レビューメディア「ジグソー」

値段なりの違いはやはりある

 

 

 

 

全く予定はしていなかったのですが、フォノイコライザーを買い替えました。

 

これまで使っていたPhasemation EA-200はプリメインアンプ内蔵のフォノイコライザーとは格の違う音は出ていたと思いますが、販売店の試聴室に持ち込んでより上位の製品と聴き比べるとさすがに見劣りがありました。

 

 

 

 

 

夏頃に普段利用しているオーディオ店でPhasemation製品の試聴企画があり、EA-200にMCトランスを繋いだらどうなるか気になっていたため、自分のEA-200を持参してトランスの有無などでじっくりと比較試聴させていただきました。このときには本来想定していたPhasemation T-320(66,000円)が用意されていなかったため、上位モデルのT-550(121,000円)を組み合わせました。

 

しかし比較対象として使ったEA-200(99,000円)の上位モデル(の後継)EA-320(297,000円)と聴き比べてみると、EA-200+T-550でもEA-320単体のMC入力に全く太刀打ちできないことが判ってしまったのです。当然本来予定していたT-320ではT-550よりも更に落ちるわけで、率直に言えばこの時点でEA-200に投資する意味はないかと感じてしまいました。

 

EA-320と比較しなければEA-200にそこまで不満は感じなかったのですが、比較してしまうと「ここを何とかしないと」という気分になってしまいます。

 

試聴を終えた時点で、予算ができ次第Phasemation EA-320とSOULNOTE E-1(242,000円)を比較して、気に入った方を買うという方針となっていました。まあ、伏兵として試聴会に参加してStereo Sound誌の記事にもされてしまったSOtM sPQ-100PS辺りの可能性はありましたが、本命はこの2つだろうなということです。

 

ところがこの方針が突然変わってしまったのが、TEACのオンラインストアで開催された8月26日からの「TEACの日」セールの開催でした。TEACブランド唯一のフォノイコライザーPE-505(198,000円)が特価販売されたのです。

 

PE-505は20万円前後クラスではあるのですが、XLR入出力やイコライザーカーブ切替、モノラルモードやMCカートリッジ簡易消磁機能などクラス随一の機能の豊富さが売りです。EA-200の丁度2倍という価格ではありますが、機能を考えればそこまで大きな実力差はないだろうと思っていました。アナログに強い店でもこの製品を勧める店員の方はまずいません。

 

しかし上記のセールで当初198,000円から40% OFFという特価販売だったのですが、一度この在庫が売り切れた後で箱破損品が更に安価(約半額)に補充され、さらにクーポン割引が10%付くという条件になったのです。これだったら予算を改めて用意しなくても何とかなるということで、最悪気に入らなければすぐに売却すればさほど損は無いだろうと思い購入してみることにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに箱破損品ということでしたが、箱は特に壊れているように見えません。通常の限度を超える値引きの口実としてありがちなものでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

中身もごく普通の新品に見えますが、保証書には「B」と印が押されていましたので、貸し出し試聴機の再整備品かも知れません。製造番号はかなりの若番ですし。

 

 

 

 

 

 

 

 

添付品は電源ケーブルのみで、グレード的にもオーディオグレードには見えませんので手持ちの電源ケーブル(SUNSHINE SAC-GRANDE 1.8)を使います。

 

 

 

 

 

更新: 2024/12/12
機能

最近のトレンドは一通り押さえられている

外観を確認しつつ、主要機能について触れていきます。

 

 

 

 

 

 

 

まずはフロントパネル左から。

 

目を引くのは大きなダイヤルでしょう。こちらは簡単に言えばMM/MCポジションの切替ですが、一般的なスイッチではなく負荷抵抗(MC)または負荷容量(MM)を指定する形です。

 

MCでは10/22/47/100/220/470/1000Ω、MMでは0/100/220/330pfを設定することが出来ます。ちなみに負荷抵抗はMCトランスよりもかなり大きな値となりますが、大雑把に言ってトランジスター式のフォノイコライザーではカートリッジ側の指定値の10倍程度が適切とされているため、220Ωや470Ωの辺りがむしろよく使われます。ちなみにPhasemation EA-200は470Ω固定でした。MMの負荷容量はカートリッジ側の指定値が公開されていない場合もありますが、この値はヘッドシェルやシェルリード、トーンアームやケーブルとの合計値で考えなければいけないものであり、聴感で判断した方が良いでしょう。

 

このダイヤルには「DEMAG」というポジションもありますが、これは簡易のMCカートリッジ消磁機能です。MCカートリッジの多くはコイルを鉄芯に巻いていて、この鉄芯が帯磁することで信号に歪みが加わり音質が低下するといわれます。これはMCトランスでも同じ現象が発生します。本機のDEMAGポジションでは負荷抵抗が0Ω状態となり、この状態で30秒程度再生信号を流すことで磁力を打ち消すというものです。なお、帯磁の原理上、空芯コイルのMCカートリッジでは効果はありません。

