レビューメディア「ジグソー」

コロナ禍の影響を、良い方に変えた5年ぶりのリーダーアルバム

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。新型コロナウイルスの影響は、様々な職種に及びました。医療系のように極端に忙しくなった/やらなければならないことが増えた業界もあれば、観光業などのように商売が成り立たないほど人の流れがなくなった業界もあります。音楽界も、数ヶ月先の集客が読めない大規模コンサートや、狭いスペースで音楽を楽しむオールスタンディングのライヴハウス公演などが不可能になって、多大な影響を受けました。そんな環境でも、それを逆手にとって創られた作品もあります。そんな作品をご紹介します。

 

川口千里、ドラマー。あの「手数王」こと、故菅沼孝三に師事した愛弟子の一人。手数王のスタイルを受け継ぐ弟子は何人もいるが、その中でもかなり「濃く」引き継いでいる、手数が多いドラマー。

 

そんな千里ちゃん、インディーズでデビューしたのが2013年。

その時は学生服が似合う「千里ちゃん」だったのだが、もう一枚インディーズレーベルでアルバムリリースした後、2016年メジャーデビューする。

 

インディーズ時代は、多くの凄腕ミュージシャンのサポートを受けていて、言い換えれば曲によって参加メンバーが異なっていたが、メジャーデビュー盤の“CIDER 〜Hard & Sweet〜”

ではメンツを固定にして、原則キーボーディストのPhilippe Saisse+ベーシストArmand Sabal-Leccoとのトリオ構成で挑んだ(一部の曲でパーカッショニスト参加)。

 

それまで多くのミュージシャンと共演してきた千里ちゃんだが、Philippe SaisseとArmand Sabal-Leccoは共演したことがないプレイヤーだった。メンバー固定にしたことで、アルバム全体の統一感はあったし、どの曲もハイレベルなプレイだったが、今まで共演がなかったためなのか、ちょっと「おすまし千里ちゃん」という感じだった。それが、今作制作時期(2020年初秋)は、新型コロナウイルスの毒性が強い時期で蔓延具合も酷く、アルバム制作のための渡航や、多くのミュージシャンを入れ替わりに使ってのレコーディングというのが難しい状況だった。そこで、「日本で、メンバーを最小限にして、製作する」という手法を採ることにしたようだが、それがとても良い方向に働いた。

 

メンツは、インディーズ時代から親交が深く、千里ちゃんがリーダーとなる「川口千里バンド」の「いつめん」で、櫻井哲夫(ベース)、菰口雄矢(ギター)、安部潤(キーボード)という布陣。

 

しかし、メンツを絞るだけではなく、ライヴ感は大切にしたい、と、千里ちゃんを入れた4人が、できるだけオーバーダビングや差し替えを避けて、スタジオで「せーの」で録ったテイクを大切にすることにした作品が、本作“Dynamogenic”。

 

気心知れたメンツで、特にドラムセットが自分のものという、リラックスできる環境に(過去2作の海外録音では、運ぶと大荷物になるドラムセットは日本から持参せず、現地の借り物で録音したらしい)、基本バンド演奏というステージ形式の録音方法がもたらす緊張感が良い意味でのスパイスとなっていて、スリリングでダイナミックな作品になっている。

 

まず出だしの「Raging Spur」からものすごい。ハイスピードシャッフルの曲で、構成はドラムス+ベース+エレキギター+オルガン音中心のキーボード。原則オーバーダビングなしなので、音数が少ない...か?これ?w千里ちゃん叩きまくり、安部も菰口も速弾きの嵐!3連系の曲なので、撥ねる感じになるため、音数が決して少なくはない櫻井のベースが一番地味に聴こえるくらい、音詰め込みまくりの差し込みまくり。この曲は菰口の筆。

 

千里ちゃんとよくプレイするうちに、洗脳されて変拍子好きになった??安部の作品「Storm Warning」は、ゴージャスなブラス隊が入ったリズムコンシャスな曲。ブラス担当は、エリック宮城・二井田ひとみ(以上トランペット)、中川英二郎(トロンボーン)、本田雅人(サックス)という超豪華布陣。この豪華ブラス陣に彩られつつ、オンビート‘変拍子’ドラムソロが入るという超ぶっ飛び曲。アウトロの千里ちゃんのドラミングは、もはやリズムパターンかソロなのかわからないくらいのビート感あふれる音の奔流。

