レビューメディア「ジグソー」

ヴォーカル、主旋律域が前に出る、楽しいリスニングタイプのCIEM

自分の耳は、何度もイヤホン/IEMレビューで説明しているように

・極めて細い耳道

・カラ耳(耳の中が湿っていない)

・下向き開口

と「入れづらく/滑りやすく/落ちやすい」と、装着三重苦?の状態。特に中華イヤホンの一部にある、ステム(イヤピースをつけて耳道に入れる円筒状の部分)が太く短くて、ハウジングがIEMタイプで大きいイヤホンの一部は、耳の奥のイヤホンを固定できる部分にまでイヤホンを差し込むことが出来ず⇒イヤホンの差し込みが不安定/もしくは/挿し込み方(向きや深さ)のバラツキが大きくなり⇒低音がヌけたり、音質の再現性が悪かったり、最悪の場合イヤホンが落下してしまう事もある。

 

それを解決するのが、個人の耳型を採ってオーダーメイド制作するカスタムIEM。

 

一般的なイヤホン装着に何の問題もないヒトにとっては、そもそも個人に合わせたフルオーダーのため高価で、にもかかわらず他人に合うことが少ないのでリセールバリューが悪く、さらに密着度が異なるため万人向けにイヤピース装着してある試聴機とはできあがりが必ずしも同じにならないというバクチ要素と、イヤピースを変更しての音質や装着感の微調整が出来ないという不便さがあるが、自分にとっては、音抜けしたりイヤホンが落下したりするよりは、はるかにマシで、かれこれ10年以上前に初めて製作してからその後も繰り返し造ってきた。

 

この間様々なCIEMを経験してきた。

 

最初は、一番ベーシックな構成と言われている2way/3driver構成のCIEM

から始まり、より広域再生で濃密な4way/10driverと言った多ドラ

に行ったり、逆に2way/2driverのシンプルな構成

に行ったりした。一般的にCIEMにはBA(バランスドアーマチュア)型ドライバーという小型のユニットが使われるが、振動が大きく低域にパワーを入れられるダイナミック型ドライバーを併用したCIEMも複数経験した。

 

またさらなる密閉性を追求するため、ハウジング素材がフルシリコンのもの

をオーダーしたり、逆に外耳部分を蓋をするようにはふさがず、外耳に沿ってハウジングを這わせて固定するC型ハウジング

を試してみたりと素材や形状に関しても「非主流派」を経験してきた。

 

ただCIEMが市民権を得ていく中で、当初造った時代の倍以上に価格が高騰してきて、以前のように年イチペースでは製作できなくなってきたのと、現在は通勤が車で、「遮音性の高いイヤホン形状のものを使う時間」が減っていること、そもそもだいぶ様々なCIEMを揃えてきたので、曲やジャンルによって使い分けるということが可能となっていて、不満があるジャンルや曲調が少なくなってきたのもあって、そのCIEMにかなりアピールするポイントがないと造らなくなってきている。

 

2021年に「びっくりするような安さで製作できるCIEM」=Hisenior Audio T2を、総額2万1千円少々で製作した後、約2年後にそのめぐりあわせはやってきた。

 

今回「アピールしたポイント」となったのは

3ウェイ3タイプドライバーハイブリッド構成

新たな接続端子Pentaconn ear

ネイリストが手掛ける一点ものデザイン抽選

と言ったところ。

 

ドライバー構成に関しては、いままで、分割帯域と数では4Way/10DriverのHEIR AUDIO Heir 10.Aも造っているし、ハイブリッド構成はダイナミック型ドライバーを使ったUnique Melody Merlinや同MAVERICK customで経験がある。ただ、3種類のタイプのドライバーを使ったトリプルハイプリッドは経験がなかった。

 

