レビューメディア「ジグソー」

黄金期の後、一番それに近づいた時期。派手さはないが、旧来の路線が好きなファンにも勧められる。

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。永く活動を続けるアーティストには「黄金期」と呼ばれる時期があることがあります。自身の活動に対する熱量や思い入れ、備えるテクニックや表現力、世間のトレンドやジャンルの流行り廃り、ライヴ回数やタイアップ等のセールス手法...それらが合わさり、(一般聴衆から見て)「一番輝いていた時期」をそう言います。そんなファクターの中に、グループの場合は「メンバー」という要素も入ってきます。あるグループが、その「黄金期」の陣容に近い形で再始動した時にリリースした作品を、ご紹介します。

 

CASIOPEA。日本を代表するフュージョングループ。リーダーで、多くの楽曲の作曲を手がけるギタリストの野呂一生を中心としたグループで、80年代のフュージョンブームでは、THE SQUARE(後のT-SQUARE)と人気を二分した。どちらかというとキャッチーで明快、フロントマンのサックスプレイヤー伊東たけしのダンディな魅力などで、女性に人気が高かったTHE SQUAREに対して、よりジャズ寄りのアプローチで、テクニックを前面に出したCASIOPEAは、男性受けの方が良かったように思う。

 

そのCASIOPEA、一時期海外向けに?ゲストヴォーカリストを入れたこともあるが、原則ギター+キーボード+ベース+ドラムスの4ピースバンド。ただ4人もいると、音楽性の違いや活動方針に対する意見の相違などもあり、メンバー変更は生じる(そういう意味では、活動中断時期や、サックスプレイヤーが抜けていた時期はあれど、今また出戻って、メジャーデビュー時のメンバー5人そのままで40年も活動を続けているNANIWA EXPRESSは希有な存在)。

 

そんなCASIOPEA、現在では「CASIOPEA-P4」と、第4期であることを明確にして活動しているが、メンバーチェンジによる名称変更がなかった時期も含めて、今までのメンバー変遷を、大きく4期に分けて語るのが一般的。その中でも80年代フュージョンブームという外部要因と、今でも「代表曲」と呼ばれる数々の名曲のリリース、そして高いテクニックと表現力を備えたメンバーが集まっていた第1期の後半、オリジナルアルバムでは3枚目の“MAKE UP CITY”

から、11枚目の“SUN SUN”、

そのメンバーでの録音としては、ともにライヴアルバムの“THUNDER LIVE”から“WORLD LIVE '88”までに挟まれた期間が「黄金期」と呼ばれる(期間としては1980年から1989年)。

 

このときのメンバーは、ギターが野呂、キーボードが向谷実、ベースが櫻井哲夫のメジャーデビュー時のメンツ、そしてドラマーが“THUNDER LIVE”から、前任の佐々木隆より引き継いだスーパーテクニシャン神保彰。この4人での活動時期が、一般にCASIOPEAの「黄金期」と呼ばれている。

 

その後、CASIOPEA以外の活動内容(ソロや他グループ)をめぐる考え方の相違で、フロント側のメロディ楽器の二人とリズム隊の二人とに分裂、野呂がいるメロディ楽器隊の方がCASIOPEAの名を引継ぎ、新たにリズム隊メンバーを迎えて再出発してからが、第2期と呼ばれる。

 

この第2期の中でも何度かメンバー(というかドラマー)の交代があったのだが、本作“Light and Shadows”は、その第2期の後半に位置する。この時はメロディ楽器隊の野呂と向谷に加え、ベースは「黄金期」後の参加ながら、肌が合ったのか2023年現在までも行動を共にするナルチョこと鳴瀬喜博、そしてドラムスは第2期に入ってから複数のドラマーの出入りがあったものの、最終的にこの作品から「黄金期」のドラマー神保がサポートメンバーとして戻り、支えることになった。すなわち、「黄金期」からベーシストのみが変更になった(櫻井⇒鳴瀬)、という顔ぶれ。

 

