レビューメディア「ジグソー」

下が充実していて音が「近い」イヤホン。イヤピの付け方で音の微調整もできるので、「これ一本」という時には、持ち出し頻度はかなり高い。

ここまでイロイロなイヤホンを手に入れてきたが、音よりも先に装着感の良さに惹かれたものがある。それがradius(ラディウス)のイヤホン、「HP-BKS21」。

 

このイヤホン、cybercat的イヤピ三傑に入る「Deep Mount Earpiece」

が標準添付のイヤホン。

 

このイヤーピース、イヤホン側よりも耳に近い側の方が膨らんだ「ロシア帽」のような形をしている。さらに比較的高さが高い(奥まで入る)。これにより、細め下向き屈曲耳道であるcybercatの耳の穴の奥の方に良く吸い付き、安定性と密閉性の向上を果たす。ステムが細め・長めで高域の指向性が厳しいイヤホンには、首振り機構で指向性がコントロールできる「Spinfit」がファーストチョイスだが、ステムが太め・短めで収まりが悪いイヤホンには、この「Deep Mount Earpiece」を最初に試している。

 

そんなイヤーピースをリリースしているradiusのイヤホン、当時大きく分けてダイナミック型+ピエゾ型のドライバーを持つ高級ラインの「ドブルベ(HP-TWFシリーズ) 」と普及価格帯の「HP-NHRシリーズ」があった。

 

HP-NHRシリーズは、「High-MFD System」と呼ばれるダイナミックドライバーのボイスコイルから漏れる磁束を封じ込めて、磁束密度を高めて感度と音質を向上させた機構を取り入れたシリーズで、豊かな重低音とはっきりした輪郭の出音を目指したという。下からHP-NHR11、HP-NHR21、HP-NHR31と3種類があるが、すべてドライバーとしては再生周波数5Hz〜40000Hz、φ13.0mmのダイナミック型を採用するハイレゾ対応機。HP-NHR11HP-NHR21はともにケーブル直付けモデルで、後者の方が低域の音圧を上げ、高精度のチューニングを施したモデル(スペック的にもインピーダンスや音圧も異なる)。後に追加されたHP-NHR31が、MMCX化によりリケーブル対応とし、再チューニングを行ったモデル(インピーダンスなどのスペックはHP-NHR21と同じ)。

 

ただ今回入手したのは、HP-BKS21と呼ばれるモデル。

独特の碧いパッケージ
ビックカメラグループオリジナルモデルは独特の碧いパッケージ

 

これは中核モデルHP-NHR21のビックカメラグループオリジナル専売モデルで、特徴としては

・特別なカラー「メタリックブルー」(通常モデルはブラックレッドの2色展開)

COMPLY(コンプライ)TS-500のイヤーピース(S/M)を同梱

というもの。

 

COMPLYは高域が陰る傾向にあるのと、どうしても材質的に汗や雨を吸いやすいので、あまり使わないのだが、ときどき「これでなくては」というイヤホンがある。しかし耐久性に劣るわりには結構高いイヤーピースで、TS-500は3ペアで2500円ほどする。それが異サイズとはいえ2ペア付属するので、これだけで1600円以上の価値がある。専売モデルは色も好みなので、こちらを購入。

本体とイヤピ、説明書だけのシンプルな中身
本体とイヤピ、説明書だけのシンプルな中身

 

TS
COMPLYのTS-500はアジアンフィットという丸いタイプ

 

付属品は、取扱説明書/保証書のほかは豊富なイヤーピースのみで、1万円オーバークラスのイヤホンとしては珍しく、ポーチやケース、フックなどの「音を聴くために直接必要ないもの」は一切つかない。これを割高とみるか、コストを音関係に集中していて潔いとみるか。ケーブルは直付けだがナイロンが巻かれた頑丈そうなつくり。ただし、その布巻きのせいか、そこそこケーブルが硬めで、タッチノイズは大きい(イヤーピースの密着性が高いこともあって、「大き目」というよりはっきり「大きい」)。そのケーブルだがプラグ側が面白い形状。L字ではなく「L+への字型」というか。一度直角に曲がった後、そのままケーブルが延長されるのではなく、DAP側から離れる方向にもう一度屈折する。このどっちつかずの形状はL字プラグファンの人にはどうだろうか。

L+へ?
L+へ?

