この作品は、今までCDを除けば日本製の4ch盤LP、米国製のハーフスピードカッティングLPを持っていて、後者はそこそこの音は出ていると評価していました。
そこでハーフスピードカッティング盤の方を、以前Technics SL-1500Cの試聴イベントに持ち込んで聴いてみました。イベント開始前のフリータイムで聴くことにして、再生したのは「The Only Living Boy In New York」(邦題:ニューヨークの少年)でしたが、雰囲気はなかなか良好だったと思います。
すると、イベント本番の最後の方でTechnicsの方が取り出したのは、このアルバムの45回転2枚組仕様のものでした。それはMobile Fidelity製の「Ultradisc One-Step」盤だというのです。
この「Ultradisc One-Step」というのは、まず録音当時の原版となるテープから直接レコードをプレスする大本となるラッカー盤を直接作成して、そのラッカー盤から実際にプレスする際に使われるスタンパーを1回だけ作成し、そのスタンパーが精度を保って使えるギリギリの数字である7,500枚だけをプレスするという贅沢な製造法を採られたレコード盤です。つまり、簡単に言うとマスターテープに極めて近い音が出るということです。
当然この仕様のものは全世界で7,500セットの限定販売となったのですが、日本には割り当てが殆ど無く、流通量は極めて僅かとなってしまっていました。そこで日本のソニーレコードが再プレスを要求して、同じ手法で新たに追加生産されたのが、今回取り上げる「国内仕様輸入盤」となります。
国内仕様輸入盤と銘打つだけあり、Mobile Fidelity製のボックスケースの外側に帯や対訳などをパッケージして同梱しています。
Mobile Fidelity盤の中でも特に高価な盤であるだけに、厚手の紙製ボックスケースに収められています。
通し番号は割合後の方となっています。最大7,500セットというのは初回の生産分と同様ですね。
元々40分にも満たない収録時間の作品を45回転2枚組と仕立て直しているだけあり、溝の幅はかなり広く取られていることが判ります。
ボックスケースの中には、Ultradisc One-Stepの特徴を説明した紙も入っていました。これ以外に、通常のLPで用意されていた同梱物はきちんとこちらにも用意されています。
音質は確実に良いが、「普通の音」に近づく
Technics SL-1500Cの試聴では、再生されたのは「The Boxer」でした。
この曲の中でも特徴的な派手なドラムの音は、響きを出すために深夜無人となったビルのエレベーターホールで収録されたという裏話が紹介され、そのドラムの迫力に注目して聴いて欲しいということでした。
確かに私が持参した米国Master Sound盤と比べてもドラムの音が鮮烈です。ただ、私がそれ以上に感心したのはヴォーカルの質感が明らかに良いということでした。今まで聴いたこの曲ではあまり感じる事が無かった、声の生っぽさが確かにあったのです。実際に聴かなければ、わざわざこんなに高価な「明日に架ける橋」を買うことは無かったでしょうが、聴いてしまうとつい欲しくなってしまいます。
もっとも、この試聴会で聞いた話では既に入手は困難ということだったのですが、調べてみると意外なことに一部通販サイト等ではごく普通に在庫が残っていることが判ったのです。しかもポイントが結構貯まっていた楽天市場内では、楽天ブックスで値引き販売までされています。そうなるとついつい注文してしまうわけで…。
家で改めてじっくりと聴いてみると、やはりオーディオ的な視点で判断すれば今までのLPを大きく超えるクオリティを持っているということは分かります。
ただ、録音されてから50年経過しようとしているマスターテープであるだけに、やはり相応に傷みがあることも判ってしまいます。他のLP等と比較して、音飛びなどが明らかに増えているのです。この辺り磁気テープを使っている以上宿命ともいえるものでやむを得ないのですが、レコードの復権がもう少し早ければもう少し良いコンディションで製作できたのでは無いかと残念に思えます。
タイトル曲となっている名曲「Bridge Over Troubled Water」は録音の時点でお世辞にも高音質とはいえない楽曲ですが、それでもそれなりに聴かせてしまうだけの良さがあります。
ただ、今までのレコードで時代なりの味が強く出ていた「The Only Living Boy In New York」を聴くと、オーディオ的には従来より数段上といえるレベルではあるものの、何となくありがちな音に聞こえてしまう部分はありました。音がきちんと整ったことで、逆に個性が薄まったということかも知れません。とはいえ、「El Condor Pasa」のヴォーカルの質感はMobile Fidelity盤の圧勝であり、総合的には明らかに良くなっていると評して良いでしょう。
あまりに金額が高く広くお薦めできる盤ではありませんが、このアルバムを少しでも良い音で聴きたいという欲求は満たしてくれますので、強く思い入れのある方であれば入手をお薦めしたいと思います。
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購入金額
15,089円
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購入日
2019年11月14日
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購入場所
楽天ブックス
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