その分、楽曲もかつての「黄金期」に近い傾向の曲があり、それでいながら当時とは10年以上の時間が経っているので、その間の音楽的変遷や機材・音色的な進化も反映されていて、旧来からのファンも、90年代になってからT-SQUAREのF1テーマ曲「TRUTH」のヒットから手を広げて入ってきたような新しめのファンも、どちらも納得できる内容となっている。

 

オープニングの「Golden Waves」。頭半小節のドラムフィルインでの導入、♪ドドドドドドパンッッ♪というタムの強弱による表情付けと、最後のスネアのキレを聴いただけで、おかえり!と言う感じの、神保のグルーヴが、まさに実家のような安心感。1曲目に持ってくるには、明るく覚えやすくこそあれ、激しくもテクニック魅せ魅せの曲でもないのに、しっくりくる感じ。アルバムの他の曲では比較的歪みが強い、中域にピークがあるゴリッとした音を使っている野呂も、この曲で黄金期後期のような美しく高音が伸びる音。向谷のキラキラしたコードバッキングも「CASIOPEAって、これだよこれ」という感じ。

 

キメの嵐とゴリゴリしたマッシヴなリフ、デジタルシンセのキラキラした音が印象的な黄金期後期のような楽曲、「Chain Reaction」。16分音符裏に入る♪ゥパッ♪と言うデジタルシンセブラスの音が向谷らしい。鳴瀬の骨太のベースリフは、前任の櫻井のカチッとしたノリとは多少違うが、前進力は上。黒さを増した黄金期後半の9thオリジナルアルバム“Down Upbeat”

の楽曲の上位互換という感じ。

 

Speeded Age」は、頭脳的なアレンジをするCASIOPEAの面目躍如という印象の曲。リフ、というには長いギターのフレーズが小節の垣根を越えてトリッキーなイメージ。そして、キーボード⇔ギターのハイテクニックなソロの掛け合いと、そのバックでリズム的にメチャクチャ難しいことを淡々とやり続けるリズム隊が「ザ」CASIOPEA。つづくリズム隊のソロもドラムソロがオンビートソロなのが彼ららしい。

 

この第2期後半体制はこの盤から約10年、オリジナルアルバムとしては10作継続し、安定したかに見えたが、その後CASIOPEAは休眠に入り、6年後復活した時にはキーボーディストの向谷も交代していた(ここからが「CASIOPEA 3rd」と称する第3期)。

 

あとから俯瞰してみると、この第2期後半というのは、黄金期に匹敵するくらいの長い間バンドが安定していた時期で、実は第2期の中心となる期間。この作品も、楽曲は粒ぞろいで、CASIOPEAらしさも濃厚、決して悪い出来ではない。ただこのCASIOPEA第2期後半は、市場的には「フュージョン」にとっては一番不遇の時代である20世紀末~21世紀初頭にあたってしまっていたこと、それでもフュージョンが好きなレアな層は、後発のDIMENSIONなど、よりエネルギッシュでアクティヴなグループに注目していたことで、あまり認知が高くない。

 

今、改めて聴き返してみると、楽曲の完成度やプレイテクニック、「音」の進化など、かなり評価できる作品。

ジャケット表の影は3つ(神保は非メンバー扱い)
ジャケット表の影は3つ(神保は非メンバー扱い)

 

裏はかなり細かいレコーディング風景
裏はかなり細かいレコーディング風景

 

時代とのマッチングで、あまり取り上げられることはなかったけれど、実は隠れた名盤だと感じます。

 

【収録曲】

1. Golden Waves
2. Forbidden Fruits
3. Chain Reaction
4. Missing Days
5. Speeded Age
6. The Tease
7. Don't Leave Me Alone
8. Movin'
9. The Smile Of Tender
10. Riddle
11. A Dressy Morning

 

「Speeded Age」

 

更新: 2023/06/19
必聴度

このアルバム発の超名曲というのはないが...

曲の平均レベルが著しく高く、CASIOPEAに期待されるエッセンスが全て入っている。

  • 購入金額

    3,204円

  • 購入日

    1997年頃

  • 購入場所

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