銅の純度を競うような技術競争が繰り広げられていたオーディオ用の銅線ですが、その一方で1940~60年代頃の軍事用・通信用に用いられた銅線が音質の良さでもてはやされていたりもします。
特に1950年頃までに製造された米国Western Electronics製のケーブルや、1960年代辺りの旧ソ連製などは人気が高いらしいです。もっとも、個人的にはこの辺りはさほど興味が無いのであまり詳しくは分かりませんが…。
最新の技術で作られた高品位の銅線よりも、これらの何十年も前の銅線の方が良いという理屈はどうにも理解できませんが、それらに高い金を惜しげ無く払う人達がいる以上、それに見合った魅力があるということでしょう。もっとも、半田については昔の半田の方が良いという理屈は分かりますが。半田は環境問題への配慮から使われなくなった成分がいくつかあり、それらが音質的なメリットを持っていたという話は随所で耳にしますので。
高級オーディオケーブルを手掛けるWAGNUS.は、そんなビンテージワイヤーを積極的に、主にイヤフォンリケーブルとして製品化するブランドです。もちろん現代的な素材で作られたケーブルも多く用意されていて、私自身以前購入した同社製のChocolat Lilyは愛用の1本です。
そのWAGNUS.から、今までイベント会場等で販売された限定生産品の処分セールを行うというメールが来ましたので、商品リストを眺めていると、上記のような人気の高いビンテージワイヤーではなく、1970年代の東ドイツ製単線ケーブルを用いた製品が、WAGNUS.の通常ラインナップよりも若干安い程度に売られているものを見つけました。
今まで興味が無かったビンテージワイヤーですが、どのような良さがあるのか知っておくのも悪くは無いと思い、試しに購入してみることにしました。
このケーブルも通常ラインナップに含まれないため、製品紹介がイベント時の案内しか用意されていないようです。一応そちらを引用しておきましょう。
(以上、ポタフェス 2019 SUMMER 東京・秋葉原 特別販売リストより)
癖はあるが、上手くかみ合うと素晴らしい音に
今回のセールでは、プラグの仕様等は注文時に指定できる仕組みでしたので、いつも通りCIEM 2pin - 2.5mm4極バランスを指定しています。
ただ、今回は通常のプラグの他に、トープラ販売製の純銅プラグや銀メッキ黄銅プラグなどが選択肢として用意されていましたので、プラス3,000円で選択できる銀メッキ黄銅プラグを指定しました。そのため、本来は販売価格12,000円のケーブルではありますが、トータル15,000円という形となっています。
Chocolat Lilyはかなり簡素なパッケージだったのですが、今回はきちんとした形の保証書が入っていました。
パッケージ内にシリカゲルが入っている辺りはChocolat Lilyの時と同様ですね。
外観はいつも通りのWAGNUS.製ケーブルという印象です。純銀メッキのプラグは同じ銀色でも光沢がきついロジウムメッキとはかなり印象が異なります。
まずはケーブルの試聴時にリファレンスとしている、64AUDIO U3で聴いてみましょう。DAPはAstell&Kern KANNを組み合わせます。
第一印象としては、中低域の密度が濃く、ベースラインの力感が強まる一方で、ヴォーカルのサ行が強調され、ややきつさを伴う音というものでした。音場は標準よりはやや狭めですが、弦楽器のタッチ音などが妙にリアルで、楽曲によっては素晴らしく魅力的です。
U3は割合バランスが整ったイヤフォンですが、White Camelliaとの組み合わせではまるで個性派のイヤフォンに思えるほどに印象が変わります。ただ、総合的には普段組み合わせているLabkable製AZLA Silver Galaxy Mix+の方が音場が広くしなやかで聴きやすいサウンドということが出来るでしょう。
そこでWhite Camelliaを基準として、これに合うイヤフォンはと考えたときに候補となったのが、Noble Audio Sageです。
元々Noble AudioとWAGNUS.は関係が深く、Noble Audio製のカスタムIEMの代理店はWAGNUS.ですし、一部製品の内部配線や添付ケーブルもWAGNUS.製となっていますので、少なくとも大きく外れることはないだろうと考えたのです。
結果は予想以上でした。
Sageはバランスが整っていて、程々の広さの音場が極めて濃密に展開される一方で、やや抑制が効いたというか俯瞰で描写するような傾向の音質を持ちます。
しかし、これをWhite Camelliaと組み合わせると、今までの印象とは全く違って、演奏者を間近で描写しているかのような生々しさが出てくるのです。
特に70~80年代の洋楽との相性が絶品で、少々古めの音の楽曲でも、根本的なバランスこそ変わらないものの、古めかしさを忘れるような生っぽさが出てきます。「Hold The Line / TOTO」や「All By Myself / Eric Carmen」などをLPから起こしたような音源が特に素晴らしい鳴りっぷりです。
もちろん、White Camelliaはビンテージワイヤーというには安価なケーブルであり、その魅力を語るのは早計ではあると思います。しかし、相手を選ぶものの上手くハマったときの音質は確かに現代的なケーブルではなかなか出せないものでした。
今回は試聴無しで買ってしまいましたが、出来れば自分が使いたいイヤフォンを組み合わせた形で試聴して、惚れ込んだら買うというのが正しい気がします。癖があまりない現代的な製品とは異なり、癖は強い一方で魅力もたっぷりという存在です。
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購入金額
15,000円
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購入日
2019年08月06日
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購入場所
WAGNUS.直販
harmankardonさん
2019/08/07
スピーカーもそうですが,イヤホン自体が,高解像度でトランジェント特性が良い方向に向かっている気がします.そのため,ケーブルも製造技術の進歩もあり,その方向に流れている感じです.
でも,古いスピーカーにしか出せない音もありますから,結局は好みの問題ですね.
jive9821さん
2019/08/08
現代的な高品位ケーブルは、やはり幅広い組み合わせで高い性能という方向性があるものが多い気がしますね。
ヴィンテージはストライクゾーンは広くないものの、そこに上手く合致すれば素晴らしいということ、また特性的な優秀さよりも味のようなものが強く出るという辺りが持ち味と感じます。