 

機能紹介に戻りますが、電源スイッチの隣の小さなスイッチは出力ゲインの設定です。LOWポジションのゲイン(MM:34dB MC:54dB)に対してHIGHでは12dBずつ加わる形です。

 

そしてダイヤルの右下にある「METER」ボタンはメーターパネルのバックライト光量切替です。完全にOFFにすることも可能です。

 

 

 

 

 

 

 

 

続いてフロント右側です。

 

メーターパネル右の「MEASURE」ボタンは測定モードに切り替えるものです。MCカートリッジの抵抗を実測して負荷抵抗の設定値を探る際に使います。

 

そして右の大型ダイヤルはイコライザーカーブ切替です。現在のレコードはRIAAカーブに統一されていますが、昔のレコードはイコライザーカーブが地域やレコード会社ごとに異なっていました。その中でも比較的使われていることが多いと考えられているDECCAとCOLUMBIAに準拠した切替を用意しています。尤も実際にはこれ以外にも数種類の規格が存在していて、これだけでは対応しきれないレコードも結構あります。上で触れたSOtM sPQ-100PSの製品紹介(代理店ブライトーン)に主なものが記載されていますので参考までにそちらもご覧下さい。

 

後は見たままですが、入出力の端子切替(RCA/XLR)、サブソニックフィルター、MONOモードのスイッチ類が用意されています。

 

 

 

 

 

 

 

リアの端子パネルについては基本的に見たままですが、入出力ともXLR、RCAの2系統が用意されていて、いずれかをフロントのスイッチで切り替えて使います。

 

 

 

 

 

 

 

XLR端子は採用機が多い2番HOTタイプであり、殆どの場合XLRケーブルでそのまま繋がります。何故か国産高級オーディオメーカーは未だに3番HOTの機材を販売していますが、世界的に見るとこれはかなり少数派です。

 

左下にMicro USB端子が用意されていますが、これは恐らくファームウェアの更新用に用意されているものだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

底面は3点支持のインシュレーターが用意されています。これはぐらついていますが、設置した際に本体とインシュレーターの間が点接触となるよう設計されているのだそうです。

更新: 2024/12/12
音質評価

人の声の質感がぐっと良くなる

それではPhasemation EA-200との比較で音質について触れていきましょう。

 

ターンテーブルはいつも通りTechnics SL-1200G、カートリッジはaudio-technica AT-OC9/III(シェルリード線KS-Remasta KS-Stage621EVO.I-VK)やaudio-technica AT-ART7(シェルリード線KS-Remasta KS-Stage401EVO.II-VK)、Goldring ELITE(シェルリード線KS-Remasta KS-Stage301EVO.II)など、今まで使ってきた環境でフォノイコライザーだけを入れ替えた状態です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず聴いてみたのは、定番の「Ten Summoner's Tales / Sting」です。曲も定番の「Fields Of Gold」で。

 

一聴して判るのはヴォーカルの存在感が全く違うということです。聴き比べなければEA-200でも十分良く鳴っているように感じられたのですが、PE-505と比べると大げさに言えばスティング1人だけがドラムセットの後ろのカーテンの向こうで歌っているくらいに存在感が弱まります。

 

続いて「The Seventh One / TOTO」から「Pamera」を聴いてみます。ここでは分解能の違いがはっきりとしていて、EA-200の方が各楽器の音像がやや不鮮明に感じられます。とはいえ単体で聴いていて不満が出るレベルではありませんが。PE-505の基本性能が1ランク高いことはここでもはっきりと感じ取れるのですが、高域方向の音色はEA-200の方がやや大人しいものの澄んでいるように思います。PE-505の高域は少しだけ独特の癖が感じられます。この癖は使い始めに特に強く感じられ、最近少しずつ収まっている感はありますのでエージングで解消するのかも知れませんが、3ヶ月半使った現状でもまだ完全には取れていません。

 

「Explosive / David Garrett」から「Dangerous」を聴くとヴァイオリンの音色がやや鮮やかなPE-505とやや穏やかなEA-200という図式になります。これはどちらが良いかは好みの範囲でしょう。ただ低域方向の分解能はPE-505の方が確実に上回ってきます。

 

各所のレビューではPE-505はXLR入力の時に本領を発揮すると書かれていますが、私の環境ではSL-1200GがRCA出力であるためこれを試すことは出来ません。強いて言えばSL-1200Gの出力ケーブルをPhasemationが発売しているRCA - XLRフォノケーブル、CC-1000Rにすれば試すことは出来るのですが、長さが不足する上にケーブルとしてのグレードが現用のaudioquest Cheetahよりは落ちるため、どの程度のメリットがあるのかは判断しづらい部分もあります。

 

