レビューメディア「ジグソー」

今回の5枚の中の白眉。これは良いっ ! !

最近の指揮者のレヴェルはかつて無いほどの低さで、世界のトップ・オーケストラであるベルリン・フィルの常任指揮者がサイモン・ラトル、ウィーン国立歌劇場の音楽監督が前期は小澤征爾・今期はフランツ=ウェルザーメストという以前ではありえない方が着任しております。正直な所「こ、こんなのしかいないのか・・・ ! 」というのが私の偽らざる気持ちです。他にもヴァレリー・ゲルギエフがアイドル指揮者だったり、ダニエル・バレンボイムが巨匠と呼ばれていたりで、ホントもう情けない限りです。私見では、現役で一定以上のレヴェルに到達している方は有名どころでクリスティアン・ティーレマンとベルナルト・ハイティンクぐらいでしょうか。

ですが、幸いにも今回5枚のCDをレビューさせてもらった中に小さな希望の光を見出すことが出来ました。それがこの準・メルクル氏の演奏です。


この1枚に収録されている内、ドビュッシーの3曲は超名曲なのでもはや語るまでも無いでしょう。なのでそれらの演奏について。
印象派の作品の演奏には曖昧蒙古としたものも数多くありますが、個人的にはそういった類の演奏は好みではありません。フランス風というものの片寄った解釈だと思っています。しかしこの準・メルクルの演奏は全く違います。ラテン的明快さというか、良い意味で音色が明るく、音が重ったるくないのです。そして各声部をそれぞれクッキリと描き、ぼやけた所がほとんど皆無なのに不思議とバラバラになることなく互いに有機的に音が絡み合って聴こえてきます。明晰な音の響きは無機的なものにつながりやすいのですが、そうなる手前でこの演奏は踏みとどまっております。また、それぞれの声部が引っ込まずに鳴るということはともすれば全体の響きがのっぺりとしたものになりがちですが、音自体が「活きて」いるために立体感のある響きがします。特にココが某有名作曲家兼指揮者の演奏とは異なるところです。
これにはフランス国立リヨンo.の力によるものが大でしょう。このオケは聴く限りでは特別どのパートが飛びぬけて魅力的、という感じはしなかったのですが、弱音時でも音が痩せず、また強奏時でも下品にならずに品位のある響きを保ちます。また恣意的な所は皆無なのに自ずとフランス風の香気が立ち昇ってくるので、明快な響きであっても味気無いものには決してならないのは特筆すべき所でしょう。

メルクルの指揮も特に奇を衒ったところの無いものですが、楽曲の描き分けに優れた見事なものです。例えば「海」での静と動の躍動感、「夜想曲」での音色の微妙な移ろい( 「シレーヌ」も聴いてみたかった ! 」)、「牧神」でのけだるさと沈潜の表現など、中々堂に入ったものがあります。欲を言えば「夜想曲」の「祭」ではもっと鮮やかな色彩を聴かせて欲しかったですが、それも大きな瑕ではありません。


この盤に併録されている細川俊夫作曲の「循環する大洋」という作品は初めて聴きましたが、この曲は海からイマジネーションを得て作曲されたそうですね。海から着想を得た作品は多く、例えばメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」などはその代表格でしょう。他にもヴォーン=ウィリアムズの「海の交響曲」、ブリテンの「4つの海の間奏曲」やエルガーの「海の絵」などなど・・・あれれ !? また英国物ばっかりになっちゃった(爆

まあ冗談はさておいて(笑)、この作品はその海の様子を音で描いた、俗に言う「描写音楽」です。静かな海原や波のうねり、嵐の到来とそれによる大波、それが過ぎ去って吹くそよ風、再び静まった海から立ち昇る霧といったものを様々な技法を用いて描写しています。その技法は現代音楽で主に使われるものばかりなのですが、実際に聴いてみるとそれほどキツイ音が迫ってくるという感じではなく比較的耳に優しい響きが大勢を占めています。シンフォニックなポエム、または環境音楽といったイメージで、ヒーリング・ミュージックとしても中々良いのではないかと思いました。ちなみにこの演奏、やっぱりどこかフランス風なのはご愛嬌ですが(笑)、ダイナミックかつしなやかな響きが素敵です。静と動のコントラストがはっきりしていて曲の特徴が捉えやすく、パースペクティブに優れた秀演だと思います。


ベームやカラヤン、バーンスタインといった著名な方々が1980~90年頃お亡くなりになり、同時期にマタチッチ、オーマンディ、ヨッフム、ムラヴィンスキー、ドラティ、その後もチェリビダッケ、ショルティ、クーベリック、ノイマン、ヴァント、朝比奈隆、ジュリーニ、そしてC・クライバーも・・・。偉大なる指揮者はほとんどが鬼籍にお入りになられてしまいました。私もジュリーニが引退し、ヴァントがお亡くなりになった頃からもうオケの新しい録音にはほとんど期待を持てなくなってしまいました。しかしこういう素晴らしい演奏が若手指揮者の中から生まれているのを実際に聴くと、この世界も少しは希望が持てるのかな、とちょっとだけホッとしました。

とかく新しい演奏は敬遠されがちですが、この盤は先入観を排して耳を傾ける価値のある1枚だと思います。聴くべしっ ! !

15人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (6)

  • lapisさん

    2011/03/07

    >特にココが某有名作曲家兼指揮者の演奏とは異なるところです。
    私が好きなあのお方ですね(笑
    まあ、ぶっちゃけハマる曲はハマるけど、そうでないのは微妙な感じですからね^^;

    メルクル&リヨン管は、今年来日ツアーがあるので、ちょっと聴きに行ってみたい気もしますw
  • げるねおさん

    2011/03/08

    >operaさん

    ありがとうございます!今更ですが、あまりにも長文すぎますね(^^;


    >lapisさん

    あっヤベっ、バレましたか(爆

    個人的な好みですが、あのお方の演奏は若い時の方がイイと思うので(汗

    >メルクル&リヨン管は、今年来日ツアーがある

    あ、いいなー。北海道にも来ないかしら。。。
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