組み合わされたのは、

・CIEMのドライバーとして最も標準的かつドライバーの選択肢も多いBA型を中域に

・振動板が実際に「動く」ので、迫力ある熱い音傾向になるダイナミック型を低域に

・高域は、静電気の力で超薄膜・超軽量の薄膜を振動させるEST(静電型)型ドライバー

という3種のドライバー。いずれも適した帯域に適したタイプのドライバーを組み合わせた異種混合型IEMとなる。

 

つぎに接続端子。2023年現在、イヤホン/IEMのユニットケーブルをつなぐ接続端子は、大きく二つの勢力がある。

2pin 0.78mm

MMCX

 

2pin 0.78mmは、もともとCIEMで始まった接続規格で、非常に簡単な造り。ケーブルのプラス(+)線とマイナス(-)線が、最終的に0.78mmの太さの硬い導線2本にまとめられ、ケーブル端から3mm少々ほど飛び出している形。

 

かつてリーブル脱着できるCIEMのほとんどは、2pin 0.78mmだった。きっちり規格化されて決められたものというよりは、Noble Audioや1964 EARS、JH Audio(4pin、後に7pinも加わる高級ラインを除く)といった老舗、日本ではCanal Worksといったメーカーが採用したコネクタがたまたま互換性が高く、そのまま規格化されたという感じ。そのためバリエーションは多く、ハウジング側がフラットなもの、ハウジングに彫り込み(凹)があって、ケーブル側コネクタの2pinが「生えている」部分が飛び出している(凸)のと組み合わせでがっちり止めるタイプ、さらに2pinの向きの挿し間違い(+と-)を防ぐため、ハウジング掘り込みの一辺に突起を造り(要するに凹型にする)、ケーブル側端子根元の台座に彫った溝(ノッチ)と組み合わせるタイプもある。硬い針金が飛び出しているだけ、というケーブル側端子のプラグの周囲部分を箱型にして、端子側を下にしても端子が折れづらくした、Ultimate Earsやqdcのタイプもある。

 

そもそも、そのピンの太さも原則0.78mmだが、一部0.75mmのものもあり、組み合わせによっては「緩い」噛み合わせ(嵌合)となり、安定しない。さらに、ピンの飛びだし3.3mm、ピン間隔1.8mmはほぼ標準化されているが、それでもビミョーに誤差があり、組み合わせによっては一番奥まで挿してもハウジングとケーブルの間に隙間が空いてしまう場合や、ピンのピッチ違いで上手く押し込めなかったりする。

 

また、ロック機構がなく、ピンとそれを受ける側の摩擦だけで止まっている状態なので、あまり頻回に抜き差ししていると抜けやすくなる。また、極性表示がない(薄い/わかりづらい)場合もあり、イヤーガイドがないタイプの場合は極性を逆に繋ぐ可能性があるし、そもそも太さが1mmもない剥き出しのピンは折れやすい。

 

簡単な構造で、特許やパテントがないので、CIEM界では広く使われている0.78mm 2pinだが、上記のように結構ウイークポイントもある。それに対して、かつてはUltimate EarsやWestone、ユニバーサル系ではShureやJVC等大手が採用していて、現時点で一番選択肢が多いのがMMCX。比較的簡単に脱着できるわりには、パチンと嵌合し、同軸系の接続規格なので+/-の接続ミスはない。

 

ただ、もともと通信機器の内部配線用の接続規格のため、頻回の抜き差しに対応していないし、防水性もない。そもそも中心接点が非常に弱い。その中心接点がメス側、つまりイヤホン側にあるので、「より壊したくない」本体側が弱い事になる(最近ではイヤホン本体よりも高価なリケーブルも出てきたが、ケーブル側端子が壊れた場合は、最悪少し短くなることまで覚悟すれば補修は簡単)。

 

さらに嵌合後も回転方向のロックがなく、接続後も簡単にくるくる回ってしまう。これは、ケーブルのクセとイヤホンの向きを制限しないので、一部では利点ととられることもあるが、ケーブルのイヤーフック部分を使って耳に対してテンションをかけて、固定をより高めようという使い方が出来ない。

 

