レビューメディア「ジグソー」

3枚目のシングルとしては、一般的なアピール度は高くはないが、ツウ的には極上

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。「シングル曲」。それはそのアーティストにとっては、アルバムという自分のフィールドに引きずり込むための「プレゼンテーション曲」でもあります。そのため、キャッチーで耳に付きやすい曲が選ばれる傾向にあります。特にアーティストが「売れる」前の初期の曲にはその傾向が強いモノです。そこをあえて?ボサノヴァ系の軽いタッチの曲で行ったヴォーカリストの作品をご紹介します。

 

bird。日本の女性シンガー。最近数年間新規オリジナル音源をリリースしていないが、他者作品への参加やライヴで、まだ継続的に永く活動しているアーティスト。

 

前世紀末に多く輩出された、いわゆる「Japanese Soul DIVA(もしくはJapanese R&B DIVA)」の一人。このカテゴリーは、宇多田ヒカルを筆頭に、MISIA、LISA、Sugar Soul、DOUBLE、UA、YUKI、少しはみ出し気味なのまで入れると倉木麻衣や安室奈美恵、加藤ミリヤあたりもこの範疇。

 

この中でもbirdは、ややジャズっぽいクラブちっくな攻め方で独特なポジションにいた。その最初期にはアシッドジャズ系のDJ&ベーシストである大沢伸一(MONDO GROSSO)のプロデュースを受け、特にその印象が強い。

 

その後彼女は大沢の元を離れ、いくつか自分の径を探った後、ハイパーテンションかつハッピーなヴォーカルを前面に出して再起動、

その後も2015年の最新作では冨田ラボこと冨田恵一とガッツリ組んだ作品を創るなど、独特な路線で自己を表現している。

 

そんな彼女の大沢時代の3rdシングルが本作、“君の音が聴こえる場所へ”。表題曲が3パターンのリミックスで収められ、加えて2ndシングル表題曲「BEATS」の表題曲が収められるという構成。

 

「同一曲のリミックス詰め合わせ」は飽きることが多いのだが、この3曲は全てリミキサーが異なるからかどれも味わい深い曲調になっている。

 

まず「基本」とも言うべき、大沢の手がけた「君の音が聴こえる場所へ(Single Mix)」。クラベスの乾いた音色によるクラーベのリズム(スリー・ツー)とスネアプレイ中心に構成されたリズム、ラテンな感じの生ギター、ウッベのようなフレーズで攻めるベースとバックのあらかたが大沢による演奏・マニピュレートで、そこにゆったりとしたプレイで色を添えるのが島健のピアノ。名機AKAI MPC3000による温度感のあるリズムに、けだるげに乗るbirdのヴォーカル、「シングル曲」に求められるインパクトは、表面的には少ないが、この曲調で攻めてきたことに大沢のセンスと、それにキッチリ応えたbirdの力量が垣間見える。

 

キラキラとしたシーケンスパターンで始まる「君の音が聴こえる場所へ(Space,Time & Life Mix)」は、曲に入るとビートが元曲のクラベスからリムショットに変更され、ピアノの音がアタックとその残響だけになって生ギターが前面に出てきたことで、ずいぶんボサノヴァテイストが前に出たオシャレなイメージに。このテイクはMONDO GROSSOの元メンバーが参加するCOSMIC VILLAGEから、元メンバーでは「ない」2人、沖野修也と黒羽康司が手がける。ギタリストでもある黒羽が追加でギターを入れていて、元曲からは結構異なった風合い。

 

3曲目の「君の音が聴こえる場所へ(London Elektricity Mix)」はドラムンベース系のサウンドメイカーLondon Elektricity(Tony Colman+Chris Goss時代)によるリミックスで、「リミックスらしい」リミックス。BPMは速められ、リズムは8ビートに、ベースがシンベのようなループになって、ゆるやかなボサちっくだった原形はまったくない。所々に差し込まれる残響多めのフルートのような音色のオブリがスリリング。外人らしい?思い切りの良さで?birdの声も素材の一つとして切り貼りされている(日本語としての文節や単語で区切られていないサンプリングもある)。birdのヴォーカルを「味わう」感じではないが、メチャ踊れる曲になっている。

 

この3曲は同一曲三連荘なのに、それぞれ違う味があって水増し感がなく、全く飽きさせない。大沢が全てをコントロールしようというのではなく、まかせきったのがよかったのかもしれない。ま、「まかせられる」リミキサーを選択した大沢のプロデューサーとしての力量かも知れないが。

3枚目にして全くアーティストが写っていないジャケットも攻めてる?
3枚目にして全くアーティストが写っていないジャケットも攻めてる?

 

一聴すると「地味目」な曲を、比較的売れた2ndシングル“BEATS”の後に持ってきた、稀代のサウンドメーカー=大沢伸一のCOOLで粋なセンスと、表面的なインパクトには乏しい曲を歌いこなしたbirdの声の存在感を感じる曲です。

 

【収録曲】

1. 君の音が聴こえる場所へ(Single Mix)
2. 君の音が聴こえる場所へ(Space,Time & Life Mix)
3. 君の音が聴こえる場所へ(London Elektricity Mix)
4. BEATS(DJ Murphy Mix)

 

「君の音が聴こえる場所へ(Single Mix)」

更新: 2018/08/16
必聴度

シングル曲に求められる「掴み」は弱いが...

耳に入ってくると、そのグルーヴに身を預けたくなる。そんな曲。そんなリミックス。

  • 購入金額

    1,223円

  • 購入日

    1999年頃

  • 購入場所

11人がこのレビューをCOOLしました!

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