま数年が経過。
此度の入院に伴い味読することができました。
名文と誉れ高いカエサルの硬質な文章は、岩波の近山訳でも楽しめると思いますが、この國原吉之助氏訳は文体が読み易く生き生きとしており、躍動感に溢れスピーディーさをより感じらることが出来る。
一切の無駄を省き、感情を抑え、時に冷徹ささえ感じさせる三人称の文体は、「真の技巧は技巧を隠すことにある」という箴言そのもの。
かのキケロが
「確かに素晴らしい。それはむき出しで、率直で、優雅である。
裸体が着物を脱いでいるように、あらゆる修辞的装飾をかなぐり捨てている」
とまで賛辞を惜しまない不朽の名作。
第一巻40節、噂に聞く果敢で獰猛なゲルマニア人に怯えるローマの百人隊長たちの戦意を高めるべく叱咤する有名なくだり、
「……兵士らの心で、廉恥と義務感が勝つか、それとも怯懦が勝つか、それをできるだけ早く知りたいと思う。
しかし誰一人ついて来なければ、それでも予は、第十軍団だけ率いて、出発するだろう。
この軍団兵の忠誠だけは、疑っていない。
彼らは予の護衛隊となってくれるだろう」
こんな言葉をユリウス・カエサルから投げかけられて、奮い立たない男はいないでしょう!
当時、カエサルの戦況報告を心待ちに読んでいたローマ市民の熱狂ぶりは相当なものだったらしい。
カエサルに嫉妬し政界への進出を拒もうとする元老院を始めとする勢力を、こちらはペンの力によって封じ込めた文武両道の見事さ。
第五巻から第六巻にかけて名将ラビエヌスの活躍っぷりも素晴らしく描かれている。
圧巻なのはクライマックスにあたる第七巻、七年目の戦争。
好敵手ウェルキンゲトリクスの描写は、カエサルも一目をおいていたのであろう、とても魅力的に描かれている。
そして何時終わるとも知れぬ烈しい七年にわたる戦記をやはり見事なまでに簡潔に締めくくる。
「カエサルは、ビブラクテに冬営することに決める。
この年の戦績がカエサルの報告で知れると、ローマでは二十日間の感謝祭が催される。」
文庫本としては価格が少々高く付きますが、巻末の専門語略解も図解入りで、ガリア遠征の地図とともに解りやすいのもお勧めできるものと思います。
なおこちらの講談社学術文庫版には、遠征時後半にカエサルの秘書長を務め、のちに執政官となるヒルティウスによる第八巻、八年目と九年目の戦争が収録されております。
カエサルのルビコン渡河から始まる『内乱記』への繋ぎになる重要な資料ともいえるでしょう。
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購入金額
1,313円
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購入日
2009年頃
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購入場所
めぐりさん
2011/12/10
というか、本とは入院されていないのでは!?と思わせる読みごたえある、素晴らしきモノ語り。
sukiyakiさん
2011/12/10
vingt-et-unさん
2011/12/10
世界史って、中国も欧州も歴史が深すぎて、なかなか日本史とリンクさせ辛いですよね…。
入院しているからこそ!( ̄^ ̄)ゞ
vingt-et-unさん
2011/12/10
原典が存在していない、写本によって書き継がれてきた二千年も前に書かれた戦況報告。
その中身は映画を観ているかのような迫真の内容でした。
気胸入院時以外でも、充分にオススメです。
北のラブリエさん
2011/12/10
歴史はどこまでも興味を惹きますね。
vingt-et-unさん
2011/12/10
途中、息苦しくなって見てみると、ドレーンのチューブ踏んづけたまま読み耽っておりました。
あー、これと一緒に『内乱記』(これまた買いっ放しシリーズ)も持ってくるべきでした…。
退会したユーザーさん
2012/09/13
現在、XIII巻(最後の努力)まで消化しました・・・
ここを渡れば人間世界の悲惨、渡らなければわが破滅。
進もう、神々の待つところへ!
我々を侮辱した敵の待つところへ!
賽は投げられた!
「ローマ人の物語」を食べきったら、「ガリア戦記」と「内乱記」も読んでみたいと思います(^^
vingt-et-unさん
2012/09/14
ユリウス・カエサルは著者が惚れ込む人間ゆえ、ぐいぐいと読ませますよね!
ガリア戦記も古典とは思えないほど活劇的な読み物でした。
退会したユーザーさん
2012/10/02
「ローマ人の物語」はXIIIからXV巻にかけて寂しい気分・・・
ローマが華やかなる時代にカエサル自らの手で書き記された「ガリア戦記」、景気付けに行ってみたいと思います!
vingt-et-unさん
2012/10/03
深まりゆく読書の秋週間のようですね。
>「ローマ人の物語」
実は読み切っていなかった私・・・。
退会したユーザーさん
2012/10/04
真夏から続く読書週間ですが、まだまだ続きそうです(^^
>「ローマ人の物語」
> 実は読み切っていなかった私・・・。
無理に読みきる必要はないかと・・・
各自が「これでローマは終わり!」と思ったところで読み終えるのが正しいのではないかと思います。
私はXI巻(終わりの始まり)辺りが終焉かなって思っています。
vingt-et-unさん
2012/10/06
でも実は読み切りたい欲望にも駆られているんですが、なかなかタイミングが(笑)
今、司馬さんの『街道をゆく』の近江散歩をぶらぶらしてから、再読なんですが松本清張の『日本の黒い霧』に突入予定です。
読書週間、いいですね。
一日に読める時間は限られておりますが、至福のひとときです。