そして、アンチ・ミステリとして疾走する後半部では読者の半数以上の人が騙されると思います。
虚無への供物では、一応犯人が最終的に分かりますが、その動機が全く理解できない内容となっており、それが最大のミステリである事が分かります。
また、いくつもの暗合―色の暗合や、実際に起きた事件との暗合―が、現実と小説の世界の境界を曖昧にしており、確かにこれは奇書と呼ぶにふさわしい出来であると思えます。
惜しむらくは、この作品が発表された時にはまだ記憶に新しかったであろう事件の生臭さが現代に伝わっていないので、その境界線の曖昧さは以前ほどではないという点でしょうか。
(そういう意味では、ドグラ・マグラは小説の存在そのものが曖昧であるという事から傑出していた事が分かります)
さて、標題である虚無への供物。
虚無とは何をさしているのか、自分なりの考えではいわゆる「小説の世界」なのかなと思っています。
そして、「供物」として捧げられるのは、「読者」であり「現実世界」であり「小説の世界」なのかなと。
(この辺のループ構造になっているのが、面白い)
この作品は、虚構と現実のちょうど中間に位置しようとしているのが感じ取れます。
あるいは、虚構から現実へにじみ出ようとしてギリギリ踏みとどまっているのかもしれません。
それが供物といわれる所以なのかもしれません。
本格ミステリとして楽しめて且つそれ以外の謎を残しているのが、アンチ・ミステリとしての完成になったのかなと思います。
これ以後にたくさんのアンチ・ミステリが作られていると思いますが、それは副産物であり、真のアンチ・ミステリはこれしかないと言われるのも分かる気がします。
虚無への供物はまさしく奇書であり、アンチ・ミステリでした。
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購入金額
730円
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購入日
2008年頃
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購入場所
どこかの本屋さん
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