 

ユニットハウジングは、内側がプラスチッキーな質感だが、左右で色分けされた左右表示マークがついており、使いやすい。φ13.0mmのドライバーが収まるだけあって、比較的径が大きいハウジングにかなりナナメにステムがつく。ここにイヤーピースをつけるわけだが、ここで面白い機構がある。イヤーピースの装着位置を2段階で調節できる機構があるのだ。

2段階の固定位置がある
2段階の固定位置がある

 

奥と手前の2段階のイヤピ固定位置
奥と手前の2段階のイヤピ固定位置

 

これはステムに2か所ロックできる位置があり、自分にとって合う方を選択できる。また耳への収まりのほかに(この収まりも影響しているのかもしれないが)音色傾向も変化する。奥まで押し込んだ方がしっかりフィットして遮音性も高まることから、低音域が増加する。またハウジング形状的には左右非対称であり、SHURE掛けは考慮されていない(リケーブル可なら、ケーブルを逆につけて対応などもできるだろうが、そうではないので)。

 

あとエア抜き用のポートが2つ空いているので、音漏れは皆無ではない。自分に対してはDeep Mount Earpieceの密閉性で、外界の音はあまり聞こえないので気づきづらいが。

ダイナミック型なので、ベント穴あり
ダイナミック型なので、ベント穴あり

 

そんなイヤホン、今回も数日間ミックミックなDAP

で曲をランダムに流したあと評価した。

 

いつも通り、ONKYO DP-X1A

に直挿しで、いつもの曲を聴いたが、このイヤホン、イヤーピースを奥まで押し込んだ「奥ポジション」と、1段目のクリックで留めたもの(手前ポジション)で、音域バランスと音場の広さが結構変わるので、2種類の付け方で評価した。

 

イヤーピース自体は、ビックカメラの専売モデルにしかつかないCOMPLY TS-500ではなく、ベースモデルと共通の添付品=Deep Mount EarpieceのMを使用した(したがってこのレビュー、HP-NHR21にも内容適用できるはず)。これは、COMPLYに関してはポリウレタン素材の特性上、高域が陰る傾向にあるのだが、このイヤホンは後述するように明確に「低音寄り」のキャラクター。これ以上、上が陰っても仕方ないと今回は使用しなかったのだ。ただ、今回添付されていたのはTS-500という「日本人特有の湾曲した外耳道でもチップの先端が広いので閉じません」という「アジアンフィット」タイプなので、高音多めで音漏れが多いイヤホンには使ってみてもよいかな。

絵はT-type(スタンダード)だが実際付属しているのはTs-type
絵はT-type(スタンダード)だが実際付属しているのはTs-type

 

イヤホンの力量を測るときの、自分的定番の高品位ハイレゾ録音(24bit/96kHz/FLAC)、吉田賢一ピアノトリオの「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」は“STARDUST”

から。奥ポジションでは、Deep Mount Earpieceの密着性も相まって、なんにせよベースが深い。イヤホンなのに空気の震えを感じるよう。やや高音を使うベースソロの時も胴鳴りが聴こえて、存在感は大きい。下に引っ張られっぱなしかというと、ドラムスはフットクローズハイハットのキレがよく、決して低域だけではない。スネアのリムショットは刺さらないが、ドラムスは全体的にかなり近い感じ。ピアノもアタックが痛いということはないが、メロディの部分が良く聴こえてバランス的にはかなり良好。ただし特に左右方向の広がりはなく、楽器はかなり密集している位置関係。ステージで演奏している音楽を聴いていると言うよりは、ステージ上で聴いている感じで全体的に全ての音が近い。手前ポジションでは、グッとシンバルがライドするようになり、リムショットも立ってくる。ピアノも右手が前に出てくる。ベースは十分深いところまで出ているものの、若干芯を喪い腰高になる。奥ポジションを聴いてなければ十分高バランスなのだが、奥ポジションの方が安定性は高いかな。

 

もう一つのハイレゾファイル、宇多田ヒカルのUSBメモリー供給音源“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”(PCM24bit/96kHz)

をwav⇒FLAC化したものから、1999年のトリプル・プラチナ曲「First Love」。奥ポジションは...どう聴くか(なにを曲に求めるか)で評価が分かれるかも。1stコーラスのピアノ+生ギターを中心としたバックに、震えるヒカルの声が乗っているAメロは、喉が、声帯が、震えているのが分かるような深い声で、感情豊か。ヴゥゥゥゥゥンとベースが分け入るサビは、グッとバランスが下に下がって、据わりが良くなり安定する。しかし、ベースが引いた短いブリッジを挟んで、最初からベースとドラムスのリズム隊が入る2ndコーラスになると、ややベースが過剰かも知れない。バスドラムより明らかにベース音が大きく、ベースがサウンドステージの中央下に居座る。ヒカルの声は深い声で中心にあるし、最後の盛り上がりではストリングスの響きや、ドラマチックにタム回しを演るドラムスのアタックも深く、全体としては悪くはないのだが、それだけに中央で主張が強いベース音が一般調子なのが気になってしまう。この曲、ベーシストのクレジットがないので、ベースは(音からしても)キーボード、おそらく打ち込みなのだが、音に「揺らぎ」がないのが、ここまで強調されると気になってくる。一方、電車乗りながら聴くようなシチュエーションでは全く気にならないので、静聴すると低音の主張が気になる、というか。手前ポジションではAメロのバックが薄いところのヒカルの声はやや大きめになり、部屋の広さも大きい。ベースの占有率は大分下がってやや「安定性」は減じるが、もともとしっかり過ぎるくらいに土台がある曲なので問題なし。2ndコーラスに入るとやはりベースの支配力が大きくはなるが、奥ポジションほど完全支配ではないのでバランスは圧倒的にこちらの方が良い。左右のステージがやや広がるので、ラストのタム回しもダイナミックだし。

