今年は6月29・30日に開催された、かつてのオーディオフェアの後継イベントである「OTOTEN 2019」。
今回も気になる製品を聞くために足を運んだのですが、今回は今まであまり参加してこなかった出版社主催イベントにもいくつか参加してみました。
その中の一つが、以前から注目していたイベント「ボヘミアン・ラプソディ頂上決戦!」というもので、CD、Blu-ray Audio、ダウンロード、ストリーミング、レコードといった、ありとあらゆるメディアでQueenの名曲「Bohemian Rhapsody」を再生して、それぞれの音の違いを楽しむという企画でした。
これは元々雑誌「Net Audio」誌で連載されている「有形と無形のソノリティ」というコーナーの第1回企画として掲載された内容なのですが、その後も新しい媒体が登場していること、また雑誌掲載時には映画「ボヘミアン・ラプソディ」がそこまで話題になっておらず、今の方が明らかに反響も良いだろうということから、この誌面からの出張企画ということで開催されることになったものです。
実はこの内容については、数ヶ月前にこの企画を行われている評論家の一人である土方久明先生と、とある場所で話しをしたことがあり、そのときの結論が判るという意味でも興味があったのです。
予告のチラシなどでは、LPレコードとしては、安価ながら英国アビー・ロードスタジオでカッティングが行われ、意外なほど音質が良好と評判のデアゴスティーニ刊「クイーン LP コレクション」の創刊号となったアルバム「オペラ座の夜」(個人的にこれを土方氏にお薦めしました)も使われることになっていたのですが、レコード盤を用意されるのはもう一方の評論家である小原由夫先生の担当だったということで、このLP盤は省略されてしまいました。もっとも、その代わりに同じくアビー・ロードスタジオでカッティングされた、2015年年末の「Record Store Day」イベントである「Black Friday」向けに限定生産された、12インチシングル盤の「Bohemian Rhapsody / I'm in Love With My Car」が用意されていました。
当日はそれぞれのメディアに対して高価な機材を惜しげなく使い、それぞれが魅力的な音を出していました。強いていえばファイル・ストリーミング再生については、利用したifi Audio ProiDSDのキャラクターが支配的でちょっと不利な感はありましたが…。
レコードについては、英国初回生産盤の他、リリース30周年記念盤、前述の12インチシングルが用意され、Technics SL-1000Rで聴き比べとなったのです。ちなみに30周年記念盤は以前レビューで取り上げていますね。
30周年記念盤も決して悪いわけではないのですが、オーディオ的に良く聴かせてやろうという意図が強く感じられ、ちょっと低域を盛りすぎていたり、輪郭を強調している感があります。その点、デアゴスティーニ盤は肩の力が上手く抜けたバランスで整えられていて、あらゆる音色が自然に感じられますので、個人的にはこちらをお薦めしているのです。
いずれにしても、初回盤は独特に魅力はあるもののやはり音に古さがあり、30周年記念盤も悪くは無いものの前述の弱点があります。Mobile Fidelityの高音質CDや、ハイレゾFLACと比べればレベル的には似たようなもので、音色傾向の違いで好みが分かれそうという程度の音でした。
ところが予定時間をオーバーしそうということで、Queenのボックスセットに含まれている白いLPを飛ばして、小原先生が最後に再生するよう指示した、この12インチシングル盤を聴き始めた瞬間、驚きがありました。
それまでに再生していた高音質ソースはどれも飛び抜けて良いものはなく、傾向の違い程度でしかなかったのですが、12インチシングルだけは単純に音質が良いのです。情報量や生々しさという部分は他のどのメディアでも出し得ないものでした。ややノイズが多いことは気になりましたが、それでもこの曲はこの音で聴かなければ終わらないと思うほどでしたので、早速帰宅後に何とか入手できないかと調べてみました。
すると未開封品がヤフオクに出ていましたが、結局7千円を超えるという競り合いになってしまいましたし、それ以外は中古で1万円オーバーというほどであり途方に暮れたのですが、海外まで目を向けてみれば未開封品でも5千円以下というものがあることが判りましたので、英国に問い合わせて入手してみました。
プレスがやや雑だが、それでも音質はこれがベスト
英国のショップに注文してから、送料約8ポンドという安価な発送を選択したにもかかわらず、意外にも一週間程度で到着しました。
ジャケットに若干歪みが出ているということで、コンディション表記は新品よりは落ちることになっていたのですが、実際にはシュリンクすら破られていない完全な新品でした。
この程度の歪みであれば、Record Store Dayの限定生産アイテムとしてはごく普通のような気もします。今回の販売店がかなりコンディションに関してシビアに見ているところだったのでしょう。こちらとしてはとても有難いところです。
インナースリーブは特にデザイン等がされているわけではなく、黒一色のシンプルなものですし、皺も結構入っています。
開封時点で盤面に結構ゴミが付着していますが、輸入盤のレコードはこの程度のコンディションであることが一般的です。
それでは早速音質を確認してみましょう。再生環境は、Technics SL-1200G+audio-technica AT-OC9/III+Phasemation EA-200という組み合わせです。
印象としては、イベント時の感想とそれほど大きくは変わりませんでした。特にコーラスの質感やベースの唸りなど、30周年記念盤やデアゴスティーニ盤を明らかに大きく上回っています。
ノイズの多さは小原先生の所有品だけなのか、新品でも変わらないのかと思っていたのですが、結論から言えば新品時点で結構大きめなノイズが入ります。プレス時に何か異物でも付着したのではないかと思うような変な音飛びもありますし、折角の素晴らしいカッティングの良さを少なからず削いでしまっている感はあります。
それを差し引いても、やはりLP盤の音とは一線を画しているということは断言できます。このレコードを入手した直後に他のLPと並べて一気に比較試聴してみたのですが、決して本来オーディオ的に優秀とはいえない「ボヘミアン・ラプソディ」が、最も生々しく聞こえるのは12インチイングル盤であるのは間違いありません。
この音質は是非多くの方に体験していただきたいものですが、とにかく入手が難しいというのが最大の弱点です。実はイベント時にこの音を聴いた土方先生が「僕も自分の分が欲しい。探します」とコメントすると、小原先生がすかさず「僕の分も探して。予備が欲しい」と仰っていましたが、それだけ入手性が悪いということです。まあ、3年半も前の限定生産品ですから当然ではあるのですが…。
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購入金額
4,700円
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購入日
2019年07月08日
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購入場所
Vinyl Supply Drops (英国)
北のラブリエさん
2019/07/23
それは欲しいなあ。
Queen関係といえばThe Prophet's Songをブライアン・メイが5.1chに仕立て直した音源があって、あれは曲の雰囲気もあわせてなかなかすごいものでした。
あれもどこやっちゃったろうか・・・・
jive9821さん
2019/07/23
個人的には違いが大きいと思っているのですが、会場の周囲の反応やtwitterでの反応を見ると「どれも違いが分からなかった」というコメントも結構ありましたので、感じ方には個人差が、としか言い様はありません。
会が終わった後、土方先生に「最後の12インチだけ圧倒的でしたね」と言うと、「僕らはスピーカーの後ろで聴く形だったので、違いは分かっても会場側がどんな感じかは判らなかったんですけど、やはりそうだったんですね」というお話で、恐らく先生方もある程度大きな違いは認めていらっしゃるのだと思いますが…。