なにより、汎用の配線用規格なので、コネクターを作っているメーカーが多くて選び放題なのは良い部分だが、その分玉石混淆で、メーカー間誤差もあるので、端子の質が悪く、上手く嵌合できない組み合わせもある。

 

この2種が最大勢力なのは確かなのだが、この2つの欠点を潰した規格が最近各社から出てきた。

 

audio-technicaはA2DCというMMCXの機構を元にしつつ中心接点を逆にしたものを採用しているが、今のところ独自規格で採用例が少ない。WestoneやONKYO等が採用するT2端子はEstron社の独占製造のため精度が担保されており、嵌合性の高さから、嵌合したあとはくるくる回らないし、IP67の防水防塵性能もある。同じEstron社製のコネクタでUltimate Earsの採用するIPXコネクションシステムとの互換性もあるので選択肢は多い。ただEstron社からのパーツ供給が大手メーカーにしかないようで、なかなか裾野が広がらない。

 

そこに出てきたのが日本ディックス社のPentaconn Ear。Acoustuneやintime、Maestraudio等で採用が広がるこのコネクター、オーディオ用として開発されたため、MMCXより大幅に内部接点面積を増やしており、抵抗が少ない。さらに嵌合性に優れ、接続するとMMCXよりは回りづらい(ある程度テンションがかけられる)。また嵌合部分は造りとして単純な板バネ式で、群を抜いて脱着回数の耐久性が稼げる利点がある。今回のCIEMはこのPentaconn Earが選択できる(なおT2/IPXMMCXも選択可能)。

 

最後のネイリストデザインの抽選は、2023年4月29日に中野サンプラザでの最後の開催となった「春のヘッドフォン祭2023」で参考出品された、プロのネイリストさんがデザインしたフェイスプレートが非常に好評だったらしく、ネイリストデザインの「ギャラクシー」を3名限定でデザイン料無償で提供という企画が発表された。その告知がされると、反応良好で多数から問い合わせがあり、抽選ということになった(その後実際には、好評を受けネイリストさんのご好意で2023年5月末までに発注した場合全員無料、となったが)。ヘッドホン祭には「夏」をテーマにした別のフェイスプレートが参考出品されていたようだが、ギャラクシーは蒼ベースに星や天の川のような模様をあしらったデザイン。非常に気に入ったので、この一点ものデザインを入手したく思ったわけ(すべてネイリストさんの手書きなので、おなじ「ギャラクシー」でもすべて違う)。

 

ネット経由で仮申し込みをして、試聴と(納得すれば)正式契約するため、東神奈川にあるアルファ☆デシベルに赴いた。

お店は東神奈川の駅からすぐ
お店は京急東神奈川の駅からすぐ

 

製作依頼した2023年5月当時、アルファ☆デシベルのCIEMとしては、

・2Way 2Drivers(2BA)のMiro FRAME(MF-2)

・2Way 2Drivers(2BA)のMiro mini(MM)

・2Way 2Drivers(2BA)のMiro Spica(MS2)

・2Way 3Drivers(2BA+1Dynamic)のMiro LEONIS(BST2)

・3Way 5Drivers(2EST+2BA+1Dynamic)のMiro Emotion(E5-IST2)

・3Way 7Drivers(4EST+2BA+1Dynamic)のMiro BLEST(E7-IST)

があり、このうち限定ネイリストデザイン対象は、BLESTEmotionLEONISの3種。

 

ただLEONISに関しては、BA型+ダイナミック型の普通のハイブリッド型で、今回の興味の対象ではなかった(当然試聴はしたがw)。

 

BLESTEmotionは、ESTユニットの数の違いで、説明ではEmotionがモニター寄り、BLESTはリスニング寄りとのことだったので、モニター系の写実系音色に魅力を感じることが多い自分としては、実は本命はEmotionだった。

この二つの間で随分悩んだ()
この二つの間で随分悩んだ(左がBLEST、右がEmotionの試聴機)

 

