既に40年近い私のアナログオーディオ歴ですが、その中で初めて自分で購入したカートリッジはOrtofon 310Uという製品でした。
310UはTechnics(当時の松下電器産業)を中心に策定されたフォノカートリッジのワンタッチ取り付け企画であったT4Pに準拠する製品で、当時のOrtofon製カートリッジのローエンドとなる300シリーズに属する製品でした。
購入時にT4Pを通常のユニバーサル形状のヘッドシェルに装着するためのアダプターも添付されていたため、これを当時使っていたTRIO製プレイヤー(型番不明)と組み合わせて、通常のMMカートリッジとして使っていたわけです。
310Uを含むOrtofon 300シリーズはボディーは全モデル共通で、接合丸針の305U(3,700円)、接合楕円針の310U(4,900円)、無垢ファインライン針の320U(6,200円)というラインナップで構成されていました。今選ぶのであれば、針先形状に関係なく無垢針という時点で320U一択だったでしょう。しかし当時小学生でオーディオの知識も雑誌等に頼っていた私には無垢針と接合針の違いもよくわかっていなかったのです。単純に出せる予算の限界で310Uを選んだのでした。
当時はTRIO T-25という、前述のプレイヤーに装着されていたカートリッジなどを使っていましたが、それと比べると310Uは新しい製品なのにどこかレトロ感の漂う音で、国産とはやはり違うんだなと納得させられるものはありました。とはいえ接合針らしく今考えれば音が濁っていましたし、特に高域方向の質は率直に言って低かったと思います。300シリーズは針先だけでアップグレードできることは理解していましたので、いつか320Uにアップグレードしようというつもりでいたのですが、結局その後色々なカートリッジを入手するにつれ、310Uのことはすっかり忘れていたわけです。
そして310Uは長らくカートリッジ墓場として使っていた箱に放り込んでいたのですが、気付いたら行方不明となってしまっていました。それを久々に部屋で発見したのが4年ほど前でした。
幸いなことにその時点で320U用の交換針Stylus 320は流通在庫が残されていましたので、子供の頃に考えていたアップグレードを実行する気になりました。そもそも発見した時点で310Uの針はカンチレバーが折れていて、針を新たに用意しないとどのみち使えなかったわけです。
その時点で手配して購入したのが、今回取り上げるStylus 320ということになります。しかし手元に届いて310Uに装着してみると、なんと音が出ません。何度か着脱を繰り返している内にごく僅かに音が出るようにはなったのですが、並のMCカートリッジより低出力ではさすがに使えません。この時点で310Uの復活計画は頓挫しました。
しかし今年8月になってとあるオーディオ店の中古品として、シリーズ最下位の305Uの中古が出てきました。標準添付のT4P用マウントアダプターが欠品だったりと難点がある割にはやや高かったのですが、これを入手すれば死蔵していたStylus 320を活用できると考え、305Uを早速購入。死蔵していたStylus 320と、310Uに装着されていたマウントアダプターを組み合わせて320Uとして組み立てましたので、ここで紹介することにします。
下位とは全くの別物。今でも十分通用する音
まずは305Uの状態を紹介しておきましょう。上の310Uと比べていただければ、アダプターがないため随分スッキリとした外観であることがおわかりいただけるでしょう。
これに310Uが背負っているマウントアダプターを移植します。
そして針先をStylus 320と交換した上で、audio-technica AT-LT13aに装着しました。
実はこの時、並行して以前掲載したKS-Remasta製スタンダードグレードのシェルリード線の試聴もしていたため、必然的にNAGAOKA JT-80LBとOrtofon 320Uを聴き比べる形になったのですが、320UはJT-80LBと比較しても全く引けを取っていませんでした。JT-80LBがやや粗めの音で低域のパワー感などは勝っていますが、320Uは濁りが目立ったかつての310Uとは全く違い、メリハリが利いたクッキリ系のサウンドを聴かせてくれました。
JT-80LBでも聴いていたこのレコードを中心に再生したのですが、ヴォーカルの自然さや音場の見通しは320Uの方が好感触だったほどです。さすがに低域の重量感やレンジの広さはJT-80LBが上回りますが、高域は320Uの方がクリアです。当時310Uと僅か1,300円の差でここまで音が違うとは全く予想出来ませんでした。
しかし、ものは考えようで、仮に私が小学生時点で320Uを買っていたら、果たして今に至るまでのオーディオ遍歴を歩んでいたでしょうか。310Uだけで満足できなかったからこそ、その後中学生になってからGLANZ G-40EXやADC QLM35、Ortofon VMS30MKII等を次々に入手して、さらにMCに興味が湧いてaudio-technica AT-F3IIを買うことになったわけです。最初からある程度満足していたら、恐らく色々使って試してみるという私の原点は失われていたように思えるのです。
その方が幸せだったのかどうかは何ともいえませんが、最初に選んだ310Uの不完全さが、ある意味私にとってのアナログオーディオの一歩目だったことは間違いありません。
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購入金額
5,430円
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購入日
2021年03月23日
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購入場所
ヨドバシ・ドットコム





フェレンギさん
11/13
jive9821さん
11/14
単なる自分語りのような文章ですが、お褒めいただき恐縮です。
310Uから30年以上経過して320Uを使って、その違いに驚かされると同時に色々考えてしまったので、それをそのまま文章にしてみました。