 

一方、同じバラードでも女性声優あやちゃんこと洲崎綾の「」では印象が異なる。これは、彼女のファンブック“Campus”

付属CDに収められている、彼女自作の詞に、「ドラマチックマーケットライド」や「プリンシプル」という彼女の出世作、「たまこまーけっと/たまこラブストーリー」のテーマソングを書いた藤本巧一が曲を当てたもの。奥ポジションで聴いても、こちらは「First Love」とは一転してベースのあたりは良いバランス。バスドラのアタックがきちんとあり、それにベースがついて行っており、ベースが全てを圧倒しているわけではない。それでいて、芯はきちんとあり、深いベースに身を預け、ちょっと深めで近いあやちゃんの声に酔うという感じ。ただ広さはあまりなく、右耳直下でギターのアルペジオは鳴るし、ピアノもかなり近くて大きさはない。しかし、盛り上がったときのタム回しのバスタムの破壊力は、強い手前ポジションにすると、あやちゃんが「一歩前に」。ただ聴き取りやすさとしては、左右に広がるストリングスも主張が大きくなるので、サビの部分では少し引っ込み奥ポジションに譲る。

 

おなじあやちゃんが歌うけれど、全く曲調が異なる激しい打ち込みのデレマス曲、女子大生アイドル新田美波(CV洲崎綾)が歌う「ヴィーナスシンドローム

は、後に発売されたハイレゾ化(96.0kHz/24bit)ヴァージョン「ORT」ではなく、CD(44.1kHz/16bit)から起こしたFLACファイルの方。奥ポジションでは、バスドラが潰れていて、迫力はあるもののイマイチ...というかだいぶダメ。ベースが優勢になるAメロは悪くないけれど、間奏とサビは酷い。右のハイハットもかなり耳に近くて刺さり気味、左右に広くないのでシンバルも耳のそばで鳴って五月蠅いし。しかし面白いのが、バックはこんなに過剰気味なのに、ヴォーカルは比較的良く聴こえること。表情はやや薄く、色気は足りないが、五月蠅い中できちんとモニターできるのは面白い。手前ポジションでは、低域がかなり減じ、左右がやや広がるので、かなり印象は好転する。左右を駆け回るシーケンスパターンもステージが広がったことで広さが増したし。サビのバスドラ4つ打ちの所になると、やはりビート優勢になってしまう感は否めないが、少し単調目の音ではあるものの、耳障りの閾値ギリ超えてなくて、「ダンス曲」範疇。これはこちらでないと聴けないな。

 

下が充実しているのが吉と出るか凶と出るか、ゲストベーシスト(兼ラッパー)のJINOこと日野賢二を迎えた古参フュージョンバンドT-SQUAREの「RADIO STAR」は、セルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”

から。奥ポジションでは、ベースはさすがの量。沈み込みがスゴイ。板東の足技(バスドラ)の存在感や、叩きつけられるバスタムの存在感もあって、しっかりと下を支える。惜しむらくは若干ベースの音が一本調子なところと、上に抜けきっていないこと。でも左から聴こえるミュートリズムギターの音もパーカッシヴで、EWIも良く通る音なので、窒息感はないが。吉寄りの結果。手前ポジションだと、バランス的にはEWIのあたりがグッと前に出て、奥ポジションに比べればベースが下がるが、それでも十分な質量を持って存在感がある。面白いのはスラップでは、圧倒的にプルよりプッシュの方が存在感が強いこと(通常は高次倍音が多いプルの方が目立つ場合が多い)。手前ポジションでも十分に低音が出ていると言うことか。JINO聴きたければ奥、バンド演奏聴きたければ手前という感じか。

 

同じベース大きめでも、古典ロックのEaglesの「Hotel California

はどうだろう。奥ポジではベースはやや強めバランスではあるものの、思ったほどには過剰ではない。左右の近さがアルペジオの生ギターやシンバルと言った高次倍音が多い楽器を中心に引き寄せるので、ベースは中央で存在感はあるものの、あまり邪魔ではない。生ギターが前に出てそちらにフォーカスが移るからか。前ポジでは、様々な楽器が「近い」代わりに、ヴォーカルがやや弱いのが...ただいずれにしても、わりにバランスは良い。