しかし、聴き比べてみると、流石にESTユニットが2倍詰め込まれているBLESTには華があり、アピール度が高かったことと、その時点ではBLESTのみが「春のヘッドフォン祭 2023協賛ディスカウントキャンペーン」を継続しており、普段は3万円の差があるBLESTEmotionの差が1万円と近接していたことも決め手となって、BLESTをオーダーした。

 

接続端子は当然、Pentaconn Earを選択。

 

そしてフェイスプレートは、ネイリストデザインの「ギャラクシー」(その後ピンクベースで同じように星や天の川を描いた「ピンクギャラクシー」も選択できるようになったが、齢を考えて当初予定通り「ギャラクシー」に)。

 

ケーブルは、標準は日本ディックスのRegulus(中心に低域用OFC、外周に高域用銀コート6N OFCを配した8芯編み構造、プラグはOFC(無酸素銅)製プラグ/2023年10月現在廃番)だったが、上級ラインに「差額のみ」でアップグレードできるということで(標準のRegulusに代えて、それらを封入して出荷する)、日本ディックスのリケーブル、PRSシリーズの中から何本か試聴し吟味して、中心に低域用6N OFC、外周に高域用銀コート6N OFCを配置した8芯編み構造、プラグはOFC製プラグという、Regulusの正常進化版という感じで、より高域に伸びを感じるWistariaを選択した。

 

そのまま、いつも通りきつめになるように、口を開けめにして奥まで採ってと依頼して耳型も採取した。

※この時、自分の耳の事情を話したら、さらにきつめに採るノウハウ(顔をやや上げ目にする)も伝授いただいた。

このとき、さらに密閉度を上げてCIEMを造る耳型の採り方を教えていただいた。
このとき、CIEMを造る耳型の採り方で、さらに密着度を上げる方法を教えていただいた。

 

この時採った耳型。パッと見ではわからないが、今までで一番大きく、深く採れているはず。
この時採った耳型。パッと見ではわからないが、今までで一番大きく、深く採れているはず。

 

元々ネイリストさんの本業もあり、ネイリストデザイン選択の場合「気長に待てる人」とのことだったし、さらに当初3名限定施工のはずが、当月末までにオーダーがあったものすべてに対応と変わったので、時間がかかるかな...と思っていたが、耳型採取・発注後一週間でネイリストさんへ送ったとの連絡があった。同日DMで、フェイスプレートへの機種名は入れるか否かの打ち合わせを行った(たぶんネイリストさんに描いてもらってから、機種名を入れる際にはその上に金属ロゴを配置し、クリアで封入処理をするのだと思う)。そして驚くことに、その翌日にはネイリストさんから戻ってきたので、最終の仕上げをして、テスト後出荷するとの連絡。

 

ネイリストさんの通常業務の隙間が上手い具合にあったのか、反響が大きくて頑張っていただいたのかわからないが、なんと耳型採取・オーダー後10日後に受領という、CIEM製作依頼の自分史上最短の爆速で仕上がってきた。

今回、いまだかつてない爆速10日仕上がり
今回、いまだかつてない爆速10日仕上がり

 

今回、ネイリストデザインを堪能するため、あえて片側(左)にしか機種名を入れなかったが、特にその機種名を入れていない右側のデザインが、神かがって良く、宇宙色に斜めに天の川が通り、その下にひときわ輝く手書きの星と、周りには雲母のような大きなラメが散らされていて、光の角度によって色を変えるという、非常に美しい仕上がり。

手作業での装飾なので、左右は対象ではない
手作業での装飾なので、左右は対象ではない

 

MAVERICKと同様、左側だけに機種名(BLEST)を入れた
MAVERICKと同様、左側だけに機種名(BLEST)を入れた

 

右側ユニットの天の川と手書きの星、ラメのバランスが最高
右側ユニット(写真では左側)の、天の川と手書きの星、ラメのバランスが最高

 

