レビューメディア「ジグソー」

セルフカバーによる再録ベスト!

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。セルフカバー。過去の曲の再録というのは過去の自分(達)の否定であったり、過去の曲が好きなファンに対しての裏切りであったりする場合もありますが、技術(演奏・演出・録音・機材..)の進歩を感じたり、最新ライブテイクに近い事が多いためライブに行くことが多いファンにはむしろなじみのアレンジで落ち着いたりする場合も多く、必ずしもマイナスではない。そんなセルフカバーアルバムをご紹介します。

CASIOPEA。現在は活動中止中の日本でのフュージョン黄金期のトップバンド。以前ご紹介した

もヘンタイセレクトだったが、今回も普通「CASIOPEAのアルバムTOP××」をセレクトすると5指にはまず入らない。たぶんTOP10まで広げても採用する人は少ないだろう。というのもこれは純粋なオリジナルアルバムではない。1曲の新曲以外は昔のヒット曲中心のセルフカバーアルバム。

グループを長期安定的に保つのは難しい。なれ合いにならず、でもケンカにもならずバンドを維持するのはアマチュアでも難しいが、それぞれが才能があるプロミュージシャンだとなおさら。さらに「プロ」ということではそれでメシを喰っているので、ギャラの配分やグループで作った曲のクレジットの問題(多くのバンドは(作詞)作曲者が完全なスコアを書いてきてそれを他メンバーがなぞるだけ、というような事はなくてコアになるメロディーやコード進行はきまっていても曲構成などはリハ中に変わっていくことの方が多いが、どのラインから「共作」とするのかは規定はないので⇒印税などに影響)、さらにはツアーの比率(アルバム主体かライブ主体か)などで意見が異なるのは当然のことでメンバーチェンジはどうしても起こる。CASIOPEAも3枚目のアルバムからメンバーが長期固定され上昇気流に乗り頂点を極めたが、約10年後にフロント(ギター&キーボード)とリズム(ベース&ドラムス)に分裂し、リーダーであり過半の楽曲の作曲者でもある野呂一生(ギター)がいるフロント組が“CASIOPEA”の名を引き継いだ。ベースにはチョッパーの達人ナルチョこと鳴瀬喜博が合流し、これは活動休止を宣言するまで約15年続いたが、ドラムスが流動的だった。分裂直後に参加した日山正明はわずかオリジナルアルバム3枚で脱退。その後を引き継いだのが熊谷徳明。彼はその後4年以上在籍し、後期安定期を形作る。

このアルバムはそんな時期に分裂前の「黄金期」の曲を再演したもの。曲によってはオリジナルが15年前のものもあり、(当時の)最新ライブではアレンジが違ってしまっているのもあり録り直ししたかったのもあるだろうし、また黄金期の名声が厚く陰を落としてもいたので、現在のメンツでやればココまでやれる!というのを示したかったのだろう。非常に気合いが入った演奏だし、アレンジも凝っているものも多い(特にDISC2)。

1枚目1曲目の「Asayake」は彼らの代名詞的名曲だが、比較的黄金期後半のライブアレンジを忠実になぞってある。FMでやってたライブなどを良く聴いてた私にはむしろなじみやすい。中間部のキーボードによるメインテーマの演奏部はリズムが喰っているさらに新しめのアレンジで、熊谷が黄金期のドラムス神保彰のジャストリズムとは少し違うが、スプラッシュシンバルをアクセントに上手く使ったリズムでそれはそれで味がある、イイ演奏を聴かせる。続く「Space Road」も初期の曲だがこれはかなり原曲に忠実だ。40小節に及ぶユニゾンプレイ(ギターとキーボード、ベースはオクターブ違いでフルユニゾン、ドラムスもキメのところはリズムユニゾン)はさすがのテクニック。3曲目「Midnight Rendezvous」と4曲目「Domino Line」も黄金期ライブのテイクにかなり近い(音色含め)。ドミノ倒しのところ(16分音符を基本にドラムス⇒ギター⇒ベース⇒キーボードと1音ずつ回していくこの曲の見せ場)もオリジナルアルバムでは普通の16分音符だが、半速などもはさむ新しいライブアレンジ。では黄金期のライブアレンジの単なるスタジオ録りかというとファーストアルバムに入っていた超絶技巧曲「Black Joke」のソロはあまり聴いたことがない新しいパターンだし、「Misty Lady」にもキーボードのオブリガードが新規に入っている。キーボードソロも音色、旋律ともあまりそれまで聴かれなかったアレンジだ。ベースとドラムが中心となるブレイクも入っており、元曲より緊張感にあふれている。2枚目に入るとさらに凝っており、「Lookin Up」はまったく違うストリングス系の音が多用されたアレンジでくる。生ピで入る部分も含めまったく元曲とは印象が異なる。続く「Conjunction」はサビ以外全編フルユニゾンの技巧曲だが、元曲の1.5倍ほどの長さになっており、彼らのテクニックに衰えがないことが判る。そういえばこのアルバム、基本的にあまりオーバーダビング(重ね撮り)を多用せず一発録りを中心に録音されている。そのためライナーにはセッティングの詳説がある。

4人の使用機材とセッティング図
4人の使用機材とセッティング図

初期の名曲「Swear」と「Galactic Funk」はアレンジは大変更はされていないが、前者は印象的なシンセピアノの音が変わっていること、後者はギターのオブリの入り方やソロがまったく異なっており、さらにドラムソロ前のブレイクはリズムがかなりひねってあるなど新しいことにチャレンジもしており、彼ら自身と機材の進歩と新たな解釈が読み取れる。

ただ聴く方としては過去の作品と比べてしまうのは致し方ないところがあり..オリジナル、もしくは以前のアレンジの方が好き、というのはでてくると思う。でも彼らの上に流れた年月を肯定的に受け止めればこういったアルバムもアリではないかと思う。唯一の新曲「Asian Dreamer」は少し東洋的な旋律をもつキャッチーな曲だが、オルガン音色でのキーボードソロなど今まであまり見られなかったアプローチもあり、過去の栄光の焼き直しで終わらない、という気概も感じる。

むしろ元曲を知らない世代の方がこのアルバムは正当に評価できるかもしれないと思える、珠玉の名曲アルバム、です。

【収録曲】 ()内初出アルバム
DISC 1
1. Asayake (SUPER FLIGHT)
2. Space Road (CASIOPEA)
3. Midnight Rendezvous (CASIOPEA)
4. Domino Line (CROSS POINT)
5. Hoshi-Zora (HALLE)
6. Black Joke (CASIOPEA)
7. Eyes Of The Mind (MAKE UP CITY)
8. North Sea (HALLE)
9. Misty Lady (PHOTOGRAPHS)
10. The Soundgraphy (THE SOUNDGRAPHY)

DISC 2
1. Lookin Up (PHOTOGRAPHS)
2. Conjunction (SUN SUN)
3. Take Me (SUPER FLIGHT)
4. Down Upbeat (DOWN UPBEAT)
5. The Continental Way (DOWN UPBEAT)
6. Coast To Coast (SUN SUN)
7. Twilight Solitude (DOWN UPBEAT)
8. Swear (CROSS POINT)
9. Galactic Funk (CROSS POINT)
10. Asian Dreamer (初出)

CASIOPEA Official Web
↑現在活動休止に伴い更新中断中。
  • 購入金額

    3,873円

  • 購入日

    1994年頃

  • 購入場所

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