所持する音楽データに対する私利私欲．．．イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。 こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。最近ダウンロード販売の比率が増してきていますので、こういうシチュエーションはお目にかからなくなってきましたが、CDのマキシシングル華やかなりし頃は、その長い記録時間を無駄にしているように見させないために？表題曲のいろいろなアレンジが詰め込まれた作品が乱発されたものでした。そんななか、それぞれ曲に特徴があって「さすが」と思わせた作品をご紹介します。

Michael Jackson。いわずと知れた「King of Pop」。名曲「Billie Jean」を含む“Thriller”

は、MV（PV）を流す専門局（MTVなど）の興隆の時流に乗ってバカ売れしたが（史上最も売れたたアルバム）、その次の作品“BAD”

も十分「怪物」だった。「もうシングルカットする曲がない」と制作陣にとってうれしい悲鳴を上げさせた“Thriller”同様、“BAD”からも多くの曲がシングルカットされた。

そういった「シングルたくさん出したい」という状況の場合、カップリングを別曲にして曲を「浪費」するのではなく、表題曲のインスト版やライヴ版などを加えて、CDの時間数と曲数を稼ぐ手法がとられることがある。しかしこれらの多くは、イントロやアウトロにシーケンスパターンをただ繋いだだけの長尺版やヴォーカルパートを抜いただけのカラオケ（オフヴォーカル）など、たいして違いもしない曲をただ並べただけ、というパターンも少なくない。

そんな、水増し感が漂うことが多い「表題曲のミックス違い集」だが、さすがにMichaelクオリティはそんなことはなかった。

まず、1曲めのBruce Swedienのミックスによる「BAD (DANCE EXTENDED MIX INCLUDES "FALSE FADE"」が素晴らしい。ベースの音作りがこれだけ違ってデジタル感が増しているのも曲調に合っているが、構成そのものも良い。「EXTENDED」はダラダラ引き伸ばしているのもあるけれど、これはそんなことはなく、一通り歌い終わって、リズムが強調されたバックになってから、Michaelの「David!!」の掛け声で入るDavid Williamsのギターのカッティングのパーカッシヴなこと！ひとしきり演りおえて、フェードアウトしそうになったら…ブラスがガンって入って、よりキレの増すカッティングが冴える冴える。このアレンジ、しばらくこのマキシシングルが市場から消えて聴けなかったが、いまはベスト盤"KING OF POP"（UK盤）に収録されて、再び日の目を見ることに。ヨカッタ、ヨカッタ...

同じDANCE系でも、「BAD (DANCE REMIX REDIO EDIT)」は、御大Jimmy SmithのハモンドとMichaelの「Who's bad?」の掛け合いが素晴らしい。1曲目のように、フェードアウトしかけると言った構成的「仕掛け」はないので、曲としてのまとまりはむしろこちらの方が良いかも。

ラストの「BAD (A CAPPELLA)」だけが少し残念。「A CAPPELLA」というより、リズム楽器の一部を残してオケを絞っただけのミックス（オフヴォーカルの逆）。この状態でも、サビの部分のコーラスの美しさは堪能できるものの、歌がない部分はリズムボックス然としていてイマイチ。せめてベースラインだけでも、ベースヴォーカルだったら素晴らしかったのに。リズムもヒューマンビートボックスであれば完璧だけど。このアレンジだけは「水増し感」あり。

本作、アルバム“BAD”からの表題曲カットで「Thriller」同様、長いMVを作って話題になった。「アルバムセールス」としては“BAD”は“Thriller”に及ばなかったけれど、MVによるプッシュもあって？シングルのNo.1ヒット数としては大きく凌駕した。

ジャケットはアルバムとは異なる

でもそのセールスはこういったミックス違いを飽きさせない工夫をするといった、制作チーム全体で支えていたものなんだな、と思ったり。

表題曲5連発でもおなか一杯にならない、プロダクトとしての質の高さを感じる作品です。

【収録曲】

1. BAD (DANCE EXTENDED MIX INCLUDES "FALSE FADE")
2. BAD (7" SINGLE MIX)
3. BAD (DANCE REMIX REDIO EDIT)
4. BAD (DUB VERSION)
5. BAD (A CAPPELLA)

「BAD (DANCE EXTENDED MIX INCLUDES "FALSE FADE")」