シェルの造形は非常によく、また、耳型が一番大きくなるようにアドバイスを受けて作成したので、フィッティングとしては「ミッチミチ」。今までCIEMの中で文句なく一番フィッティングの「遊び」がない。耳道にできものや炎症などがある際には、間違いなく「入らない」だろうと予想できるほどの密着度。何度製作してもやや緩め仕上がりになるUnique Melodyと比べると、二回りはきつく感じる大きさ。外部の音はかすかにも聞こえないので、リスニング音量を下げても音楽に没頭できる。

 

内部には、丸に「横倒しにした三本川」のようなSonionのマークが確認できる2段重ねのBAユニットがある。SonionはKnowlesに比べると型番が確認しづらいが、Sonion 2300シリーズかな。

BAドライバー。丸に横に3本波線のSonionのマークが見える
BAドライバー。丸に横に3本波線のSonionのマークが見える

 

このSonionのBAユニットに対して、体積比1/8くらいの小さな金色のボックスが4段積み(というか出口は2つなので、デュアルドライバー×2と思う)になっているのが、同じくSonionのElectrostatic Tweeterで、少し離れてCIEMの型番「E7-IST」の刻印がある部分の裏にある部品がその昇圧トランスか。

この小さい箱が重なっているようなのがESTドライバー
この小さい箱が重なっているようなのがESTドライバー

 

矢印の部分がESTの昇圧トランス、丸くて大きいのがダイナミック型ドライバー
矢印の部分がESTの昇圧トランス、丸くて大きいのがダイナミック型ドライバー

 

大きな円柱形の構造物はフォスター電機製9mmダイナミックドライバー。大きなダイナミック型ドライバーやESTの昇圧トランスが組み込んでいる割には、中は整理されており、クリアシェルにしたので、中身は見えるものの雑然とはしていない。ダイナミック型ドライバーがあるからか、Pentaconn Earsの端子の傍にベント穴らしきものがある。

 

CIEMの付属品はペリカンケースだけで、これに「別売品の同梱」という形でケーブルが付属する。

 

今回選択したのは、藤色と白の編み込みが美しい日本ディックスのWistaria(Pentaconn Ears ⇔ 4.4mm5極バランス)。こちらもシンプルで本体以外はマグネット固定式のケーブルタイ程度。

アップグレードケーブルは日本の
アップグレードケーブルは日本ディックスのWistaria

 

は通常商品の同梱なので、保証書なども別
Wistariaは通常商品の同梱なので、保証書なども別

 

藤色と白色の編み込みが美しいリケーブル。中央のはマグネット式のケーブルタイ。
藤色と白色の編み込みが美しいリケーブル。中央のはマグネット式のケーブルタイ。

 

ではこの美しいCIEM、どういう音に仕上がったのだろうか。いつものように、100時間ほどエージングして、いつもの曲を聴いてみた。

 

DAPとしては、現在のメイン、Shanling M3X Limited Edition

を使い、そのセッティングは、ゲインはLowでDUAL DAC(DAC Turboモード)、EQはスルー。ケーブルは元々の標準設定ケーブルとされていたRegulusを購入していないので、すべてオプションアップグレードケーブルのWistariaを使い、4.4mmバランスアウト直結。

DAP(M3X LTD)直結でドライヴ
DAP(M3X LTD)直結でドライヴ

 

まず音質チェックで「最初に聴く」ハイレゾ曲(PCM24bit/96kH)、吉田賢一ピアノトリオ

“STARDUST”

から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」。まず能率が良いのか、音量が取れる。普段の7割くらいのヴォリューム位置。この曲ジャズトリオにたまにある「真ん中にドラムが定位しない」配置で、中央はウッドベース、右にドラムス、左から中央にかけてピアノというポジション。すなわち、イヤホン類の特性で、ドラムスの張り出しや右への引っ張られ方、シンバルの音の「痛さ」などが変わるが、このBLEST、上にESTが4発も入っているので、痛いほどかと思えばそんなことはなく、シンバル音もアタックやカップの音よりボウの広がりが感じられる。とくにシンバルレガートの広がりが中央やや左まで張り出してくる聴こえ方で、「広がりはありながらも痛くない」というのは良いバランス。下は途中のウッベソロの部分では膨らみと響きは十分あるが、ピアノが戻って来ると中域がしっかりと主張するバランスに。ピアノはffの部分でも痛いアタックはなく、やや暖かめの音。

