レビューメディア「ジグソー」

メロディラインが無機質なボカロになったことで、楽曲のシカケの緻密さもわかるし、あらためてikuraの歌の上手さに気づく

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。楽曲を創るときのデモテープ、ヴォーカリスト以外が作曲を手がける場合、以前は、鼻歌だったり、楽器音での代用であったりしましたが、最近はボーカロイドをはじめとする人工ヴォーカリストを使って曲が創られることも少なくありません。元々ボカロPとしても活動していたアーティストが、ヴォーカリストがいるグループのために書いた曲を、あえてボカロ曲として表現した作品があります。そんな、曲は馴染みがあるのに、「ちょっと違う」作品をご紹介します。

 

Ayase。すでに知らない人がいないほどの音楽ユニット、YOASOBIのコンポーザーだが、地元時代から続けたロックバンドでのインディーズ活動の後に、YAOSOBIとしての活動が本格化する以前にボカロPとして活動していた時期がある。

 

YOASOBIは、「小説を音楽にする」というコンセプトなので、AyaseのボカロPとしての活動時期の曲とはかぶらないが、そのような前歴?から、Ayaseの創るYOASOBIのデモ曲は今でもポカロで製作されていると言われている。ボーカロイド歌唱を元にしているからか、シカケが多く「人間が歌うことを考慮しすぎていない」メロディラインになるわけだが、それを、ikuraがカンペキに歌っているので、YOASOBIの楽曲は構成がトリッキーなくせに「しっくりと」落ち着くのかも。

 

そのデモヴァージョン「そのもの」というわけではないのだろうが、YOASOBIの1st EP“THE BOOK”の全曲(導入とクローズのインスト曲「Epilogue」と「Prologue」を除く)をボカロで表現したのが、TOWER RECORDSの限定企画盤“MIKUNOYOASOBI”。

 

一世を風靡した「あの曲」たちが、人工音声の中では(今となっては)調教難しめ=歌わせづらいVOCALOIDに分類される初音ミクで表現されている。

 

以前AyaseのソロEPに収録されていた、唯一の既発表曲で、YOASOBIにとってもデビュー曲となった「夜に駆ける(初音ミク Ver.)」。この曲は印象が大きくは違わない。Aメロの部分は流石に「棒歌い」臭いが、Bメロの早口になっている部分や、静かなブリッジ部分は意外にYOASOBI版に近い。こうして聞くとikuraの歌い方もボカロを意識しているのがわかる。

 

たぶん(初音ミク Ver.)」。YOASOBI版では、軽く歌っている感じの印象の曲で、機械音声(VOCALOID 初音ミク)では再現が難しいかと思っていたが(どっちが「元」かはおいといて)、意外に印象が近い。そもそもYOASOBI版でも、導入のワンフレーズはモジュレーションかかっていて、人声っぽくないし、抑揚のあまりない呟くようなikuraの歌い方は、ボカロと大差なくて、印象は近い。こういうミディアムテンポの曲はボカロは苦しいか、と思ったが、Ayaseの作り込みが上手く、あまり違和感がない。

 

一方違う曲のように聴こえるのが、「群青(初音ミク Ver.)」。Aメロの再現度(相同性)は驚くほど高いのだが、Bメロの♪知らず知らず隠してた♪から始まるコーラス部分と、サビ前の♪Ah♪(Aメロ頭の♪嗚呼♪の方ではなく、♪感じたままに描く♪の前の駆け上がる感じの♪Ah♪)が、ikuraの情がこもった発声に比べて、“MIKUNOYOASOBI”版の方はのっぺりとしていて「ボカロ臭い」。この曲はYOASOBI版の方が遙かに良いな。

 

全体的にYOASOBI楽曲のインパクトが強いので、大きく印象が覆されることはないんだけれど、ヴォーカルに熱がない分、曲のシカケや作り込みがよく判る。そして、非常に凝ったメロディーラインを、機械のように正確になぞりながらも確かな表情をプラスする、ikuraの上手さを逆に再認識することが出来る。

 

無機質な機械のヴォーカルで曲の良さを味わい、人(ikura)の表現力の豊かさを再確認する、そんな作品です。

YOASOBI系らしく凝った歌詞カード。omaoによるモノクロ線画のジャケットも雰囲気ある。
YOASOBI系らしく凝った歌詞カード。omaoによるモノクロ線画のジャケットも雰囲気ある。

 

【収録曲】

1. 夜に駆ける(初音ミク Ver.)

2. あの夢をなぞって(初音ミク Ver.)

3. ハルジオン(初音ミク Ver.)

4. たぶん(初音ミク Ver.)

5. 群青(初音ミク Ver.)

6. ハルカ(初音ミク Ver.)

7. アンコール(初音ミク Ver.)

 

「夜に駆ける(初音ミク Ver.)」

更新: 2024/02/05
必聴度

楽曲の良さは不変、ただikuraの偉大さもわかる

この機械(ボカロ)が歌う難しいラインを、「人臭く」なりすぎない絶妙なCOOLさで歌っているikuraがスゴイという....

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    2022年頃

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