買った帰り道あまりにもよい天気だったので、創成川(札幌中心部を流れる川)べりのベンチで読み始めました。
初期の乱歩を思わせるような印象的なプロローグの「刺青の男」。
主人公が9月上旬のある暑い日にウィスコンシン州で出会った全身刺青の男。
夜になってその刺青が蠢き始め、「草原」というストーリーに始まる18の秘密の物語の幕があがります。
SF小説は、短編を数篇読んだだけの門外漢。
しかしプロローグの出だしの数行で引き込まれてしまいました。
SFというよりは未来に題材をとった幻想的な文学かも。
そうですね、文学を感じます。
読み捨てできなさそうな、読後も時に触れ手に取りたくなるであろう感じがこの本から立ち上ってきます。
読後にあらためて(蛇足にならないように)感想文を追加しようと思います。
それでは、不思議な魅力を秘めたブラッドベリの世界に行ってまいります。
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以下感想文として。
未来を題材に取った、それぞれが趣向の凝らされた18の小編。
ヒッチコック風SFサスペンスの「狐と森」や「マリオネット株式会社」は、まるで映画を観ているかのようなクライマックスの秀逸な作品。
「草原」や「ロケット・マン」、「ゼロ・アワー」はyookano794さんがおっしゃっていたように、短編でありながら虚無感バリバリの世界。
宇宙時代前夜の1951年に発表されたこの短編集が、なぜにただのSF小説群に終わらずに現在も読者を魅了し続けているのだろうか。
読み手の想像力を豊かに膨らませる、映像的でありながら巧みな構造を持つ物語はすべて淡々と語られる。
夢や未来に託した希望の星、ロケット、アンドロイド、神の存在。
進化し続ける文明、科学と世界。それらを生み出した人間達の思惑と結末の乖離。
それぞれの刺青が見せる(そこに存在している)物語の登場人物の喜怒哀楽や精神の葛藤を、第3者の目線で起こった事象を静かに物語るブラッドベリの筆致は、素晴らしく詩的であり繊細で美しい。
ささやかな夢を実現させようとする平凡な父親フィーオレロ・ボドーニとその家族の物語「ロケット」で18の物語が幕を閉じたあとに感じたのは、波乱に満ち溢れた空想物語の映画が終わり、照明がちらちらとつき始め、明るさと現実を取り戻した劇場の座席に座っているような感じ。
良い小説を、世界を知ることができました。
名作との呼び声高い「火星年代記」や「華氏451度」など、まだまだブラッドベリの世界は続きます。
これからゆっくりと時間をかけ味読する楽しみが増えました。
その前に、この本と一緒に購入した「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の世界をじっくりと楽しんできます。
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購入金額
945円
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購入日
2011年08月04日
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購入場所
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