Cardas Audioは、高級オーディオケーブルの世界で名が知られたブランドですが、2013年に本機EM5813 Model1を投入して、イヤフォンに参入してきました。
ケーブルメーカーでありながら、着脱不可のケーブルを採用して、ダイナミックドライバー1基ながら$400クラスというかなり思い切った仕様の製品です。
個人的にはさほど興味があったわけでは無いのですが、以前米国の共同購入サイト「drop.com」で、$99という価格での販売が行われたため、取り敢えず入手してみようと思い購入しました。
同時期にNoble Audio製のイヤフォン「Massdrop X Noble X」が$125で同じく購入者募集されていて、そちらの方が確実な選択であることは判っていたのですが、同系列のSavant UniversalやSageを既に所有していることから、これ以上近い傾向のものが増えても使う機会は無いだろうと思ったということもこちらを選んだ理由でしたが…。
耳へのフィットが素晴らしいということをアピールしたかったのだとは思いますが、パッケージのデザインは正直あまりよくないと思います…。
ケーブルメーカーのCardasではありますが、裏面の技術解説はシェル形状に関するものですね。ケーブルについての説明ではありません。
製品についての説明は、Cardas Audioの日本国内代理店である太陽インターナショナルに詳しく掲載されています。詳細はそちらをご覧いただく方が良いでしょう。
箱を開ける前に、Cardas Audioの製品カタログと説明書の冊子が出てきました。他の取り扱い製品から見て、このイヤフォンの存在がいかに異質かがご理解いただけるでしょうか。
箱を開けると、イヤフォンのシェルやコネクター、キャリングケースが現れます。キャリングケースにはCardas Audioのロゴが印刷されています。
箱の中身は、イヤフォン本体の他に交換用イヤーピース、Comply T-400、クリーニングツールが入っていました。イヤーピースのバリエーションはかなり絞られていて、適切なフィットにこだわったという割には大きさが合わせられない可能性を感じさせます。実際に、後の試聴時には私の耳には純正イヤーピースは合いませんでした。
シェルは銅の色となっていますが、実際には真鍮製だそうです。真鍮無垢材からの削り出しということですから、金がかかっているのは間違いないでしょう。
ケーブルについては「Clear Light Headphone Cable」と名付けられたもので、同社のオーディオケーブルに関するノウハウが詰まったものだそうで、コネクターからイヤフォン内部のドライバーまで、半田付けや継ぎ目による接点が全くないという特徴があるとのことです。
クラシックだけで音決めをしたような傾向
取り敢えず計50時間程度使った上で試聴を開始しました。その際には、主にAcoustic Research AR-M200を使っています。
他所でこの製品のレビューを見ると、150~200時間程度の鳴らし込みが必要とありましたが、50時間程度である程度の可能性が見えていなければそれほどの伸び代も期待できないだろうという判断です。
実際の試聴には以下の写真の通り、Acoustic Research AR-M2を使いました。
まず一ついえることとしては、添付品では最も小さかったこのダブルフランジタイプのイヤーピースでも上手く耳に収まらないということです。仕方なく、試聴時にはSENNHEISER IE80に添付されていた、より小さなダブルフランジタイプのイヤーピースを組み合わせています。
基本的な傾向として、エネルギーバランスははっきりと低域寄りです。低域をピークに、高域方向に向かって緩やかに右肩下がりという印象を受けます。
まずは「Alone / TOTO」(「40 Trips Aroud The Sun」収録)を聴いてみます。高域方向は量も然る事ながら、質感の低さが気になります。ハイハットの金属感はほぼありません。一方、量が充実している低域方向ですが、力感無く締まりの無い音が多く出ているタイプであり、これは私の好みとしては最も嫌いなタイプの低音です。スネアドラムも頭の音がやや丸く、キレが悪く感じることもマイナス要素でしょう。少なくともロック系の音では美点を見出すことは出来ません。
続いてジャズ系の音である「Air on the G String / Jacques Loussier」(「The Newest Play Bach Vol.1」収録)を聴いてみます。
すると、ピアノそのものの音にはさほど感心しないものの、響きなどの間接音はさほど悪くないことに気付かされます。こちらもハイハットの質感が低くどうしても安っぽいダイナミックドライバーの音そのものという感はありますが…。ベースはそこそこ出ているのですが、ウッドベースの質感がきちんと再現されているかといわれれば、それは否定せざるを得ません。
今度は「Dangerous / David Garrett」(「Explosive」収録)を聴いてみましょう。
すると、ストリングスの音色が重なっている部分はそこそこ鳴っているように感じされます。ただ、一つ一つの音に注意を向けてみると、そこまで質の高い音では無いことは理解できてしまいます。ただ、この曲のようにクラシック系の編成で演奏されている曲を聴いている限りでは、他のジャンルの楽曲よりは粗は目立たないようです。
つまり、クラシックの、しかも小編成の室内楽でも聴いている限りでは、そこそこ気持ち良く聴くことは出来るのでしょう。しかし、特に高域方向の質感の低さと、量だけで力の無い低域という根本的な傾向から、それ以外の音楽を聴くのはかなり厳しいものです。本来5万円台の製品ではありますが、恐らく殆どのユーザーにその価値を感じることは出来ないでしょう。
そしてさらにいただけないのは、初期状態から早くも3.5mmプラグ付近で接触不良気味の部分があるということです。音質からも信頼性からも、この会社の製品を買って本当に大丈夫なのかという不安がまず生まれてしまう出来です。
ひょっとすると、更に鳴らし込むことで高域方向の質が劇的に改善したり、低域方向にきちんと芯が出てきたりという変化があるのかも知れません。しかし、そこに至るまでこの製品の音を聴き続けるというのは、正直言って苦痛に思えてきます。
私が普段メインのイヤフォンとして使っている64AUDIO U4も結構はっきりとしたローブースト傾向の製品ですが、この製品の低域は力があり質も良いので、ローブーストでも不快感はそれほどありませんでした。しかし、EM5813 Model1の低域にそのような魅力はありません。drop.comの$99という価格でも、どちらかというと割高に感じられました。
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購入金額
11,874円
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購入日
2019年12月19日
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購入場所
drop.com
北のラブリエさん
2020/01/04
ちょっとだけ興味w
jive9821さん
2020/01/04
私もちょっとだけの興味で買ったのですが…。
世間では意外と高評価を得ているものの、個人的にはどうしてもそこまでのものとは思えません。ソースや組み合わせるプレイヤーで変わるのかも知れませんが。