 

高音質ハイレゾ曲として、もうひとつ必ず評価する曲、宇多田ヒカルの「First Love」は、USBメモリ形状のリリースだった“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”(PCM24bit/96kHz)

から。バラードながらよく聴くとベースが打ち込みであるなどよく聴くと現代的な音作りの曲だが、BLESTで聴くと超ヴォーカルフォーカス。試聴環境によっては、2nd verseからベースがガツンと入ってくると、ベースの上にヒカルが乗っているような感じを受けることもあるが、そこまでベースに硬さと主張がなく、あくまでヒカルの震える声がセンター。かなり「暖かい」感じの曲となっている。バッキングのアコギとピアノ、ストリングスもかなり存在感はあるものの、「痛さ」はなく美しい。ただヒカルの声がしっかりと中心で主張するので、ラストの盛り上がりで、ドラムスが残響たっぷりのスローなフィルインでタムを回しても、「部屋の広さ」はさほどではない感じ。

 

同じ女声バラードながら「First Love」とは結構評価が違うことが多い「」は、あやちゃんこと女性声優洲崎綾のメモリアルフォトブック“Campus”から。

この曲、元録音が「First Love」ほど高品位ではないが、ヴォーカルフォーカスなのは同じ。アコギが右端、エレキが左端に振ってあるので「広さ感」は結構出ている。一方上下は、上は左chのキラキラ音もさほどに主張せず、そんなにない感じだが、下は結構安定している。ベースも存在感ありつつ下を支えている。

 

おなじあやちゃんの歌う曲ながら、180度方向性が違うデジタルな打ち込みダンス曲、アイドルマスターシンデレラガールズの女子大生アイドル新田美波の初期持ち歌、「ヴィーナスシンドローム

は、四つ打ちで打ち鳴らされるクリップ気味のバスドラ、左右を駆け回るキラキラしたSE、ピアノ+ストリングス+エレキギターで飽和気味の音空間と、ヴォーカルが埋もれがちになることもある楽曲だが、これもしっかりヴォーカルとドラマチックなピアノが良く聴こえる。静かなAメロで右chのエレキギターのディレイが左chに飛んでいるのや、キラキラしたSEが左右を駆け回るのも、うるさいオケの中しっかりとわかる。ただ、ドラムのビートはやや緩め(丸め)で、尖った強いビート感はやや控えめ。シンベもアタックの部分が柔らかく、よく言えばデジタル臭が薄く、悪く言えばビート感が緩いという感じ。

 

キレと各楽器の描き出しが重要なジャパニーズフュージョン、老舗フュージョンバンドT-SQUAREの「RADIO STAR」を、オリジナルではなくてゲストベーシストにJINOこと日野賢二を迎えたセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”ヴァージョンで。

JINOのベースと絡む、ドラムスの坂東慧クンのキレの良い足技を中心としたプレイが聴きどころの曲だが、キレの「スピード」は他のCIEMと比べて特筆するほどではない。一方、タム、特にバスタムの響きが素晴らしい。あとJINOのベースソロもスラップの部分よりもむしろ、ラップしながら奏でる後半の低音の伸ばした音の方がよく、ちょっと他と印象が違う。そして、今は体調問題から退団してしまった河野啓三のリリカルなピアノソロは、アタックは痛くないのに、芯のある音で存在感があり、心地よい。

 

