レビューメディア「ジグソー」

活動中止前のラストアルバム。「音楽」が「仕事」になった彼らの抵抗?

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。「好きなことをしてメシを喰う」音楽家や役者、プロスポーツ選手などのことを、そういう人もいます。一般の企業に勤める人にとってみれば、「うらやましく思える」のも事実です。しかし、完全に好きなことのみをやって、それが世の中に受け入れられ、生活が成り立つ人たちはごく一部です。そういう「音楽ビジネス」の中にあって、アマチュア出身のファンクバンドとしてデビューしたバンドの「悩みと迷い」が感じられる、活動休止前の最後の作品をご紹介します。

 

FLYING KIDS。バンドオーディション番組「三宅裕司のいかすバンド天国」、通称「イカ天」の初代グランドキング。「幸せであるように」のように沁みるバラードもあるが、「あれの歌」や「我想うゆえに我あり」といった不条理歌詞の「ド」ファンクが彼らの中心イメージで、そのエッセンスがギュっと詰まった1stアルバムは、番組自体の盛り上がりもあって結構なセールスを記録する(ランキング一桁)。

以降この路線で2nd、3rdとリリースされるが、3rd

の頃には番組自体の終了もあってか、徐々にセールスは下降した。

 

その後全編ゴスペルなどに振るなど、作品ごとにテーマを決めた、実験的なミニアルバム3枚

を挟んで、ポップス色を強めた曲調に脱皮、彼らのシングルとしての最大ヒット=“風の吹き抜ける場所へ 〜Growin' Up, Blowin' In The Wind〜”や、1st並のランクまでセールスを伸ばした10thアルバム、“真夜中の革命”

をリリースする。

 

本作“Down To Earth”は、それに続く11作目。シングルとしては18枚目、19枚目の曲を含む、彼らの活動休止前の最後の作品でもある。内容としてはそれまでのシティポップ路線から、原点回帰したような音になっている。

 

イロクなボイパとコーラスからアカペラ風に始まり、粗い音のギターリフと音像が大きなリズム隊が目立つ曲「New Adventure Part 2」による導入に続いて、実質上のスタートは、18枚目のシングルである「Love & Peanuts」。この曲はヘヴィ。ハマザキこと浜崎貴司のヴォーカルが初期のような粘りを見せ、まるで70年代ハードロックのようなツインギターによるリフと、四つ打ちのカウベルが、その直前まで追求していたシティポップス系の方向性とは全く異なる。ワウが効いたギターソロと、オルガン音色のキーボードで、音的には古典ロックの薫りもある。実質上の「1曲目」としては、それまでのポップス路線との違いを明確にした感じ。

 

続く「君にシャラララ」が、19枚目にして彼らのラストシングル(再結成後はシングルリリースはない)。音作りは若干デビュー時に近いようなファンキィでラフな感じの音作りだが(ゲートがかかっているドラムス除く)、メロディラインは(特にサビは)キャッチーでポップな曲。その組み合わせを新鮮ととるか、チグハグととるか...

 

ミスチルのドラマー鈴木英哉と、メンバーの中園浩之とのツインドラムによるラフなリズムがファンキィな「暴走ワールドセールスマン」は、ちょっとサイケチックなファンクロック。少し後期The Beatlesのような雰囲気もある。終盤に鈴木と中園による短いドラムバトルがあるが、その音作りもややライヴなバタバタとしたもので、古めの感じを出している。

 

この他にも、山本拓夫の軽やかなソプラノサックスの導入からポップに歌い上げる「この空、きっと晴れ」といったキャッチーな曲から、ピアノとハンドクラップにコーラスが美しいゴスペルチックな「ある男のメロディー」といった曲まであり、収められている曲のヴァリエーションは結構幅広い。デビュー当時のような「泥臭さ」もあって、ある意味「FLYING KIDSらしい」ともいえる。

 

ただ、この作品、聴いた当時はピンと来なかった。cybercatにとっての彼らの印象は、「イカ天で出てきたファンクバンド」というのが色濃かったが、実は世間的に一番売れたのは後期のシティポップス路線の時代。原点に還ったようなアクの強い18枚目のシングル「Love & Peanuts」はそれまで10枚続いていた連続チャートインを途切れさせ、ややポップス路線に切り戻した「君にシャラララ」によって再びチャートインしたが、この曲はファンクとしてもポップスとしても中途半端のような印象を受けた。

 

このアルバムを通して聴くと、彼らの「好き」と世の「求め」との間での迷いが感じられるような気がするのは気のせいだろうか。

 

その後彼らが活動を中止したことを聞いて、残念には思ったものの、意外には感じなかったのが思い出される。

 

「好きなことをしてメシを喰う」ことの難しさを感じた作品です。

この作品で、彼らの20世紀中の活動は終了する
この作品で、彼らの20世紀中の活動は終了する

 

※じゅんちゃんこと、浜谷淳子参加の最後の作品でもあり、女声コーラスが入った華がある曲はこの後しばらく絶えることになる。

 

【収録曲】

1. New Adventure Part 2
2. Love & Peanuts
3. 君にシャラララ
4. この空、きっと晴れ
5. 境界線
6. 旅の途中で
7. Bridge
8. New Adventure
9. 暴走ワールドセールスマン
10. ある男のメロディー
11. 気分上々 〜つながってゆく世界〜
12. My Friends

 

「君にシャラララ」

更新: 2019/07/01
必聴度

オンタイムで聴いていればわかる。彼らの迷いがわかる。

時を経て、単品で時系列関係なく聴くと、それぞれの曲は悪くない。ただオンタイムで時系列に沿って聴くと...

  • 購入金額

    3,045円

  • 購入日

    1997年頃

  • 購入場所

14人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • 北のラブリエさん

    2020/01/01

    このアルバム結構好きなんですけどね。
    「ある男のメロディー」とかかなり好き。
  • cybercatさん

    2020/01/01

    一曲一曲は悪くないし、前後関係なく聴くと悪くはないんですけれどね。
    ファンクとポップのバランスとか。

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