ヴァイオリン、という楽器が華がある楽器だということに異論がある人はいないだろう。ソロ楽器として通用するその音域。ボウで弾(ひ)いて長音も出せれば、指で弾(はじ)いて減衰音も出せる。単音も出せるが簡単なものなら和音も出せる。そしてあまり似ている楽器がないその音色。クラシックにも合えば、演歌にも合う。爽やかな風を感じるようななめらかな音色もあれば、流浪の民の悲哀を感じさせるような物悲しい音色も出せる。
そんな楽器は古今東西に名手と呼ばれる人達がいるが、この人も間違いなくその一人。確かな腕を持ち、歌心溢れるプレイをし、気取らない親しみやすい曲を作る、中西俊博。
クラシカルな演奏もこなすが、ポピュラー系の爽やかで覚えやすい曲や、ジャジィで小粋な曲、テクニカルで情熱的な曲などが持ち味。舞台音楽やCF曲も多く手がけるので、たぶんどこかで耳にしたことがあるはず。
そんな彼なので、彼の作品らはクラシックに近いものもフュージョンに近いものも、ニューエイジに近いものもあるが、この作品は「ジャズ」。ジャズと言ってもインプロヴィゼーションがどうのとか、テンションノートがどうのとか、ミクソリディアンがどうのとか小難しいことは考えず、感性で弾き、感性で聴ける南部調の懐かしい感じのアレンジのそしてポップなアレンジの曲が多い。いつもよりもカバーが多いが、彼はジャズの名曲をどう料理したのだろう?
「I`ll Remember April」は中西のフュージョン系ヴァイオリンでは屈指の名演?「四月の思い出」と訳されるこの曲は、もとはコメディ映画“Ride 'em Cowboy”の挿入歌。ジャズのスタンダードとして名高いが、どちらかと言えば管楽器でソロが取られることが多い曲。中西はこれをジャズとフュージョンを行きつ戻りつするようなイメージで親しみやすく仕上げた。主メロとフルアコのギターソロ(名手細野よしひこ)は加瀬達のランニングベースと市原康の4ビートチックなリズムでジャズっぽいが、大石学のピアノソロと中西の技巧を尽くして「楽しませる」ヴァイオリンソロは8ビートでイケイケ!全編を彩るオルガンの響きがCOOL!
Toninho Hortaのギターをフィーチャリングした「Autumn Leaves」はスタンダードナンバー、「枯葉」。最初はギターのポロンポロンとした伴奏をバックに、静かに始まるが、テーマが呈示され終わると、スピードアップ!早川哲也のベースがリズミカルに下支えしながら、情熱的な「枯葉」に。Toninhoの物悲しく、でも激しいソロのあとは、中西も技巧を尽くした流麗なライン取りでダイナミック!
ラストの「Star Dust」はHoagy Carmichael楽団の古典ジャズ。中西の他はギター2本とベースにピアノという構成だが、菅野よう子のピアノ以外はリズム楽器に徹しており(ピアノもソロはない)、中西の歌心溢れるプレイが楽しめる。
中西はこのアルバムで1年ピッチでアルバムをリリースしていたフォーライフ・レコードを離れ、寡作時代に入るが、当時かなりポップな方向のアーティストを擁していたフォーライフの影響か、かなり親しみやすい曲が多い。それでいて彼の粋なアレンジが効いていて、とてもオシャレ。それにしても帯に描かれたキャッチフレーズ、「モテ男、モテ女が聴いているらしい。」はないと思うがw
60歳近くになった現在も(2014年8月現在58歳)その歌心溢れるプレイを我々に届けてくれる彼。ただ、最近はかなり寡作でベスト盤が散発的に出ている他は、カバー集やサントラが多く、オリジナルアルバムのリリースは10年以上ない。そろそろ円熟しながらも都会的な洗練されたプレイに茶目っ気のスパイスを利かせた彼の現在のプレイを収めた作品が聴きたいな、と久しぶりに聴いて思った作品です。
【収録曲】
1. Swing In Spring
2. Honeysuckle Rose
3. I`ll Remember April
4. Theme From Summer Of ′42-Summer Knows-
5. Wave
6. Summerdays In Dexie
7. The Shadow Of Your Smile
8. Autumn Leaves
9. La Cafe
10. Dindi
11. Rain Dance
12. Kitty In The First Snow
13. Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!
14. Star Dust
「Star Dust(Live)」
今年(2014年)のプレイで本作とは20年ほど隔たりがあり、構成も違いますが、雰囲気はすごく似てます。
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購入金額
3,000円
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購入日
1995年頃
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購入場所
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