一転古典ロックのEaglesの「Hotel California」は24K蒸着CDの同名アルバムから(試聴ファイルは取り込んでFLAC化)。

これはアコースティックギターのコード弾きが美しいな。ギターはかなり多重録音されているが、エレキギターのカッティングや、オブリ、アコースティックギターのアルペジオなど、目立つパートに近い感じで、環境によっては埋もれてしまうアコギのカッティングが響く。音数が多い感じの聴こえ方。ラストのツインギターの有名なハモリフレーズは、フェイドアウト直前まで2本の分離が確かで美しい。

 

オーケストラ系楽曲となる、ゲーム艦これの初期BGM、「鉄底海峡の死闘」を交響アクティブNEETsのリアルオーケストラアレンジで“艦隊フィルハーモニー交響楽団”から。

ガツガツと前に出るわけではないが、低域はティンパニやダブルベースで柔らかにしっかりと埋められていて、壮大なスケール感が強い。一方途中の和笛風ピッコロの「抜け」は若干薄い。

 

配信楽曲で多い、やや高ビットのmp3(ビットレート269kbps)としては、YOASOBIのサポートベーシストとしてブレイクし、最近引っ張りだこのやまもとひかるの2nd配信シングル「NOISE」。

最近はずいぶん歌も存在感を増してきたが、このころはまだ、ヴォーカリスト<<ベーシストの状態。しかし、中域~中高域がスッキリ・クッキリと出ていて、低音域のスピードがやや緩いこのBLESTとは、バランス的には結構相性が良い。低音域もベースよりドラムス優勢で、ビート感が強く、ヴォーカルとメインのバッキングのピアノがしっかりと立っていて、楽曲全体ではバランスが取れている。ただベースが若干引き気味になるのが、「ベーシストのひかるちゃん」としてはどうか、というのはあるが。

 

全体的に中~中高音の部分にしっかりと主張があって、それを温度感のある低域がしっかり支えるという感じのCIEM。「高音質」「広音域」という主張は薄く、華のある主旋律域を中心に曲として綺麗にまとめるという意味では、まさにリスニング向け。特徴(アピールポイント)としては

◎華があり主張もある中~中高音域

◎密な感じの熱がある低域(中低域)

◎高域は「痛さ」皆無

◎定位感が非常によく、複数の楽器をしっかりと描き出す

◎能率が高く、上流に過度のドライヴ能力を求めない

というような点があげられる一方、

●(特に)低域にはスピード感はない

●EST4発で期待されるほど高域の抜けや広がりはない

●デジタル系の楽器音再生より生系の楽器が良い傾向で、やや得手不得手がある

という感じで、若干苦手とする楽器・ジャンルがある。また「トリプルハイブリッド」でイメージされる「ダイナミック型ドライバーの低域でガツンと一発」「EST4発で澄み渡る高域」というドンシャリイメージとは方向性が違う感じ。

 

ただ、ヴォーカルやソロ楽器帯域の描き出しは非常に上手く、今回さらにノウハウを蓄積して得た超絶フィット感による遮音性と合わせて、好きな音量で音楽に没入できる究極のリスニングCIEMという感じ。そういう意味では、どちらかと言えば隅から隅まで見渡せることが至高という今までの方向性とは違って「楽しめる」CIEM。音楽に「浸かりたい」時に使いたいCIEMです。

 

【cybercat所持CIEM比較】

例によって自己満足まとめ表
例によって自己満足まとめ表

 

【仕様】
型番:E7-IST
商品名:3Way/7Drivers Custom In-Ear Monitor
ドライバー: Low(Dynamic) x 1, Mid(BA) x 2, High(EST) x 4
インピーダンス:非公開
再生周波数:非公開
感度:非公開

【代金】

総額179,400円
 ※20,000円オフ適用(春のヘッドフォン祭 2023協賛ディスカウントキャンペーン)

本体(標準ケーブル仕様):164,800円(標準ケーブルRegulus=25,000円相当込み)

 ※耳型採取費用:無料

  株式会社キタガワ アルファ☆デシベル(のぞみ補聴器)東神奈川本店にて

オプション:

・フェイスプレート ネイリストデザイン「ギャラクシー」:0円(キャンペーン)

