レビューメディア「ジグソー」

ギター一本、もしくはピアノ一台で表現する歌の世界

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。ポップスシーンで、フルバンドや打ち込みによる豪華なバックを使って歌っていた人物が、単身で音楽を表現すると、同じ曲でも全く違って聴こえることがあります。元々デジタル系の楽曲でデビューした人物が、時を経て生ギターもしくはピアノだけで、かつての持ち歌を歌ったクローズドのライヴがありました。その貴重なライヴを収めた作品をご紹介します。

 

荒木真樹彦、シンガーソングライター。1990年初頭にデビューし、イカした(死語)マスクと高いソングライティング能力を武器に、時代に乗ったデジタルビートで売り出したが、ダンス系のファンキィな方向性には薄く、さりとて渋谷系のようなシャレオツな方向でもなかったのが時代に合わなかったのか、ロック方面としてはB'z程には熱くなかったのもインパクトに欠けたのか、メジャーシーンでの活動は1990年代前半で終了する。

 

しかし、その素晴らしい作曲能力は、楽曲の他者への提供や劇伴音楽、CMソングなどで活かされた。田原俊彦やCHEMISTRY、観月ありさなどのシングル表題曲やカップリング曲、ジャニーズ事務所系ではアルバム収録曲ながらファンから高い支持を受ける曲など、様々なジャンルのシンガーに数多くの楽曲を提供したが、そのなかにギタリストCharへの提供曲、「LET IT BLOW

がある。

 

ギターコンシャスで、ベースのリフも印象的な楽曲だが、これのデモ版LET IT GO」を含む他者提供曲のデモトラックを、荒木がデモ曲集

として限定リリースしている。

 

デモ版「LET IT GO」は打ち込みリズム、Charの「LET IT BLOW」は、ドラムス神保彰+ベース岡沢章+パーカッション斉藤ノブの神リズム隊という違いはあったが、どちらもバンド仕立てアレンジ。

 

その曲が、アンプラグドライヴで演奏されたということで、そのライヴ盤を入手してみた。

 

2014年5月10日に、六本木のAll Of Me Clubで行われたファンクラブ限定ライヴ。その模様を収めたDVDが“In Progress”。

 

このライヴではサポートミュージシャンを置かず、全曲荒木一人でのパフォーマンス。使用したのはアコースティックギターとピアノのみ。もちろん、事前打ち込みや自動演奏も使わず、演奏するのはアコギとピアノだけであっても、スガシカオなどがやっているように、サンプラーを上手く使ってリアルタイムに複数のループを作り、リズムもその場でピックアップ部を叩いた音などをサンプリングしてリズムボックス風にリピートさせて音を厚くしていく...というような手法もあるが、荒木はそういった機械の補助には頼らず、リアルタイムにギターかピアノひとつと自分の歌声で勝負する。

生ギターの色が違う部分はスラム奏法のやり過ぎ??
生ギターの色が違う部分はスラム奏法のやり過ぎ??

 

出だしの「思惑の距離」は、3rdアルバム“KARAJAN”

から。ギターのボディをパーカッシヴに叩きながら(スラム奏法)歌う。電子音が多く、わりにプラトーな感じで抑揚に乏しいミドルテンポチューンだった元曲が、ギターの弾き語りながらライヴのオープニングにふさわしい抑揚がある曲に。元から歌は上手い人だったが、こんなにギター上手かったんだ...と再認識出来る。スラム奏法では親指でブリッジあたりを叩きバスドラ、残りの指でエンドピン側のボディトップを叩いてスネアを表現しつつ、コードを弾き、時にハンマリングオンで左手だけでベース音を奏でる。期待が高まるオープニング。

荒木はピアノも上手い
荒木はピアノも上手い

 

...とは言っても、次の「君と過ぎた夏」からmc前の「Revival Rain」まではピアノセクション。ただ、切々と歌い上げるバラード「君と過ぎた夏」のような曲もあれば、左手の強いベース音でグイグイ引っ張る「M・A・X」のような激しい曲もあって、決してライヴ構成での「抜き」のパートをになっているわけではない。

 

その中ではデビューアルバム“SYBER-BEAT”

に収録されていた「POISON DARK」が全く印象が違って良かった。元曲は“SYBER-BEAT”の中ではひときわ目立つデジタルな硬いノリの打ち込みチューンだったが、リズムオフのピアノの弾き語りになることで、コード進行の美しさがよく判る。ファルセット気味に歌う荒木の声もセクシィ。

 

mc後はギターに持ち替えてさらに激しくパフォーマンス!そしてアンコール前の最後の曲が「Let It Go」。この曲、デモ版では荒木作の英詞での歌唱だったが、Char版では相田毅による日本語をメインとした歌詞になり、題名(とサビ部分の歌詞)は♪LET IT BLOW♪と変えられていた。これに対して、今回のヴァージョンはチャンポン。歌詞自体はAメロの歌詞は「LET IT BLOW」の日本語詞となっているが、サピの部分の歌詞は♪Let It Go♪。ギター一本でパーカッションとコード、ベースを弾き分けつつ激しいパフォーマンス。そして、ギターソロの部分はどうするのか、と思ったら、スキャットソロ!(?)歌はその後2番に行くことなく、会場を巻き込んでのバックコーラスを得て、激しいスキャットとギタープレイで盛り上げて終了。フラメンコのような熱量を感じるアツイ演奏で、素晴らしい盛り上がり。

 

アンコールの「FOR YOU」は、またピアノに戻って、ゆったりとライヴクローズ、というのも粋。

 

トータル1時間20分のアンプラグドライヴを収めたこのDVD、インディーズ扱いで現在かなり入手しづらい。ま、DVDフォーマット故再生時854×480の映像なのでたいした画質ではないし、カメラの数は少ないし、ピアノカットは正面とサイドの2カメラでアスペクト比が違うような、若干ホームビデオっぽい所もあるので、好きな人だけ買えばよいや、というスタンスなのかもしれないれど、現在のHPのショップではなく、旧ショップを探し出してアクセスしないとならないというのは、ちょっと引っ込めすぎ?

こちら側からの映像は4:3っぽいアスペクト比
こちら側からの映像は3:2っぽいアスペクト比

 

さらに、直接決済できるわけではなく、そのページから注文するとメールが飛び、数日後返信があって振込先を指定されるという、まさにインディーズ的販売方法。

インクジェットプリンターで刷ったという感じのジャケット写真
インクジェットプリンターで刷ったという感じのジャケット写真

 

ただそこまでしても手に入れる価値がある、と思える、貴重なライヴパフォーマンスを収めた作品です。

 

【収録曲】

1. 思惑の距離

2. 君と過ぎた夏

3. デッサン

4. Poison Dark

5. M・A・X

6. Revival Rain

7. -mc-

8. KETCHUP

9. GO GO SHINE!

10. YOU CAN STAND

11. Oh My God!

12. sexy,sexy

13. TWO VOICES

14. Crazy Love

15. Let It Go

16. FOR YOU

 

「Let It Go」(最後切れちゃってますが、DVDではフルにあります) 

 

「DVD ”In Progress”Makihiko Araki promotion 」

更新: 2024/01/27
必聴度

楽曲と荒木の新たな魅力に気づける

いや、荒木、ギター上手いわ...

  • 購入金額

    2,500円

  • 購入日

    2024年01月25日

  • 購入場所

    shop maxico

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