所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。楽器をやっていると、曲そのものやメロディ以外にも、歌詞の一部や短いフレーズ、リズムパターンなど曲の一部がとても印象に残ることがあります。ある動画で、アウトロのソロを聴き、歌まで遡りたくなって入手した盤をご紹介します。
松原みき。ポップシンガーだが、家庭環境からくるジャズ系の素養や、学生時代活動したロックなど、しっかりと幅広いバックボーンがあり、単なる「美人歌手」ではなかった。30代に入ると作曲家としての活動に軸足を移して、アニメソングなどを手がけたが、44歳の若さで癌により死去。
彼女が、シンガーとして一戦で活動したのは1980年代であり、すでに30~40年前なのだが、あるきっかけで想い出し、どうしても聴きたくなって入手したのが本作、“POCKET PARK”。
本作は1980年リリースの彼女のデビューアルバム。この中に彼女のデビューシングルで最大のヒットでもある「真夜中のドア / Stay With Me」が含まれており、その曲でのアウトロのギターソロが聴きたくて...。
ギターをプレイしたのは、名手 故 松原正樹(たまたま同じ松原姓だが、このふたり特に関係があるわけではない)。そのギターソロ(のカバー)を最近耳にする機会があったのだ。
学生時代に組んでいたバンドのギタリストの縁で、SNSでつながりを持ってもらっている、日本有数のギターインストラクター宮脇俊郎氏の動画(↓)。これでこの曲のアウトロのソロを聴いて、イイフレーズだなと思い、ネットで元曲の方を聴きなおしてみると、実際のプレイは最後の みき がフェイクしつつ歌っているのに被せる形で、さらにライン取りの妙が素晴らしいなと。
そんなわけで入手したものだが、一般的には3種あると言われている「真夜中のドア / Stay With Me」のうち、2種が収められている(他にイントロに みき の声が混じり、少々長さが違う「シングルヴァージョン」がある)。それは、本来のオリジナルアルバムリリース時には1曲目だけだった「真夜中のドア / Stay With Me」だが、2009年の再発&HQCD化にあたって、レアトラック版の「真夜中のドア / Stay With Me Original club mix Mixed by D.O.I.」が追加収録されたから。
その「真夜中のドア / Stay With Me」と、「真夜中のドア / Stay With Me Original club mix Mixed by D.O.I.」は元曲は同じだが、後者は名前の通りリミックス版。プロダクション・チームIndopepsychicsに所属していたリミックスエンジニアのD.O.I.によって、ミックスが変えられている。ただリミックスと言っても、一部の楽曲であるような原形とどめぬ「リコンストラクション」と言った方がよいのでは?という感じの、フレーズの切った貼ったやピッチやテンポ変えまくり、楽器やコーラス追加収録アリアリ...というような大げさなモノではなく、正しく「リ」ミックスという範囲のもので、変更幅は少ない。1曲目に比べると全体としてスネアの音色(残響)がゲートをスパッと切ったモノになって、リズムバランスがドラムス>ベースとなり、コードバッキングはミュートギターのポコポコ音よりもクラビ風のキーボードが目立つようになっている。構成変更としては、2ndコーラス頭や、サックスソロのあとのラスサビ頭にリズムを絞って、ブレイク風にしてあるくらいで、いたずらにループリズムなどで水増しなどしていないのが好感が持てる。ただ上記ギターソロを聴きたいなら、ギターの音量が大きい1曲目の方がよい。宮脇俊郎氏のカバーソロもさすがだったが、なんと言っても松原正樹のオリジナルは40年残る名演、素晴らしい。楽曲のソロは、一般的にはフェードアウトされることが多いエンディングソロよりも、ラスサビ前の間奏のソロの方が印象的なものだが、アウトロのソロでここまで強い印象を残すプレイも珍しい(間奏の故 Jake H.Concepcionによるサックスソロも、それに劣らず良いが)。あと後半は複数弦弾きなどでかなり遊んでいる、後藤次利のベースも実はスゴイプレイの連発。それらに負けない存在感の みき の声が、「これでデビュー曲???」という強さ。これだけアクと個性が強いプレイヤーをバックにつけて、よくまとめているな。
「Cryin'」は、ヤマタツの「Sparkle」ばり...というか、そのあとのブラスのラインからするとChicの「Le Freak(おしゃれフリーク)」のようなイメージのある、キレのあるギターカッテイングで始まるノリの良い曲。ちょっとデッドなドラムスと、抜けきらないスラップベースが「あの頃の」ディスコティックな曲。このアルバム通してペット界の巨匠数原晋をはじめとした生のブラス隊が加わっているのだが、この曲では金管の存在感が強い。この曲で聴かせる みき の蓮っ葉な歌い方が、曲調に合っているかも。
「His Woman」は、作曲者の個性が強く出ている曲。創ったのはSHŌGUN
の芳野藤丸。このアルバムには5人の作曲者がいて、そのうち4人にはそれぞれ日本を代表するスタジオミューシャンバンドであるSHŌGUN、PARACHUTE、美乃家セントラル・ステイションがついていたが、さすがにバンド在籍者が作曲者だけあって参加メンバーも多く、結構SHŌGUN臭?がある(SHŌGUNからはCasey Rankin以外全員参加)。ちなみに2~4曲目は、作曲者佐藤健が所属した美乃家セントラル・ステイションが演奏。林哲司と梅垣達志が作曲した1、7~10、12曲目はPARACHUTEを核にしたメンバーが担当で、ドラムス林立夫が通しで参加、ギターは松原か今剛が曲によって弾き分け、斉藤ノブが1曲のみ参加。この曲での みき の声は、結構深めで色っぽいのから、力を抜いて囁き風に歌うのまで幅広くて、いろいろな声が聴くことができる。
元々ある曲のギターソロに注目(注耳?)して手に入れた作品だけれど、全体のできも良い。
当時のポップスのレベルの高さに改めて気づかされたと同時に、すでに亡い みき の声の時を超えた力に感動した作品との出逢いでした。
【収録曲】
1. 真夜中のドア / Stay With Me
2. It's So Creamy
3. Cryin'
4. That's All
5. His Woman
6. Manhattan Wind
7. 愛はエネルギー
8. そうして私が
9. Trouble Maker
10. Mind Game
11. 偽りのない日々
12. 真夜中のドア / Stay With Me Original club mix Mixed by D.O.I. (Bonus Track)
「真夜中のドア / Stay With Me」
※Youtubeの分析では「真夜中のドア/Stay With Me <Original club mix>」となっているが、これがアルバムヴァージョン
みきの声の持つパワーと、その声を支えるプロのプレイヤーの歌心
どちらも素晴らしい。
でも、この現在でも通用するアルバムへ参加した人々のうち、すでに何人もの方が鬼籍に入っていることに愕然とする。
・松原みき(2004年没)
・大谷和夫(2008年没)
・松原正樹(2016年没)
・Jake H.Concepcion(2017年没)
....40年前の作品だからな~
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購入金額
2,119円
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購入日
2020年09月12日
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購入場所
Amazon
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