レビューメディア「ジグソー」

ギターという楽器の表現力の多彩さと、千鶴ちゃんのジャンル適応の多才さを感じる作品。

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。セルフカバー。自身がかつてリリースした曲を、もう一度別テイクで、再録することを言います。その際は、全くアレンジを変えて別の解釈として収録されることもありますが、同方向のアレンジながら、さらに突き詰めてより深化させようという場合もあります。数年前リリースしたミニアルバム収録の楽曲を、同路線ながらさらに突き詰めて、より深く・より高くなった楽曲が収められた作品をご紹介します。

 

瀬川千鶴、ギタリスト。以前から何度も紹介しているが、彼女が入ることで毛色が激変したブラス隊バンド

や、最近では手数王菅沼孝三の愛弟子川口千里が率いる女子ジャズフュージョンバンドTHE JAZZ AVENGERS、

他にもギタリスト門馬由哉とのツインアコギユニットGuitar-Momcでも活動している。

 

そんな彼女、ソロとしても今まで2枚のミニアルバムをリリースしている。

それらは2016年と2017年なので、それからはもう5年以上もあいた形になったが、ついに彼女の1stソロフルアルバムが完成した。

 

それが本作“One Step Closer”。

 

今までの千鶴ちゃんの精力的な活動もあってか、そうそうたるメンツが参加していて、強力なフュージョン系インストアルバムになっているが、比較的間口が広く、かなり攻めたジャズ系アプローチをする楽曲から、優しいリスニング系楽曲まで幅広く収録されている。そして、かつてリリースしたミニアルバムに収められていた曲が再び取り上げられていて、その間の進化も含めて感じ取ることが出来る。

 

1stミニアルバム“A Day”に入っていた「Trap」。元曲はかなりへヴィで、強力に歪んだ千鶴ちゃんのギターと、同じくゲイン突っ込んだ湯浅崇のベースが、中村亮のラフな感じに仕上げたリズムと絡む曲で、わざと音質をナローレンジに、古い感じに創っている、熱さを泥臭く表現した楽曲だった。一方この新録では、ヘヴィではあるものの、キレも同時に表現されていて、躍動感と前進力がスゴイ。千鶴ちゃんを支えるのは、ベース鳴瀬喜博にドラムス坂東慧と、それぞれ二大老舗フュージョンバンドCASIOPEA-P4とT-SQUARE alphaの現役リズム隊で、ヘヴィながらキレもある楽曲となっている。元曲の湯浅のベースソロは、強く歪んだ音色を前面に出したもので、スラップはほぼ使用していなかったが、さすがナルチョ、スラップのみならずライトハンドや弦ぶったたき?など様々な特殊奏法交えたソロ構成で魅せる。しかし、それが「軽さ」に繋がっているわけではないのが、流石。千鶴ちゃんのソロも7年の成長を感じる構成で、弾きまくりキレまくるだけではないところがイイ!

 

2ndミニアルバムのタイトルチューンでもあった「Inside, Outside」。これはメロディアスな6/8のテーマとスリリングで変拍子譜割りの展開部が繰り返される楽曲。元曲もタイトル曲に持ってくるにはかなり攻めた楽曲だったが、今回さらに落差が激しくなり攻め攻めの楽曲になっている。元曲はバックにドラムス+ベースのリズム隊に加えて、別所和洋のピアノが入るカルテット構成。今回の録音ではさらに豪華に、千鶴ちゃんとはTHE JAZZ AVENGERSで共演しているサックスの中園亜美が加わった、クインテット構成。他のメンバーは、ベースは元T-SQUAREの須藤満でドラムスは新進気鋭の多田涼馬、ピアノは古川初穂。古川は、ここのところ須藤と則竹裕之という元T-SQUAREリズム隊を従えるトリオで活動していて、音楽的にもメンツ的にも相性抜群。テーマの部分は中園が濁りのないソプラノサックスの音色でのどかな感じに奏で、展開部は一転してスリリングに千鶴ちゃんが切り込む。元曲も2つのセクションの落差がウリだったが(曲名は「Inside, Outside」、この差は内と外を表しているのかな?)、どちらもギターの音中心なので、落差が小さく...はなかったなw元々もw。ただ今回はソプラノサックスの牧歌的な音色と、スタッカートでキレ味鋭くテンションノートで攻めまくるギターの音、ということで落差は断崖絶壁クラスでインパクト大。

 

そういったリキの入った曲だけでなく、千鶴ちゃんのアコースティックギターと、中園のサックスだけのカントリー系クロスオーバーという雰囲気の曲「Departure」や、優しい調べのアコーステックギターのソロ曲「Dwarf」などもあって飽きさせない。「Departure」の方はリズム隊レスだが、千鶴ちゃんのギターが、スラム奏法やハーモニクスを使ってリズム感を出している。これに優しく中園のサックスが絡むが、他でも共演が多い二人、息ぴったり。「Dwarf」のニューエイジ系の癒しの調べも沁みる。

 

収められている曲は曲調は幅広く、音色もギンギンに歪んだ音から、指弾きのアコースティックな音までさまざまで、「ギターが魅せるインスト楽曲」というぐらいしか共通項はないけれど、どれも「千鶴ちゃんの音」になっているのが、彼女の力量?

 

先行ミニアルバムとは、一味も二味も違う仕上がりです。

ギターはXoticのXSC-2かな?
ギターはXoticのXSC-2かな?

 

【収録曲】

1. Congestion
2. Morning
3. Trap
4. Jigsaw Puzzle
5. Inside, Outside
6. SMILE
7. On the weekend
8. Departure
9. Wander off
10. Dwarf

 

「Trap」

更新: 2024/03/26
必聴度

ギターの魅力をインスト曲で紹介、という感じ

ヘヴィなリフ、切れの良いカッティング、ライトハンド絡めた速弾き、スラム奏法などの特殊な弾き方、優しいアコースティックな調べなど、ギターの魅力のいろいろな面が味わえる。

 

前半がかなり攻めたプレイとハードでヘヴィなでエレキ中心で喰い付き、後半がアコースティックやエレキでもコンプが効いたメロウな音色に抜けていく...という形で一枚通して聴くとドラマもある。

  • 購入金額

    3,000円

  • 購入日

    2024年03月12日

  • 購入場所

    Amazon

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