主人公津田の痔の診察シーンから始まる、漱石の遺著となった未完の作品。
津田とその妻、そして津田の元恋人清子を軸にエゴの物語が進む。
昼ドラになってしまわない理由は、文豪の芸術的表現、筆力によるもの。
目まぐるしく変わりゆく時代に生きる、近代人の孤立の窮み。
漱石の小説は重い。暗い。じめじめとした人間関係、自我との葛藤。
書いている本人が胃潰瘍になってしまうのも頷けます。
「坊ちゃん」や「吾輩」にしても決して抱腹絶倒の痛快小説ではないと私は思うのです。
大正5(1916)年の男と女。
その後おおよそ100年を経た現代に生きる男と女に何の相違があるのだろう。
そして漱石の追い求めた「則天去私」の境地とは・・・。
不惑の歳を迎えたこの頃、ようやく理解できるようになったのではないかと思います。
純文学に関心をもち濫読していた12歳くらいのときに、文庫本に飽き足らず購入した名著復刻版。
(漱石を理解していたとは言いません・・・。)
漱石の初版本は装丁がどれもこれも、とかく素晴らしい。
そして旧字体。明治・大正の光景が浮かび上がってくるかのよう。
蒐集の癖はこの頃から芽生えたようです。
「硝子戸の中」が手に入れば、漱石の主要作品の復刻コンプリートとなります。
最近、この続編が書かれたようですが、私にはこの未完の大作の続きなど読む気にはなれない。
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購入金額
735円
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購入日
1982年頃
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購入場所
今は無きバス停前の古本屋
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