レビューメディア「ジグソー」

かつてない違和感

我が家で初めて購入したLPレコードが、彼らの17作目「シカゴ17」(1984年)であり、それ以来聴き続けている、アメリカの超ベテランロックバンド、シカゴ。

 

彼らは1967年に結成され、1969年に「シカゴ・トランジット・オーソリティ」のバンド名でレコードデビューして50周年を迎えているというキャリアを持ち、結成から現在に至るまで長期間の活動休止などを一度も挟まないまま現役を続けているという希有なバンドでもあります。

 

かつてはメンバーの入れ替わりが少ないことが特徴であった彼らですが、1990年代以降は急激に入れ替わりが激しくなり始めます。

 

1980年代までは結成メンバーのギタリスト、テリー・キャスが事故死して後任のギタリスト、ドニー・デイカスが加入も短期間で解雇され、キーボード及びギターをこなすビル・チャンプリンが加入、パーカッショニストのラウジール・デ・オリヴェイラが追加加入、ベーシスト兼リード・ヴォーカルのピーター・セテラに代わりジェイソン・シェフが加入と、20年以上の活動歴の割には動きは少ない方でした。

 

しかし、その後はメンバーの人間関係の複雑さを表すかのように入れ替わりが激しくなり、80年代の華々しい活動を支えたビル・チャンプリン、ジェイソン・シェフの2人も既にバンドを去っています。近年バンドを去ったジェイソン・シェフと、2代目ドラマーのトリス・インボーデンはいずれも本人都合による脱退ということでまだ良いのですが、それ以外の元メンバーとの関係は現在もかなり悪いようで、彼らが2016年にロックの殿堂入りを果たした際にも、顔を見せない元メンバーがいたりもしました。

 

さて、前置きが長くなりましたが、多くのメンバーの入れ替わりの末にようやく完成した彼らの最新作は、キャリア4枚目となるクリスマス・アルバムとなりました。どうやらアメリカではクリスマス・アルバムは手堅く売れて支持される分野ということで、多くのアーティストが手掛ける分野であるらしいのですが、日本人の感覚でいえばクリスマス・アルバムばかりそんなに出されてもという気がしてしまいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は結構シンプルな外装となりました。紙製のケースなどの付属品があるわけでは無く、デジパック仕様でもありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一応収録曲を紹介しておきますが、今回は一部楽曲を除き彼らのオリジナル作品で構成されている辺りが、これまでのクリスマス・アルバムとは異なる点です。今まではスタンダード作のカバー曲中心でごくわずかにオリジナル曲という構成でした。

 

 

 

01. (Because) It's Christmastime
02. All Over The World
03. Bring My Baby Back
04. Merry Christmas, I Love You – R & B Version
05. What The World Needs Now Is Love
06. All Is Right
07. Sleigh Ride 2019
08. I'd Do It All Again (Christmas Moon)
09. I'm Your Santa Claus
10. Here We Come A Caroling
11. Merry Christmas (I Love You) – Ballad Version

 

 

 

Sleigh Ride は以前の「Chicago Christmas : What's It Gonna Be Santa?」でも取り上げられていましたが、それとは全く異なるアレンジで収録されている新録バージョンです。

更新: 2019/11/12
総評

急速に「らしさ」を失いつつある

本作はベースとヴォーカルを担当していたジェイソン・シェフの脱退後、彼の後任として加入していたジェフ・コフィがスタジオ・アルバムの制作に参加すること無く脱退してしまい、やむを得なかったのか後任として専任ヴォーカリストであるニール・ドネルと、専任ベーシストのブレッド・サイモンズの2人を迎えて制作されました。

 

なお、ドラマーについては、これまではパーカッショニストとしてメンバー入りしていた、ウォルフレッド・レイエスJr.が配置転換で就任しています。

 

また、これまでの作品では実質的にセルフ・プロデュースであっても外部からプロデューサーを招いて制作していたのですが、今回は結成メンバーであり、トランペットを担当するリー・ロックネインがプロデューサーとしてクレジットされています。

 

 

その新作の出来映えについてですが、これはYouTubeで各曲とも公式に公開されていますので、それをご覧いただいた方が良いのではないかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

スタジオ・アルバムとしては前作に当たる「Chicago XXXVI "NOW"」と同様に、「The Rig」と呼ばれるモバイル・レコーディング環境を使って収録されている筈なのですが、前作と比べると随分音に迫力がありません。クリスマス向けという点を考慮して敢えてソフトな音に仕上げたのかも知れませんが、今までの作品の中で最も彼ららしさを感じない音です。彼ら初のクリスマス・アルバムである「Chicago XXV」の時には、リリースされたことを知らない状態で、有線放送から流れてきたホーン部隊の音だけで「シカゴの新作だ」と直ぐに判ったほどだったのですが、本作の収録曲が同じシチュエーションで流れてきても、結成メンバーにして実質的なリーダーであるロバート・ラムの声が聞こえなければ多分判らないと思います。

 

そして、前作を中心となって作り上げたジェイソン・シェフの脱退は、かなりの痛手になっているのも間違いないでしょう。ニール・ドネルもヴォーカルの音域はジェイソン・シェフやかつてのピーター・セテラに近いのですが、彼の声には前任者のような個性や強い存在感がどうしても欠けているのです。加入直後だけに、楽曲制作の面でもそれほど多く関われていないようですし…。

 

 

シカゴの新作ということで、取り敢えず先行で公開されていた音源も敢えて聴くことなく購入してみたのですが、何というか妙に「可も不可も無く」辺りの中庸さだけが感じられる音になってしまったな、という印象を受けました。

 

プロデューサー役を買って出たリー・ロックネインは、彼の作品「Merry Christmas, I Love You」で存在感を見せましたが、それ以外のメンバーの印象はどうも希薄です。前作が予想外に良い出来であっただけに期待していたのですが、この作品はその期待値には届いていないと感じてしまいます。ごく普通に見ればさほど悪い出来ではないのでしょうけれど、シカゴの最新作としての満足感は十分とはいえません。

  • 購入金額

    1,656円

  • 購入日

    2019年10月25日

  • 購入場所

    楽天ブックス

13人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • cybercatさん

    2019/11/02

    確かにフュージョン風味のブラスロックとして聴けば「悪くはない」けれど、ブラスにキレはないし、歴代高音担当ヴォーカリストにあった味も薄いので、Chicagoっぽさはほぼないですね。

    ラストの「Merry Christmas (I Love You) – Ballad Version」なんかも、ロマンチックなバラードで良いですけれど、別にChicagoでなくても...と思いますし。
  • jive9821さん

    2019/11/02

    > cybercat さん

    そう、あくまで「悪くはない」なんです。ただ、これがシカゴの作品だと強く主張するものがないのです。

    盲目的なファンであれば新作が出ただけで素直に喜べるのかも知れませんが、私はシカゴにはシカゴの音を奏でて欲しいと思うので、今回は素直に納得できるものではありませんでした。

    次に新曲で構成される作品が出るのかは分かりませんが、シカゴらしい音が帰ってくるのかどうかでしょうね…。

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