レビューメディア「ジグソー」

スピーカーの低音再生限界を探る

かつて、「CD MAGAZINE」というオーディオ雑誌があった。季刊誌であり、毎回様々なテーマに沿ってオーディー機器の性能チェック用のCDが付録として付いてくる。このCDは、第15刊、1992年冬号で特集された「低音域の再生」に関するものである。

オーディオの世界ではよく「重低音」という言葉を目にするが、これがどの周波数帯域のことを指しているのかは意外に曖昧なのが現状である。カーコンポやミニコンポに付属させる「スーパーウーファ」なる物が流行しているが、これが再生できる周波数帯域はせいぜい30~50Hzである。特に、40~80Hz付近の音圧レベルを上げてやるとかなり迫力のある音になるため、これを「重低音」と解釈している向きが多い。コンサート会場で「腹に響く低音」と感じているのはこの周波数帯域の音である。

しかし、実際には人間の耳で聞くことのできる音は20Hzとされており、これは音と言うよりも「空気の振動」や「雰囲気」として感じているレベルの音である。自然界では雷や滝の音、地鳴り、火山の噴火などの音に多く含まれ、人間の作った物では車の排気音や道路の騒音、ダイナマイト、トンネルの騒音、航空機などが発する音の中に多く含まれている。

音楽の世界にも、実は20Hzに近い重低音域を含む音を出す楽器はたくさんある。その代表格はパイプオルガン、バスドラム、ウッドベース(コントラバス)などである。つまり、これらの音を忠実に再現したければ、フラットとまでは行かなくても、ある程度は20Hz付近の音まで再生できるスピーカーが求められるのである。海外の高級ブランド製の大型スピーカーはこの音域の再現性に特化している物が多いため、クラシックやジャズのファンにオーディオマニアが多いのも頷ける話である。

だが、この20Hzまでフラットに再生できるスピーカーシステムは、一般庶民が手に入れることができる値段の範囲では皆無に等しい。通常、オーディオ用のスピーカーで再生できる低音域の限界は、大型の高級なスピーカーでさえ30~40Hz程度で、モニター用などの小型のブックシェルフスピーカーで40~50Hz、パソコン用の安物スピーカーでは80~100Hz以上になってしまう。100Hzを超えてしまった音はもはや重低音とは呼べない。

自分のスピーカーはどれだけの低音再生能力を持っているのか?
それをテストするためにこのCDが添付されている。主要なファイルを抜き出して下記URLにアップロードしているので、興味のある人は是非ダウンロードして低音再生を試して頂きたい。順番にテストしていけば大体の性能は分かるはずである。
http://cid-d8d1571ccb814ee5.skydrive.live.com/browse.aspx...

まず、無響室で録音したウッドベースの音源がある。これがどれだけリアルに再生できるかが一つの関門である。反響音のないスタジオでオンマイクで録音した物なので、性能の良いスピーカーなら、まるで自分がスタジオの中にいて、本物のウッドベースの生演奏を目の前で聴いているような感覚になる。実は微かにではあるが、演奏者の呼吸音が混じっている。その「すーっ」という息づかいまで再現できるスピーカーがあったとすれば、それはかなり高性能なスピーカーであると言える(リスニングルームの環境も非常に良いと言えるだろう)。一方で、臨場感がなく「スピーカーから出た音」にしか感じなければ、そのスピーカーの低音再生能力は低いと言わざるを得ない。

次に、バスドラムの音にフィルターをかけ、特定の周波数以下の音をカットしたサンプル音がある。スピーカーがその周波数の音をきちんと再生できていれば、前の音とは違って聞こえるはずである。カットオフ周波数が変っても違いを感じなくなれば、その周波数がそのスピーカーの限界である。

最後に、地下鉄の駅で録音した音源がある。この音を聴いて、近づいてくる電車が押し出してくる「空気の塊」の圧力や、重い車体がコンクリートを振動させる「地鳴りのような音」を肌で感じるような感覚が得られれば、そのスピーカーは相当に性能が良いと言える。そのようなスピーカーはまず滅多にないと思うが、ヘッドフォンならば20Hz付近の音域も余裕で再生できる物が多いので、「本当の重低音」を体感することができるはずである。

今でもスピーカーやヘッドフォンのチェックをするときはこのCDを活用している。今思えばとても「使える」雑誌だったが、いつの間にか廃刊になっていたのは残念である。
  • 購入金額

    0円

  • 購入日

    1992年頃

  • 購入場所

    書店

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