 

勇壮なオーケストラ曲、「鉄底海峡の死闘」は、交響アクティブNEETsの艦これBGMオーケストラアレンジ、“艦隊フィルハーモニー交響楽団”

から。奥ポジションでは、横の広がりはややないが、全てが近いところで鳴り、低域の迫力があるこのイヤホンには、こういった激しい曲は合っている。ティンパニの打撃音や低音弦の圧はしっかりと下を支え、中域の管や弦は近さが厚さになっている。左右の広がりがないのが、スケールが小さいと言うよりは、距離の近さとして感じられ悪くはない。手前ポジションでは、上が伸びてきて空間は広がるが、低音の迫力は若干失われるので、どちらかと言えば奥ポジションの方が良いかな。

 

radius(ラディウス)から発売されているカナル型イヤホン=HP-NHR21のビックカメラグループオリジナルモデル、HP-BKS21。

 

「オリジナル」な部分は、特別カラーの採用と追加イヤーピースの添付というだけで、部材やチューニングにまでは手が入っていないが、十分魅力的な製品となっている。

 

特筆すべきこととしては

○しっかりとした量の低音域。標準イヤーピースの密着性とあいまって、イヤホンとは思えない量

○音の近さが迫力にもなっている中域

○良く聴くときちんと伸びてはいるが「刺さり」の方に行っていない高音

○イヤーピースの取り付け位置が2段階あり、音色の微チューニングができる

○複数の材質と多彩なサイズのイヤーピース付属

○直付けケーブルだが、ナイロン被覆で結構丈夫

一方、

●低音の量は十分だが、味にコクはない

●横の広さが足りず、各機器のポジションどりが厳しい

●曲によっては高音域はマスクされてしまう

●イヤーピースの2段階の取り付け位置はわりに分かりづらい(手前ポジション)

 という問題もある。

 

しかし、ケーブル直付けでアラウンド10kという比較的持ち出しやすい個体であり、外で聴くと低音の過剰気味な部分が若干薄れること、またチップの付け方によって若干の音色変化が楽しめること、イヤーチップの特性上静寂が得られるので業務で使っているSkypeでも聞き取りやすいことなどから、「1本だけ持っていくのなら」という場合に選ぶことが多く、仕事の鞄に高確率に放り込まれているイヤホン。

 

美しい「メタリックブルー」の筐体もかっこよいし。

 

 

 

 

 

 

 

...あとひとつだけ確認したいことがある...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タチコマ?

この造形、カラーリングはどこかで....
この造形、カラーリングはどこかで....

 

【HP-BKS21仕様】

本体重量:約18g(ケーブル含む)
タイプ:カナル型(耳栓型)

型式: ダイナミック型
ドライバー : Φ13.0mm
出力音圧レベル : 103 ±3 dB(@ 1KHz/100mV input)
再生周波数帯域:5Hz-40000Hz

最大入力:5mW
感度:103 ±3 dB(@ 1KHz/100mV input)
再生周波数帯域:5Hz-40000Hz
コード:約120cm
コードタイプ:Y型、ナイロンタイプ

プラグ:Φ3.5mm金メッキステレオミニプラグ

インピーダンス:17Ω±15%
ハイレゾ音源:ハイレゾ対応
付属品:コンプライイヤーピース(S、M)×各1セット、

    シリコンイヤーピース(XS、S、M、L)×各1セット、

    取扱説明書/保証書×1

 

ビックカメラグループオリジナルモデル radius HP-BKS21

更新: 2019/10/15
高音

高域にパーンと抜けているという感じはない

音場が近いので、抜けとか広さというのはあまり感じない。良く聞くと鳴ってはいるのだが。

更新: 2019/10/15
中域

音場が狭く「近い」ので意外に悪くない

あまり艶とか色気といった方向には行かないが、バック五月蠅めでも結構聞き取りやすい。

更新: 2019/10/15
低音

量は十分(特に奥ポジション)だが、質的にはもう少し..

密着性の高いDeep Mount Earpieceの効果もあって、質量を伴った沈み込みはイヤホンのレベルを超えている。ただ音質的には若干のっぺりとしている。

更新: 2019/10/15
音像

全ての音が近く、特に左右方向の広がりはない

ただ音源によってはそれが「迫力」に化けるので、その狭さが悪いことばかりではないが。

  • 購入金額

    11,138円

  • 購入日

    2017年01月14日

  • 購入場所

    ビックカメラ

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