今から20年前の10月25日、一人のヴォーカリストが精神疾患との戦いの末に自死を遂げました。その名はウォーレン・ウィービー。
恐らくAORに詳しい人か、日本のアニメ愛好家のごく一部の方しかその名を聞いてもピンとこないでしょう。デイヴィッド・フォスターやバート・バカラックという超大物プロデューサーに才能を高く評価され、彼らが事あるごとに重要な役割を任せるほどのシンガーであったにもかかわらず、彼にはソロ名義のアルバム1枚残されていないのです。
彼のヴォーカルが大々的にフィーチャーされたのは、デイヴィッド・フォスターのソロ作「River Of Love」で実質的にリード・ヴォーカリストを務めた辺りでしょうか。また、同じくデイヴィッド・フォスターが主導して制作された湾岸戦争チャリティー曲「Voices That Care」でも曲を締めくくるソロ・ヴォーカルが彼の美声でした。
先に日本の一部アニメファンという話を書いたのは、「機動新戦士ガンダムX」のエンディング曲「Human Touch」が彼のヴォーカル曲だったことによるものです。私自身はガンダムシリーズに特に興味が無くこの話は知らなかったのですが、ヴォーカルをウォーレン、作・編曲をトム・キーンが務め、ファンの間で佳曲として知られているそうです。
先に述べた通り大物プロデューサーに高く評価されていた彼は、一般に発表されている楽曲よりも遙かに多くのデモ・トラックの制作に関わっていて、その歌声も各所に多く残されています。本作「Original Demos」は、そんな彼の残したデモ・トラック音源を中心に集めた貴重なアルバムとなっています。
この風貌からは全く想像できないほどの美しいヴォーカルが彼の最大の魅力でした…。
歌声はただただ素晴らしい
まずは収録曲を振り返っておきましょう。
01 The Colour Of My Love
02 Live Each Day
03 Never Take That Chance Again
04 Love Made Me Wait
05 A Little Thing Called Life
06 The Echo of Your Whisper
07 You're Welcome In My Life
08 Spend A Little Time With You
09 17 Years
10 Nothing That I Wouldn't Do
11 The Day I First Saw You
12 Lorelei
13 Don't Tell My Heart
14 Make A Wish
1曲目の「The Colour Of My Love」は一般的にはセリーヌ・ディオンの楽曲として知られていますが、この曲のデモを制作する際には彼のヴォーカルが使われていました。
この曲を歌うよう言われたセリーヌ・ディオンは、デモを聞き終えると「この人の後では歌える気がしない。聴いたことがないほど素晴らしい声だもの」と語ったというほどでした。ここでは、そのデモ・トラックが収録されています。
2曲目の「Live Each Day」はデイヴィッド・フォスターの作品を集めたカバー集「Fly Away」に収録されていた曲ですが、完成版だった「Fly Away」収録バージョンとは異なる、いかにもデモというアレンジで収録されています。この曲を堪能するのであれば間違いなく「Fly Away」の方をお薦めしますが、制作過程を知るという意味ではこちらもやはり必聴でしょう。
苦しみ抜いた末に自死を選んだ彼が「一日一日をベストを尽くして生きていく」と歌い上げるこの曲は、特に背景を知ってしまうと泣けてきます。
全ての曲について語ってしまうとキリがありませんので程々にしておきますが、アレンジが不完全だったり音質的にイマイチだったりと、完成品のアルバムと比べればそれなりに難があることは間違いありません。
しかし、彼の業績の一端がこうして一つの作品としてまとめ上げられたということが、この作品の大きな存在価値です。デモ・トラックでも充実したヴォーカルを聴いていると、リリースされたことに感謝という気持ちに自然となってくるのです。
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購入金額
2,600円
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購入日
2018年11月16日
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購入場所
芽瑠璃堂
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