レビューメディア「ジグソー」

専用アンプが不要なコンデンサー型ヘッドフォン

 

 

 

コンデンサー型(静電型などとも呼ばれます)ヘッドフォンといえば、多少なりともこの方面の知識をお持ちの方であれば、真っ先に思い浮かべるのは日本のSTAXではないでしょうか。

 

コンデンサー型の特徴を簡単に説明すると、「振動膜の両側を固定極で挟み、そこに電圧をかけることで発生した静電気により振動膜を動かして音を発生させる」タイプのヘッドフォンということになります。そのため、再生するためには常時電圧をかけ続ける必要があり、一般的なヘッドフォンアンプとは異なる、専用のアンプ(STAXの場合はドライバーと呼称しています)を要求します。

 

また、振動膜も一般的なダイナミック型よりも遙かに繊細なものであるため、湿気に弱いなどデリケートな一面もあります。

 

音質面でのメリットはあるものの、扱いにくいことから熱狂的な支持者を抱える反面広くは普及しないというのがコンデンサー型の特徴ともいえます。

 

しかし、本機をはじめとするMitchell and Johnsonのヘッドフォンで採用された「ELECTROSTATZ」方式は、コンデンサー型の長所を備えつつもダイナミック型と同等の使い勝手を実現するというものです。動作原理はコンデンサー型そのものなのですが、音楽信号に含まれる微細な電流だけで駆動を可能とする「セルフ・バイアス方式」であり、汎用のヘッドフォンアンプで動作可能となっているのです。

 

本機ではELECTROSTATZドライバーに加えて一般的な40mmダイナミックドライバーを組み合わせたハイブリッド型となっていて、ELECTROSTATZの弱点である低域方向を補うように設計されています。ELECTROSTATZについては、日本の公式ページで詳細が説明されていますので、興味のある方はそちらをご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回購入したのは米国の共同購入サイト「Massdrop」であるため、国内代理店を経由した正規輸入ではありません。その代わり、国内正規品で8万円(税別)という価格が付けられているこの製品が、Cyber Mondayセールにより$99.99(+送料)という手頃な価格で入手できています。

 

 

 

 

 

箱を開けると、キャリングケースだけが姿を現します。

 

 

 

 

 

一応携帯型として設計されているため、このようにコンパクトに収納されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハウジングはチェリーウッド製の天然素材です。決して綿密にデザインされているとは思わないのですが、この天然木の素材感はなかなか良く、日本における8万円という価格も理解できなくは無いと思わされます。

 

 

 

 

 

 

添付品はこちらの小袋にまとめられています。3.5mmステレオミニプラグケーブル、6.3mm変換アダプター、航空機アダプターという、シンプルな内容です。

 

ただ、この標準添付ケーブルの長さが1.2mしかなく、互換性がある交換用ケーブルも殆ど用意されていない辺りは少々困る点です。利用できるケーブルのピンアサインは公表されているのですが、これに沿ったケーブルはMitchell and Johnsonの国内代理店であるコンチネンタルファーイーストから提供されているもの以外に見かけないのです…。

 

更新: 2019/01/18
音質

ダイナミック型とも、他のコンデンサー型とも違う

専用アンプが必要ないという最大の特徴がありますので、普段のヘッドフォンの試聴と同様にFOSTEX HP-A8で試聴しました。

 

 

 

 

 

Mitchell and Johnsonのヘッドフォンは、実は今までに使ったことは全くありませんでした。あまりに安かったので買う気になり、そこで仕様を調べてコンデンサー型であることが判ったため、何となくですがSTAXの現行商品(SR-L500/L300等)に近い音を出すのかな、と想像していた程度です。

 

しかし、最初の音出しでその予想は大きく覆されました。

 

所謂バーンインが済んでいなかったためだと思うのですが、低域がかなり薄く中域が張り出し、密閉型とは思えないほど音場は広がるという辺りが第一印象でした。

 

傾向としては面白そうだと思ったのですが、何しろ低域があまりに薄すぎました。低域側のダイナミックドライバーがほぐれていないためではないかと考え、取り敢えず計100時間程度大きめの音量でひたすら音楽を流し続けた上で、再度試聴してみました。

 

すると依然として低域は薄めではあったのですが、周波数的にはかなり低いところまできちんと出るようになり、力感もかなり出てくるようになりました。聴いていられる程度にバランスが整いましたので、以下はこの状態で評価した内容となります。

 

 

まずは「Great Expectation / TOTO」を聴いてみると、この録音でこんなに細かい音が入っていたのかと感心するほどにヴォーカルの息づかいなどがはっきりと聞こえてきました。ただ、バスドラムのアタックが弱く、ロック系の楽曲としてはちょっとソフト過ぎるかなと感じる部分はあります。ハイハットの繊細さは圧倒的ですし、空間の広さはとても密閉型とは思えないほど広がる辺りで、かなりの強い個性を感じさせられます。

 

次に「Shape Of My Heart / Sting」を聴いてみると、ギターのピッキングは柔らかめですし、胴鳴りもそれほど豊かに出るわけではないのですが、エコー成分が豊かで他では聴けない独特の空間を構築します。

 

「I Was Born To Love You / Queen」では低域はやや軽く感じるものの、フレディ・マーキュリーのヴォーカルが耳元で歌っているような存在感を見せますし、ブライアン・メイのギターの艶やかさが特徴的です。人工的なエコー成分の表現が絶妙でとても爽快な音となり、この曲ではかなり魅力的な音でまとまります。

 

「America / Simon & Garfunkel」はポール・サイモンの声質と抜群の相性を見せ、この曲のように彼の声が主導するハーモニーが他のヘッドフォンとは一線を画すほどに綺麗に再生されます。また、バックのギターの細かいピッキングが手に取るように判るほど微細な表現に優れていることもわかります。

 

先日掲載した「デジタル・プレイ・バッハ」の「Prelude No.2 In C Minor / Jacques Loussier」はベースラインの存在感がやや希薄ではあるものの、ピアノの煌びやかさが圧倒的で、ジャック・ルーシェの演奏が引き立ちます。

 

 

全体的な傾向としては、

 

・低域は周波数的には問題なく出ているが、量がやや少なめ

・音場の広さは密閉型ヘッドフォンらしからぬもの

・中~高域にかけてはかなり微細な音まで鳴らしきるが、刺激がなくソフトな当たり

 

という辺りの特徴が共通してみられました。少なくとも、今まで使ったヘッドフォンの中では群を抜いて個性的な音ですが、質が低いものではなく今までの評価の尺度では結論を出しにくいものがあります。この個性は体験しないとわかりにくいものです。

 

決して万能型ではありませんので、ヘッドフォンをこれ1本に絞って使うのはあまりお薦め出来るものではありませんが、他に信頼が置けるヘッドフォンを持った上で、使い分けるために持っておくという用途であればとても魅力的な製品であることは確かだと思います。

 

日本の正規輸入品に付けられた8万円という価格も、率直に言えば割高だと思いますが、この製品ならではの音に惚れ込んだ人であれば、払っても惜しくない金額といえるかも知れません。

  • 購入金額

    12,913円

  • 購入日

    2018年12月25日

  • 購入場所

    Massdrop

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