・アップグレードケーブル(Pentaconn Recable SGシリーズ Wistaria)差額:14,600円


【今回購入時のタイムチャート】

2023/5/18 店舗訪問・耳型採取・オーダー

2023/5/25 ベース筐体完成、協力ネイリストにフェイスプレートアート外注

2023/5/25 フェイスプレートの機種名入れ有無打ち合わせ(DM)

2023/5/26 製品完成連絡

2023/5/26 発送連絡
2023/5/27 製品受領            オーディオなんちゃってマニア道

 

株式会社キタガワ(アルファ☆デシベル)

更新: 2023/10/23
高音

EST4発で「期待」するより薄い

ESTドライバーは、静電気の力を使って超薄膜・超軽量の薄膜を振動させる動作原理で、極めて高い過渡特性(瞬発的な反応に優れている)が特徴。そのため一般に高域(超高域と記載されることもあり)担当。それがベースとなったモデル(Emotion)の倍の数入っているので、空に抜けるようなわかりやすい高音域を期待するが、そこまでの主張は強くなく、キラキラ感も薄い。ただ、高音増強のドライバ配置にもかかわらず、刺さり感や痛さは皆無の美味い(上手い)塩梅。

更新: 2023/10/23
中域

主旋律域が非常に立つ

SONIONのBAドライバーが単独で担っているのか、Knowlesと比較してどちらかと言えば中低域が明瞭という傾向にあるといわれるSONIONのBAに、ESTの高域がプラスされているのかわからないが、中~中高域が非常に明瞭で、その部分は左右の音場も広いので、メロディラインやソロの旋律が非常に明確。若干ミックスがアレな曲も楽しく聴かせる。

更新: 2023/10/22
低音

スピード感と熱には欠けるが、柔らかで芯と質量がある

旧来のハイブリッドイヤホン(IEM)というと、繊細で反応性の高いBAで中高音を、低音域は物理的振動が大きく、パワー感があるダイナミックで、分業明確...という感じだったが、そこまで低音域を突っ込んでいない感じ。量はあるがややソフトで、スピード感には若干劣る。ただ、ウッドベースやランニングフレーズなど、ベースの芯を聴かせるプレイにはすごく相性が良い。

更新: 2023/10/23
音像

広さはほどほど、ただ定位感は良い

左右の広さは中域はかなり広いが、低域と高域は元々の音がガツンと出るタイプの音質でないからか、そこまで広さは感じない。したがって、注目(注耳?)すると結構広いのだが、解りやすい開放感というのはない(特に上が控えめなのがその印象を強くするのか?)。

 

一方、多ドラIEMにも関わらず、定位感は結構しっかりしていて、楽器・音源のフォーカスがきちんと合っている感じ(特に中域の定位が明瞭)。

  • 購入金額

    179,400円

  • 購入日

    2023年05月18日

  • 購入場所

    株式会社キタガワ(アルファ☆デシベル)

19人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (4)

  • jive9821さん

    2023/10/23

    アルファデシベルさんは作業が丁寧な割に納期が
    早いのは良いですね。今までなかなか聴く機会が
    無かったのですが、ちょっと聴いてみたくなりました。

    この構成だとM3X Limited Editionの駆動力が足りるか
    どうかがちょっと気になります。
  • cybercatさん

    2023/10/23

    アルファ☆デシベルさん、ネット情報では、ずいぶん前は仕上がりの問題などがあったような書き込みもあるようですが、現在は問題なくクリアできているようですね。

    今回の爆速納品はタイミングもよかったのかもしれませんが、販売店を挟まない直接やり取りで、打てば響くようなレスポンスは、今は大きくなった(なってしまった?)Canal Worksが、初期に社長の林さんのご自宅で製作されていた時期をほうふつとさせます。

    ヘッドホン祭には出品することが多いようなので、タイミングがあれば聴いてみてください。

    駆動に関しては、多ドラですがM3X Ltdで十分ですね。能率も高いし。
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