ちなみにマンガという作者は激怒する。これは劇画である。
広く有名ではないかもしれないが、小林源文は歴史・軍事系のファンからは有名だ。
それまで「ミリタリー系のマンガって総じて画力が足りない気が・・・」などと思っていた私に、この画力は衝撃だった。
トーンは使わない、墨とペンだけで書かれる独特の埃っぽい画風はまさに泥と砂と黒煙の揺らめく陸戦の表現に向いている。
実際、作者のテーマとする作品は第二次世界大戦の東部戦線(独ソ戦)が多い。
今作で描かれるのは第二次世界大戦末期。武器弾薬兵員その他もろもろが不足したドイツ軍に、圧倒的な兵力で襲い掛かるソ連軍をいかに防ぐか。
1944年9月、東プロイセン(現ポーランド・ロシア・リトアニアに分割)からはじまる。
主人公は複数だが、主として第511重戦車大隊のティーガーII233号車車長のケルシャーと、大ドイツ師団(グロースドイッチュラント師団)の一介の歩兵サジェールの二人だ。
この二人は特段に接点も無いまま話が進んでいくが、同じ戦線で死闘を続ける。
この作者が得意とする、戦略視点の描写とナレーション、また戦術レベルでの前線将校の苦悩、さらにその戦場の最前線で英雄的な死闘を続ける兵士たちが流れるようにテンポよく書かれる。
1945年の春にはドイツは負けてしまうが、その負けざまは戦線ごと兵科ごと、あるいは個人個人全く違う。
この結末はおそらく予想できないだろう。そしてこれが実話であるという重みもまた作品を味わい深いものにしている。
===余談===
この作品は冒頭をTigerIIで書いてしまった。実際にはケルシャーの中隊はTigerIIへの装備改変は進んでおらず、間違いであるとのこと。それをわざわざページを割いて、解説とお断りを書いている。実に史実志向な作者らしい断りだ。
尚、この作品は関連書籍がいくつかある。マニア・研究者向けの資料集はもちろんだが、それは別として、おなじマンガで有名な作品だと、宮崎駿の『泥まみれの虎』が上げられる。
あれはオットーカリウスの伝記の漫画化だったため、1944年まで同じ大隊に所属していた二人のエースが描かれており、ケルシャーが512大隊に移動した後の、511大隊の動きはこの『ザームラント1945』で補完できるわけだ!ぜひ両方読んでほしい!
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購入金額
1,000円
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購入日
2007年頃
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購入場所
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