現在私が使っているカートリッジの中で最も使用頻度が高いのは、audio-technica AT-OC9/IIIです。
当初は高解像度でワイドレンジというオーディオ的な性能の良さは理解できたものの、音が何か淡泊で淡々と鳴らしているだけという印象が強い製品でしたが、KS-Remasta製のシェルリード線と出会い、KS-Stage401EVO.II/VKやKS-Stage621EVO.I/VKという実力の高い製品と組み合わせたことで、ごまかし無くソースを描き出すようなリアルさが出てきて、価格を大きく超える実力とすっかり気に入ってしまいました。
私の所有するAT-OC9/IIIはモデル末期に4万円台まで下がったところを購入したのですが、後継のAT-OC9XSLは107,800円(現時点での直販価格)と大きく値上がりしてしまいましたので、もう1つ買っておけば良かったと後悔したものです。
ここでAT-OC9シリーズについて少し説明しておくと、まず初代モデルは文字通りのAT-OC9で、価格は25,000円、針先は無垢楕円針で、伝送系の線材にPCOCCを採用していることが特徴でした。日本国内ではこれに下位のAT-OC7(20,000円)と上位のAT-OC30(40,000円)というラインナップで展開されたのですが、実は海外市場ではAT-OC10/5/3というシリーズモデルも存在していたようです。実物を見たことはないので何ともいえませんが、AT-OC10はAT-OC9ベースで針先がML(Micro Linear)、AT-OC3はAT-OCシリーズのボディに名機AT-F3IIの中身を詰めたものという感じだったようです。
国内市場ではAT-OCシリーズはこの後一度途絶えるのですが、海外市場ではAT-OC9ML/IIという後継モデルが存在していました。文字通り初代機の針先をML化して、その他時代に合わせた改良が施されていました。なお、大阪の販売店逸品館の説明ではAT-OC9MLという前世代が存在していたことになっていますが、調べた限りAT-OC9MLに関してのデータは全く拾うことが出来ませんでした。ただ、以前販売店でAT-OC9ML/IIが逆輸入販売された際に「シリーズ3世代目」と紹介されていた記憶がありますので、初代との間に何かしら存在していたのだとは思います。
というわけで、国内モデルとして発表されてはいなかったものの、一時期海外からの逆輸入という形で販売されていたのが、このAT-OC9ML/IIでした。後継となるAT-OC9/IIIで再び国内市場にOCシリーズが復活し、それ以降は下位のAT-Fシリーズも取り込んだオーディオテクニカのMCカートリッジとしては主力シリーズという位置付けとなっています。
初代のAT-OC9は希望小売価格25,000円で実売は2万円前後というところでしたが、AT-OC9ML/IIが逆輸入販売されたときには5万円前後だったような記憶があります。それを見て随分高くなったなぁと思ったものですが、現在から見ればかなり格安だったといえそうです。
そのAT-OC9ML/IIですが、丁度手頃な価格の中古品を見つけましたので、AT-OC9/IIIと比較するのも面白そうと思い購入してみました。
外観はAT-OC9/IIIとよく似ていますが、当時のオーディオテクニカはPCOCC材を使っているものに、ひたすら「OCC」と刻印していて、本製品もご多分に漏れず正面に「OCC」のロゴが入っています。
早速AT-OC9/IIIと比較しようとしたのですが、ヘッドシェルは全く同じAT-LH15/OCCで揃えられたものの、シェルリード線の良いものが手持ちになく、仕方なくAT-LH15/OCC標準添付のAT6101相当品で組みました、シェルリード線の品質が違いすぎるのでまともな勝負になり得ませんので、ファーストインプレッションとしてお届けします。
AT-OC9/IIIよりはやや緩く、耳当たりの良い万能型
それでは参考レベルではありますが、実際に音を聴いてみましょう。いつも通りTechnics SL-1200G+Phasemation EA-200の環境に取り付けます。
AT-OC9/IIIとAT-OC9ML/IIとは、外観はそっくりですが内部構造は意外と異なっている点が多いのです。海外ユーザーが仕様の差を表にしていますので、以下のページでご覧下さい。
https://www.vinylengine.com/turntable_forum/viewtopic.php?t=104718
AT-OC9/IIIは最低域の重量感などに限界はあるものの、ワイドレンジで硬質かつ高解像度な音で、アナログ機器の割にはデジタル的な傾向の持ち味が特徴となります。
それと比べるとAT-OC9ML/IIはしなやかさや弾力が感じられ、AT-OC9/IIIほど引き締まった感はありません。さすがに解像度や高域方向の透明度や緻密さはAT-OC9/IIIには及びませんが、程々にバランスが取れた万能型サウンドといえます。直接比較したことはありませんが、現行モデルでいうとAT33PTG/II辺りのバランスに近いかも知れません。
レンジの広さはAT-OC9ML/IIでも十分だと思いますが、AT-OC9/IIIの方が高域方向の鮮明さが上であるため、よりストレスなく伸びている印象を受けます。AT-OC9ML/IIでも他のカートリッジと比べれば十分質の高い高域は出ているのですが、AT-OC9/IIIはその部分では同価格帯の他の製品を圧倒していましたので、AT-OC9ML/IIがその次元に達しているとは言い難いところです。
恐らくターンテーブルやトーンアームとの相性でいえば、AT-OC9/IIIでは極端にHi-Fi志向となってしまう組み合わせでも、AT-OC9ML/IIではそこそこアナログらしさを残した音を楽しめそうで、意外とAT-OC9/IIIよりも万人受けする傾向の音かも知れません。ただオーディオとしての性能の高さは間違いなくAT-OC9/IIIの方が上です。
AT-OC9/IIIの方向性を極限まで突き詰めると、AT-OC9/IIIベースの限定モデルAT-OC9/III LTDとなるようですから、一度AT-OC9ML/II、AT-OC9/III、AT-OC9/III LTDで比較試聴してみたくなります。さすがにAT-OC9/III LTDは入手困難ではありますが…。
基本性能ではAT-OC9/IIIに届かないとはいえ、AT-OC9ML/IIも当時の価格を考えればかなりの高性能カートリッジだったことは間違いありません。市場価格もこなれていますので、もし見かけたらお買い得な逸品といえそうです。
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購入金額
15,000円
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購入日
2023年08月29日
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購入場所
サウンドハイツ
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