 

このアルバムは、(ブラス隊以外の)参加メンバーが2曲ずつ、千里ちゃんだけ3曲提供して創られているが、その千里ちゃん提供曲の一つ「Who Would’ve Known」は、サックスがメロを取ることを前提に創られた曲で、阿部がブレスコントローラーを使ったシンセでリードを取っている(どうやら千里ちゃんとよく組んでいるGustavo Anacletoを意識して書いた曲だったようだが、Gustavoが結婚してウクライナに行っていた時期に録ったらしい⇒今はGustavoは日本に戻ってきている)。菰口のワウギターがファンキィ!

初回限定盤なので、がついている(黒い方)
初回限定盤なので、Blu-rayがついている(黒い方)

 

この盤は初回限定盤なので、映像Blu-rayがついている。内容は、2020年9月29日にレコーディングスタジオから配信された配信ライヴ(The live from KING SEKIGUCHIDAI STUDIO on 2020.9.29 “SENRI IN THE STUDIO”)から3曲、配信ライヴには乗らなかった同日録音(録画)のアウトテイク2曲をボーナストラックとして、そしてそのアルバム制作秘話?を、プロデューサー兼レコーディングエンジニア木村正和と千里ちゃんの対話で深堀りするインタビューが25分にわたって収められる。

配信映像なので千里ちゃんのMCも入る(冒頭部分)
元が配信映像なので千里ちゃんのMCも入る(冒頭部分)

 

製作インタビューは裏話もちょいちょい挟みつつ、千里ちゃんの作曲法などにも触れている
製作インタビューは裏話もちょいちょい挟みつつ、千里ちゃんの作曲法などにも触れている

 

ライヴ映像は、本作だけではなく、メジャーファーストアルバムやインディーズ時代の作品も取り上げられている。その中でも「Ginza Blues」~「Raging Spur」の高速3連系⇒高速シャッフルのハイスピードハネ系楽曲がものすごい。実際のアルバムでは最小限のオーバーダビングやソロ差し替えが行われたようだが、この配信ライヴでは4人だけのリアルタイムの音。みんな「饒舌系」のプレイヤーなので、音の洪水という感じながら、キレの良い千里ちゃんのドラミングで、リズムが「立って」いる。この配信ライヴのプレイは必聴かつ必見。

自分のバンド以外でも最近共演の多い千里ちゃんと櫻井の息はピッタリ
自分のバンド以外でも最近共演の多い千里ちゃんと櫻井の息はピッタリ

 

(奥)はサックスが入っていたような曲ではブレスコントローラーで表情をつける
安部(奥)は、サックスが入っていたような曲では、ブレスコントローラーで表情をつける

 

最近は女性オンリーブラス系バンド

のバンマスもやったり、名だたるプレイヤーから声がかかることも多くなって、毎週のようにイベントやライヴハウスで叩いている千里ちゃんなので、その「音」を耳にすることが多くなってきている。

 

ただ、かれこれこの時の録音からは3年経つので(本作、リリースは2020年末だが録音は同年9月)そろそろ「次」が欲しくなってきましたよ、千里ちゃん!(前のレビューと同じ〆だなw)

 

【収録曲】

<CD>

1. Raging Spur
2. Storm Warning
3. Turn Right
4. Who Would’ve Known
5. Panic Man
6. Cullinan
7. Mulher Linda
8. Blessed Rain After The Drought
9. My Way Home

<Blu-ray>

The live from KING SEKIGUCHIDAI STUDIO on 2020.9.29

SENRI IN THE STUDIO

1. Ginza Blues
2. Raging Spur
3. Onyx
4. Infinite Possibility (BONUS)
5. Panic Man (BONUS)
6. Interview

 

「Raging Spur」

更新: 2023/10/02
必聴度

気心知れたバンドメンバーと制作陣で、のびのびプレイしている

ソロアルバムでは千里ちゃんのフルパワー(テクニック的な意味で)ドラミングが聴けるので、楽しい

  • 購入金額

    5,500円

  • 購入日

    2020年12月23日

  • 購入場所

    リミスタ

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