真空断熱ステンレスボトルでお馴染みのTHERMOS(サーモス)がオーディオ事業を展開するために発足したブランドがVECLOS(ヴェクロス)でした。イヤフォンとしてはチタンボディのEPT-700/EPT-500、ステンレスボディのEPS-700/EPS-500の計4モデルが発売されました。
型番の数字が700のモデルはBAドライバーを2基、500のモデルはBAドライバーを1基搭載する製品となります。今回取り上げるのはEPS-500ですので、ステンレスボディのシングルBAドライバーモデルです。
このシリーズのイヤフォンは2019年のOTOTENで全て発売前の状態ながら試聴が可能で、あまり客もいなかったので全モデルじっくりと聴かせていただきました。異業種からの初参入としてはなかなか完成度は高いと感じられたものの、価格設定は結構厳しいかなと感じていました。結構色々と意見を求められたので「恐らく700が2BA、500がシングルBAだと思う(この時点ではスペック等は非公開でした)が、それぞれ音のまとめ方は十分に良いと思う。ただ構成を考えるとちょっと割高感があるので何か他に売りがないと厳しいかも」という内容を答えた覚えがあります。
自画自賛となってしまいますが、結果として私の予想はほぼ完全に当たってしまい、そこそこ高い評価と評判は呼んだものの売り上げはダメだったようで、後継製品がないままVECLOSブランドは消滅してしまいます。撤退直前には各モデルが初期価格の半額で販売されていた時期があり、そのうち買おうと思っていたのですが、ブランド撤退で入手不能となってしまったのです。
ところが今年の3月に、新宿ビックロに短期間設置されていたアウトレットフロアで、シリーズ最下位モデルのEPS-500が安く売られているという話を聞きつけ、都内に出向いたついでに捕獲してきた訳です。以前取り上げたiBasso Audio IT04と同時に購入したものです、
収納された状態の写真でおわかりいただけると思いますが、MMCX端子によるリケーブルに対応します。標準添付のケーブルは3N OFCという微妙な表記の導体を採用しているもので、チタンハウジング採用のEPT系標準添付の銀コート4N OFCよりも格が落ちるものとなります。もっとも、OTOTENにおける説明ではグレード差のためではなくハウジングとの音質傾向上の相性を重視した結果とのことでしたが。
一応キャリングケースとしてソフトポーチが用意されています。
EPS型番はちょっと地味に感じるブラック塗装が施されています。EPT型番ではほぼ同じデザインながら金色の塗装となります。
レンジは狭いがとてもバランスが良く微細な表現に優れる
それでは試聴してみましょう。試聴環境はCayin N6ii/R01で、標準添付ケーブルをそのまま使うためシングルエンド接続となります。
まずシングルBAとして、帯域幅は標準的な水準であるものの、出ている帯域のバランスがとても良いことに気付きます。さすがに低域方向に関しては本当に低い部分は出ていませんし、例えば「アトムの子 / 山下達郎」の圧倒的な低域のエネルギー感は出てきませんが、シングルBAならではのふわりと広がる音場や、ヴォーカルの細かなニュアンスなどは好印象です。低域が不足していると感じるのと同様に高域もそれほど上まで伸びている訳ではなく、シングルBAで可聴範囲を全てカバーすることの困難さは感じられます。ただ、その不足している感覚はどちら側に偏っているという訳ではなく、どちらも少しずつ足りないという印象であり、このバランス感覚はかなり優秀でしょう。
アルバム「Bridge Over Troubled Water / Simon & Garfunkel」(Mobile Fidelity盤)を聴いていても、表題曲はもう少しスケール感が欲しいと思えるのですが、「So Long, Frank Lloyd Wright」の雰囲気はかなり良いのです。まあ、グイッと迫ってくるような音ではなくやや俯瞰で描写しているような感覚はありますので、この辺りで好みが分かれる可能性はありますが。
なお、バランス接続を試すためにケーブルをPioneer JAC-BM12C1に交換してみました(2.5mm-4.4mm変換にはCayin PH4Xを利用)が、出ている帯域こそ大差ないものの低域方向の力感と高域方向のクリアさは一定レベル増しました。JAC-BM12C1はONKYO Directで1,980円で普通に買えますので、このケーブルのコストパフォーマンスはなかなか良好かも知れません。
EPS-500はシングルBAイヤフォンとして十分に高い完成度を持っていましたが、何しろ発売時点での価格はちょっと強気すぎたと思います。VECLOS側の説明では、このときに発売された4モデルは上下関係ではなく音質傾向で選んで貰いたいということから大きな価格差を付けなかったらしいのですが、個人的にこの戦略が間違っていたと思います。むしろブランドに対する取っかかりとなるEPS-500を敢えて安めに売って「VECLOSのイヤフォンもなかなか良いぞ」と思わせるべきだったと思うのです。実際発売時点でEPS-500が2万円前後だったら結構売れた可能性は高いのではないかと感じさせるだけの実力は備えていましたから。
折角良い製品を作っていたのに、販売戦略で正当な評価を得られなかったのがVECLOSの製品というイメージです。
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購入金額
6,298円
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購入日
2022年03月13日
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購入場所
ビックロ
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