RCA入出力で試す限りは、MCカートリッジについては負荷抵抗切替が充実していることもあり、EA-200を確実に上回ってきますが、MMカートリッジはMC比で全体的に情報量が落ちると感じられる部分があり、これはカートリッジそのものの限界なのかPE-505のMM入力の問題なのかは判りません。MMだけで使うのであれば、EA-200と明らかなグレード差と言うほどではない気がします。ただMMでも負荷容量切替で一気に魅力が出てくるカートリッジもありますので、総合的にはPE-505のメリットが勝るということになります。

 

MCカートリッジについては負荷抵抗を切り替えることで、ADC MC1.5やFidelity Research FR-1 mkIIIはEA-200との組み合わせよりも数段魅力的な音を出してくれるようになりました。個人的には負荷抵抗切替ご備わっていることは大きなメリットであり、それだけでもEA-200よりは有利と思います。

 

ただ、当初考えていたSOULNOTE E-1やPhasemation EA-320と比べてどうなのかは何ともいえません。機会があれば一度直接比較したいと思いますが…。

更新: 2024/12/12
総評

購入価格からすれば文句ない満足度

Web上のレビュー等を読む限りは価格なりの実力があるかは微妙なところと感じられてしまうPE-505ですが、実際に使ってみるとEA-200に対して2倍となる価格に見合った実力はしっかりと実感できました。

 

 

 

 

 

 

 

外観は20万円クラスとしてはもう少し頑張って欲しい気もするのですが、出てくる音は十分納得出来ました。

 

ただXLR入出力をまだ試していませんので、本当の意味での実力という部分の結論はまだ出せません。RCAでも価格なりという水準は保てているとは思いますが。

 

TEACブランドで発売するフォノイコライザーはこの1機種だけと思われますので、開発者が思いつく要素はこの1台に全て詰め込んだという印象を受けます。上位モデルの構想があればここまで機能てんこ盛りにはしなかったでしょうから。ほぼ単機能だったEA-200と比べて使いこなしを楽しめるのはメリットでもあり面倒なところでもあるでしょう。まあ面倒であればMCの負荷抵抗を470Ωに固定しておけば、少なくともEA-200と同等以上の音は出てくるわけですが。

 

フォノイコライザーはアナログブームとはいえ選択肢が決して多いとはいえない分野です。実はPE-505の20万円クラスというのはライバルがほぼ不在で、比較的近いのがSOULNOTE E-1やSOtM sPQ-100PS、Rega Aria MM/MC Phonoamp程度なのです。直接的なライバルがなかなか見当たらないという点も本機の評価が定まらない理由の一つなのかも知れません。

 

EA-200も現在はモデルチェンジされ、内容的にはほぼ同様のEA-220が121,000円となっていて、直接的なライバルはAurorasound VIDA PrimaやLUXMAN E-250辺りです。PE-505は恐らくそれらよりは確実に上であるものの、より上の価格帯の製品と比べてしまうと微妙なところでしょう。私の場合は少ない予算枠で精一杯頑張って買う形ですので、今回の購入価格でEA-200をきちんと超えてくれただけで満足できます。

 

 

 

 

 

更新: 2024/12/12
良かった度

ハイエンドシステムではより良さが際立つ

家で聴いている以上にPE-505の良さが際立った機会がありました。

 

秋葉原のPC販売店オリオスペックで、9月29日にSOULNOTEが推進するZEROLINKを活用するという企画の試聴会が開催されました。まあZEROLINKを採用する機材は高価なので私にはなかなか手が届かないのですが、このときイベントを担当されたのがお馴染みの開発者加藤氏ではなく、SOULNOTE営業のA氏で、この方とは旧知の仲であるため私も顔を出してきました。

 

イベントの本編が終わった後で持ち込みの音源を自由に聴ける時間帯があり、音源を用意していたのはほぼ私だけでしたので何曲か聴いてみたのです。

 

その時持ち込んだデータは半分以上PE-505+AT-ART7で作ったものだったのですが、オリオスペックの進行役の方が「これDSDですか?」というくらいの音が出ていました。ちなみに実際には24bit/88.2KHzのWAVです。A氏がビートルズマニアなのは知っていましたので、最初に「Abbey Road / The Beatles」からの曲を再生して、「52nd Street / Billy Joel」や「Gaucho / Steely Dan」などから再生したのですが、SOULNOTE D-3の良さもあり確かに素晴らしいものでした。そんな中でPE-505でのデータ作成が間に合わなかった「TOTO IV / TOTO」からの曲は、それまでとは別物のように生々しさもスケール感も後退してしまいました。今までは不満を感じていなかった音がここまで見劣りするのかと驚かされたのです。

 

PE-505ではSOULNOTEの上位モデルでも通用する音が出るようになったと考えると、入れ替えた価値は十分に感じられました。これを導入したことでアナログシステムの実力が少し解放されたと考えれば、とても満足度の高い買い物です。

  • 購入金額

    85,320円

  • 購入日

    2024年08月29日

  • 購入場所

    ティアックストア

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